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2話 129除外のウワサの中で
入口は静かすぎた。
足音が吸い込まれて、
返ってこない。
床は均一で、
継ぎ目が見当たらない。
壁も天井も、
汚れも傷も残っていない。
番号を入れて、
一歩進んだだけなのに、
空気が違った。
高い。
とにかく上まで遠い。
見上げると、
階層が重なっているのがわかる。
同じ形の窓。
同じ間隔。
同じ配置。
「すごいでしょ」
軽い上着に、
小さな鞄。
肩の横で、
ぬいぐるみほどのサルが
ゆっくり揺れている。
慣れた足取り。
リカは、
少し遅れて歩く。
袖が長めの服。
団地で着ているものと
変わらない。
腰元で、
電子マネーのキーホルダーが
小さく触れ合う。
半端な残高。
よく使う一つ。
存在感の薄いお守り。
ここでは、
全部が場違いに見えた。
別の友達は、
髪をきちんとまとめている。
端末を何度も確認し、
残高を無意識に調整している。
無駄がない。
もう一人は、
少し派手な服装。
複数のキーホルダーを
まとめて持ち、
歩くたびに音が鳴る。
この空間では、
その音だけが浮いていた。
人はいる。
通り過ぎる。
止まらない。
視線が合わない。
店舗は並んでいるのに、
呼び込みがない。
声がない。
立ち止まる理由もない。
「便利でしょ」
そう言われて、
リカは頷いた。
便利なのは、
確かだった。
移動も、
買い物も、
迷う必要がない。
全部が、
用意されている。
なのに、
どこにも腰を下ろしたくならない。
窓際に立つ。
下を見ると、
同じ形の通路が続いている。
奥行きだけが増えて、
終わりが見えない。
「ここ、住みやすいよ」
軽い声。
冗談とも本気とも
つかない調子。
リカは、
返事をしなかった。
頭の中に、
港が浮かぶ。
防波堤。
低い波。
団地の階段。
寂れたショッピングセンターの
剥げた案内板。
比べるまでもなく、
差ははっきりしている。
それでも、
どちらが近いかは、
別の話だった。
帰り際、
四次元装置を操作する。
番号を入れる。
確定。
表示された行き先を見て、
少しだけ、
息が緩む。
戻る場所があることを、
このスポットで、
はっきりと感じていた。