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車内が暖かくなると大輔が瑠璃子を呼んだので瑠璃子は車に乗った。

そして二人はレストランを目指す。


これから行くのはイタリアンの店で、以前大輔が連れて行ってくれた夕張川沿いの店の近くにあるようだ。

大平原の中にポツンと建つ店なので今の時期は真白な雪原が見えるようだ。瑠璃子はそれを楽しみにしていた。


車がレストランへ到着すると瑠璃子は驚く。

店の周りには大輔が言った通り大平原が広がっていた。壮大な風景だ。薄暗い中に雪の白さが際立って見えている。

そしてレストランはブルーグレーの外観をした可愛らしい店だった。店はライトアップされているので雪原とのコントラストがとても美しくまるで絵葉書のようだ。


レストランへ入ると窓際の席に案内された。窓からは雪原の一部が見えている。そしてその真上にはキラキラと無数の星が輝いていた。なんとも神秘的な光景だ。


「先生、景色が素晴らしいですね」

「うん。きっと瑠璃ちゃんが気に入ると思ったよ」


それから二人はイタリアンのコース料理をゆっくりと堪能した。

つい先ほどまで情熱的に愛し合っていた二人なのに、今は病院の食堂にいる時のように和やかに談笑している。

こんな何気ないひと時が瑠璃子を幸せな気持ちにさせてくれた。


その時大輔が言った。


「来月の瑠璃ちゃんの誕生日には休みの希望を出しておくよ。取れるかどうかは微妙だけど、もし取れなくても夜は一緒に食事に行こう」

「ありがとうございます。とうとう私ももう30かぁー」

「キリ番だね。でも成熟した30代も悪くはないと思うよ」


大輔はそう言って微笑む。


(この人と過ごす30代はきっと素敵な日々になるだろうな……)


大輔の穏やかな笑顔を見ながら瑠璃子はそんな風に思った。


その後店を出た二人は車までの短い距離を手を繋いで歩いた。

空からは小粒の雪がはらはらと舞い降りてくる。


荷物を置いたままだったので瑠璃子は一度大輔の家に戻った。

テーブルで瑠璃子がプラスチック容器をまとめていると大輔が後ろから来て抱き締める。そして瑠璃子の髪に鼻を埋めると大きく息を吸い込んだ後首筋にキスをする。


「あんっ…先生ったら、荷物の整理が出来ないわ」


瑠璃子が振り返るとすかさず大輔が唇を塞ぐ。そこから再び情熱的な時間が始まる。

大輔は瑠璃子を抱き上げるとキスをしながら奥の寝室へ連れて行った。



その日瑠璃子がマンションに戻ったのは夜の11時過ぎだった。

今日も泊ればと言われたが、瑠璃子は仕事用のバッグを家に置いていたので家に戻る事にした。

明日の弁当は作らなくていいよと大輔は言ってくれたが、瑠璃子は大輔の為にどうしても作りたかった。

だから家に帰るとすぐに準備を始める。


この二日間は本当に楽しかった。大輔と一緒にいるとありのままの自分でいられる。

瑠璃子は大輔と長い時間を過ごしてみて、自分が心から大輔を愛しているという事に気付いた。


しかしその一方でラベンダーの丘の青年の事も心に引っかかっていた。

瑠璃子はそのもやもやした気持ちを振り払うようにして下ごしらえに集中した。



翌朝になっても瑠璃子はもやもやした気持ちを引きずっていた。

青年の事を考えないようにすればするほど気になってしまう。しかしそれは大輔を裏切る行為でもある。

瑠璃子が悶々としながら大輔の車を待っていると、向かいの家から秋子が出て来て瑠璃子に声をかけた。


「瑠璃子さんおはよう。あら、どうしたの? 思いつめたような顏をして?」

「あ、おはようございます。いえ…ちょっと……」

「やーねぇ、朝からそんな顔をして! 今日お仕事は夕方で終わりなの? 良かったら帰りにうちに寄りなさい。相談に乗るから」

「えっ?」


瑠璃子は驚く。


「私が何年若い子達と関わって来たと思うの? 学生の悩み相談なんてしょっちゅうだったのよ。だから顔を見ればすぐにわかるわ! じゃあ夕方待ってるわね」


秋子はニッコリ微笑むと、ポストの新聞を取って家の中へ戻って行った。

瑠璃子はキョトンとしつつ、秋子の心遣いに感謝した。



そしてその日仕事を終えた瑠璃子は秋子に電話をした。互いの連絡先は初めて会った日に交換していた。

瑠璃子は夕食に弁当を買って行く事を秋子に伝える。ちょうど夕食時だったので手土産に弁当を買って行く事にした。すると秋子は助かるわと言って喜んでくれた。

瑠璃子は地元でも美味しいと評判の店で、鰆の西京焼きが入った和食弁当を2つ買ってから秋子の家へ向かった。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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