テラーノベル
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どれくらい寝ていたのだろうか。
外は既に明るく、ガラス戸から朝陽が部屋に深く差し込み、オレンジ色に染め上げている。
喉の渇きで目が覚めると、昨晩まで俺の腕の中にいた由恵がいない。
シーツの温もりも消え失せ、すっかり冷えている。
シャワーでも浴びているのだろう、と考え、俺はボクサーショーツを履き、ガウンを羽織ると、備え付けの小型冷蔵庫に足を向けた。
ミネラルウォーターを取り出すと、ベッドに腰を下ろし、半分ほど一気に飲み干す。
だが部屋の中は、昨夜の情事など、一切なかったような静けさに包まれていた。
──昨日、由恵を抱いたのは夢だったのだろうか?
ボーッとした頭の中で、俺は思考を辿々しく巡らせていたが、ベッドから立ち上がるとシャワールームに向かい、ドアを開けた。
「由恵……?」
洗面台をぐるりと見回してみても、シャワールームを覗いてみても、女の着替えとシャワーを浴びた痕跡はない。
──まさか……!
慌てて部屋の出入口に向かうと、女の履いていた靴はなく、俺の黒い革靴だけがポツンと置き去りにされていた。
「マジ…………か……よ……」
部屋に戻った俺は、残りのミネラルウォーターを全て飲み干すと、スーツの上着のポケットからスマートフォンを取り出す。
ゴシック体の六時四十五分の下に表示されている、通知センターのダイアログに視線を移すと、昨夜の二十三時過ぎに嫁からの着信、さらに一時間半ほど前に、由恵からアプリ経由でメッセージを受信していた。
嫁の着信履歴をスルーしてダイアログをタップし、女からのメッセージを確認する。
『夏樹さん、素敵な一夜をありがとう』
整然と並ぶ無機質な文字の列を見て、俺の奥が握り潰されたように苦しくなった。
と同時に浮かび上がる、罪悪感のようなもの。
これが嫁に対してなのか、女に対してなのか、俺自身もよく分からなかった。
──凌辱まがいの抱き方をしたというのに、由恵にとっては『素敵な一夜』だったというのか。
無音の空間の中で、女のメッセージが色彩豊かに映し出されているように見えてしまう。
ローテーブルに視線を移すと、部屋代と思われる一万円札が、無造作に乗せられていた。
「せめて…………俺の顔を見ながら……言ってくれよ…………由恵……」
俺の中には、歪な愛惜だけが朧気に残っているのを、今さらながら思い知らされた。
女が置いていった万券を拾い上げた瞬間、ぽっかりと穴が空いたような虚しさに襲われ、呆然としながらベッドに腰を下ろす。
由恵からのメッセージを表示させたまま、スマートフォンを傍らに放り投げると、俺は項垂れ、頭を抱えながら髪を掻きむしった。
コメント
1件
うわああああ…読んでて胸がぎゅーってなったよ😭💔 「素敵な一夜」ってメッセージと、一人ぼっちのベッドの温度差えぐすぎる…。 由恵さんの優しさが逆に夏樹さんの虚しさを引き立ててて、もう読んでるこっちまで苦しくなった…。 「せめて顔を見ながら言ってくれ」って台詞、マジで刺さった。 この虚無感、続きが気になりすぎる…!! #ゆめかの感想スレ
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