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3話 ちょっとした小旅行
最初のスポットは、
出口のすぐ先に道があった。
床の素材が切り替わるだけで、
段差はない。
視界の奥へ、
舗装がそのまま伸びている。
「これ、歩けるやつだ」
軽い上着。
鞄の横で、
ぬいぐるみほどのサルが
前後に揺れる。
リカは足を止める。
長めの袖。
指先だけが出ている。
腰元で、
電子マネーのキーホルダーが
静かに触れ合う。
歩いてもいい。
装置を使わなくてもいい。
それが、
少しだけ怖い。
次のスポットも、
同じだった。
入口と出口の区別が薄い。
番号を入れたはずなのに、
感覚が切り替わらない。
道は続き、
建物の並びも続く。
髪をきちんとまとめた友達は、
端末を確認しながら歩く。
残高。
移動履歴。
無意識の動き。
派手めの服の友達は、
複数のキーホルダーを
まとめて持っている。
歩くたびに、
金具の音が重なる。
「便利だね」
そう言われて、
誰も否定しなかった。
便利だった。
確かに。
迷わない。
止まらない。
切り替えなくていい。
三つ目のスポットで、
リカは立ち止まる。
道の先に、
また道がある。
景色が少しだけ変わる。
でも、
切れ目がない。
頭の中で、
番号を思い出す。
129。
島。
港。
団地。
寂れたショッピングセンター。
そこでは、
必ず一度、
立ち止まる。
装置を操作して、
番号を入れて、
確定して、
戻る。
戻るという動作が、
ちゃんとある。
「どうしたの?」
問いかけは軽い。
リカは、
首を横に振る。
「ここさ」
そう言って、
足元を見る。
道が、
どこまでも続いている。
「帰るって感じが、
薄いね」
誰もすぐには返さない。
最後のスポットで、
四次元装置を操作する。
指先は迷わない。
番号を入れる。
確定。
表示を見た瞬間、
肩の力が抜ける。
移動は簡単だった。
でも、
帰る場所があることは、
簡単じゃなかった。
団地の前に立ったとき、
キーホルダーの重さが、
いつもよりはっきりと
伝わってきた。
今日は、
ちゃんと戻ってきた。
それだけで、
小旅行は終わった。