テラーノベル
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午前の陽射しがやけに眩しかった。
山の空気は澄んでいるはずなのに、胸の奥だけが重く濁っている。
校外学習の班行動。五人一組で、指定されたコースを回る。
地図とプリントを握りしめ、遥は班の後ろを黙って歩いていた。
最初から、違和感はあった。
話しかけようとすると、誰かがさりげなく会話を切り替える。
集合写真を撮るときには、自然な流れで輪の外へ追いやられる。
「ごめん、ちょっと向こう見てて」と言われ、気づけばもう誰もいなかった。
スマホの画面を開く。
班のLINEが、絶えず更新されている。
〈あと少しでゴール!〉
〈売店きたー!〉
〈アイス食べよ!〉
笑いに満ちた絵文字が並ぶ。
遥は慌てて打ち込む。
〈今どこ?〉
〈俺、はぐれた〉
すぐに既読はつく。だが、返事はこない。
「既読スルー」ではない。誰かがスタンプを送る。
〈🍦〉
〈www〉
〈あっちー〉
“無視”ではなく、“弄ぶ”ような、沈黙の遊び。
焦りが喉を焼く。
どこをどう歩いても、知っている背中が見えない。
次第に汗が冷え、風が肌に刺さる。
班の子たちはきっと、近くにいる。
でも——自分の声は届かない。届かないようにされている。
スマホの画面が滲む。
何度目かのメッセージを打とうとして、指が止まる。
〈なんで置いてった?〉と打ちかけて、消す。
そんなこと、聞く資格はないような気がして。
ベンチに腰を下ろすと、足が震えていた。
リュックの重さよりも、視線のない空気が重い。
誰も責めてこない。
でも、誰も待っていない。
時間がわからない。
笑い声が遠くから聞こえた気がして顔を上げるが、
ただ風が木々を揺らしているだけだった。
「……俺、また……」
声に出した瞬間、喉が詰まる。
何を言いたいのかもわからない。
ただ、自分が“また”選ばれたということだけが、
痛いほどに分かっていた。
LINEに新しいメッセージ。
〈迷子くん、がんばれ〉
〈ヒント:人のいない方〉
〈今、後ろ見たらいたりして〉
指が震えて、スマホを落とした。
画面に映る自分の顔は、笑おうとしているようにも見えた。
“笑えば、少しはマシになる”と信じたあの頃の名残。
でも、もうその笑い方さえ思い出せなかった。
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