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「今日はちょっと、面白かったなあ。あの教室の空気、最高だった」
カーテンも閉められていない部屋。
ネオンの明滅が、白い壁に薄く滲んでいる。
蓮司は遥の制服の襟を指先でいじりながら、笑った。
その顔には、感情のようなものは見えない。
ただ、どこまでも“楽しんでいる”目だけがある。
遥はソファの端に座っていた。
逃げる姿勢にも、抗う意思にも見えない。
けれどその呼吸は、浅く、肌は微かに震えていた。
「なに、その顔。……“彼氏でしょ”、オレ」
そう言って、蓮司が遥の太腿を撫でる。
制服の下に指が入る。
いつも通りの、儀式のような手つき。
遥は、それを拒まない。
……ただ、目を伏せていた。
演技のまま、「演技できない時間」に入っていく。
「なあ、さっきの、“俺のだから”って言葉さ。おまえ、どんな気持ちで言ったの?」
蓮司の声は、ひどく柔らかい。
責めではない。観察者の、それだ。
遥は答えない。
代わりに──
蓮司が押し倒しながら耳元で囁く。
「日下部の顔、見た? 完全に固まってたよ。おまえ、ほんと良い素材だよな」
服のボタンが外されていく。
口を使って、わざとゆっくりと、遥の表情を確認しながら。
「教室で見せた“おまえの居場所”……あれ、ほんとに欲しかったんじゃない?」
「俺が“恋人”ってことになれば、ちょっと守られるかも……ってさ」
遥は、ぎりぎりまで感情を押し殺していた。
けれど、その台詞で、
眉がわずかに寄った。
それを逃さなかった蓮司は、笑う。
「……はは。図星か。
かわいいじゃん、“嘘”でしか人間と繋がれない奴って」
身体を這う手が、ゆっくりと喉元に回される。
絞めはしない。
ただ、“選択肢”が奪われたことを、無言で伝える。
「演技、今はしなくていいんだよ。おまえ、“俺の前では壊れてていい”んだから」
その言葉と共に、行為が始まる。
遥は、何も言わない。
唇だけが震え、小さく、何かを呟いたようだった。
けれど蓮司はそれを聞き取らず、いや、わざと無視して続けた。
──演技も拒否もできない空白に、
“蓮司だけが、触れていい”という錯覚が、遥を蝕む。
彼氏という“嘘”が、逃げ場になるはずだったのに──
今では、
それさえも、蓮司の手によって“壊すための道具”に変えられていた。