テラーノベル
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あの浜辺での会話を境に、二人の距離は少しずつ縮まり始めていた。
職員休憩室や廊下で顔を合わせるたび、優人は自然と七星に声をかけるようになった。
七星は相変わらず不愛想だが、無視するわけにもいかず、最低限の愛想で応じている。
そんな二人の変化は、やがて看護師たちの間でも噂になり始めた。
由希以外にも優人に好意を寄せる看護師は多く、目ざとく気づかれ、二人の関係が徐々にささやかれるようになっていった。
夜勤との引継ぎの前、ナースステーションで片づけをしていた数名の看護師が、由希に声をかけた。
「由希さん、 知ってます?」
呼ばれた由希は振り返り、落ち着いた声で返す。
「知ってるって、何を?」
「最近、“キャバ嬢七星”が調子に乗って尾崎先生と親しくしてることですよ」
「ああ、あれね」
もちろん、優人を狙っている由希は、誰よりも早く二人の変化に気づいていた。
彼女の目には、七星よりも優人のほうが積極的に声をかけているように映った。
だが、それは田舎の野ネズミが珍しくて、ちょっかいを出しているだけだろうと高をくくっていた。
優人は東京の資産家の息子だ。今まで七星のような不良で雑種のような女が周囲にいたことなどないのだろう。
だから、ただ珍しくて興味を持っただけ。
あんな品も教養もないキャバ嬢上がりの安い女を、優人が本気で相手にするはずがないーー由希はそう信じていた。
「気にならないんですか? 妙に親しく見えるんですけど」
「ふふっ、心配ないわよ。だって歳も離れてるし、育った環境だってまったく違うでしょう? だから、珍しいだけよ」
由希の余裕ある言葉に、後輩ナースが感心したように頷く。
「さすが由希さん! そうですよね~、将来性のある名医が、あんな小娘に惹かれるわけないですもんね」
すると、もう一人の看護師も頷きながら言った。
「そうよね~。もしかしたら、妹みたいに思ってるのかも」
そのとき、それまで黙っていた新人看護師が、おずおずと口を開いた。
「あっ、あの……」
「川奈さん、何?」
「えっと……。実は私……聞いちゃったんです」
「聞いたって、何を?」
「その……看護助手の遠坂さん、尾崎先生の亡くなった奥様にそっくりだって……」
川奈の言葉に、三人はぎょっとして目を見合わせた。
「噓! そんなドラマみたいなこと、あるわけないじゃない」
先輩ナースに詰め寄られた川奈は、怯えたように続けた。
「私、尾崎先生と院長がロビーで話していたのを、偶然聞いちゃったんです」
「「ええっ? 本人が言ってたの?」」
先輩看護師の二人が声をそろえると、由希が驚いたまま川奈に尋ねた。
「それは事実なの?」
「はい……」
「どのくらい似てるって?」
「瓜二つだって……。すみません、もっと早く言えばよかったです」
「ううん、いいのよ。教えてくれてありがとう」
由希は怯える川奈の背中を優しくとんとんと叩き、何事もなかったかのように看護師たちに向き直った。
「じゃあ、ラストのラウンド行ってくるわね」
「「「行ってらっしゃい」」」
三人に見送られながら、由希は笑顔を浮かべてナースステーションを出た。
だが、廊下の角を曲がった瞬間、その表情は般若のような恐ろしい顔へと変わった。
ーーその頃。
七星は帰り支度をしながら、百花とおしゃべりをしていた。
着替えを終えた七星に向かって、百花が切り出す。
「最近、尾崎先生とやたら話してない?」
七星はきょとんとした顔で答えた。
「そうかな?」
「うん。あ、でも、どっちかっていうと七星はシカトしてて、尾崎先生が一方的に声をかけてる感じだけどね。ね、なんかあった?」
興味津々に百花が顔を覗き込むと、七星は慌てて手を振った。
「ないない、あるわけないじゃん」
「ふーん。でも、看護師たちの間ではもう噂になってるみたいよ」
「えっ?」
「尾崎先生と七星が仲良しってこと。迫田さんが言ってた」
まさか自分が噂になっているとは思いもしなかった七星は、驚いたまま口を開いた。
「噂になることなんて、何もしてないし」
「だよね。でも、気になる~」
「はいはい。期待させて悪いけど、まじで何もないから」
そう言いながら、腕時計をちらりと見た七星は、思わず声を上げた。
「あっ、もうこんな時間だ!」
「ああ、今日は事故で亡くなった友達の命日だって言ってたね」
「うん。みんなで集まって飲むんだ」
「七星の高校時代のメンバーは、みんな仲いいよねー」
「そうかな?」
「羨ましいよ。あたしなんて同窓会だって全然ないし」
「今度、何かイベントあったら百花も誘うから」
「やったー! ありがとう」
「じゃあね、お先!」
「お疲れ~」
七星は勢いよく控室を出ると、バタバタと走りながら通用口へ向かった。
勢いよく走る七星を見て、偶然通りかかった院長・野中が声をかけた。
「おや? 七星ちゃん、なんか急いでる?」
「あ、院長先生。お疲れ様です」
走っていた七星は、声をかけられ急に立ち止まった。
「ずいぶん急いでるね。今日は何かあるの?」
「事故で亡くなった友人の命日なので、みんなで追悼の会をするんです」
「ああ、たしか事故のとき、うちの病院に運ばれた人だよね?」
「はい」
「いや~、あのときは悔しかったな。もっと早く搬送されてればってさ……」
「院長のせいじゃないですよ。どこへ運ばれても手遅れだったと思いますから」
「ははっ、お気遣いありがとう。じゃあ、気をつけて!」
「はい! お先に失礼します」
軽く会釈すると、七星は再びバタバタと走りながら通用口へ向かった。
コメント
12件
怖い😱由希‼️ あなたの考え方間違っているし 結構裏でナースとか助手さんいじめていて自分が気に入った人に近づけ無い様にしていたと見た‼️ それでは素直な亡き奥様に似た七星ちゃんには勝てないよ それに優人先生も七星しか見えてないと思うな 今日の追悼の会 七星ちゃんにとって大切なひとだったのかな? 手術中に亡くなるというところも優人先生と似ていてさらに二人の気持ちを近づけていく様に感じるな
般若のような平子由紀怖いよーー😱 嫉妬に駆られて嫌がらせが始まる予感が…💦心配だよーー💦 でも、七星ちゃんなら嫌がらせも撃退しちゃうかもね🤭
平子由希…怖い😱ですね~ 看護師仲間通しの噂話も怖いですね 😰💦 七星ちゃんは気にしてないみたいですが…心配です🥺 負けないで!七星ちゃん٩( •̀ω•́ )ﻭ
#幼なじみ