夕方、仕事を終えた詩帆は隣の書店の化粧室へ向かった。
そこでササッとメイクを直し、ゴムで一つに結んでいた髪をほどき軽くブラッシングをする。
それから書店を出てカフェの駐輪場まで行くと、既に涼平が来ていた。
「すみません、お待たせしました」
「俺も今来たところだよ」
涼平はそう言って笑った。
スカート姿の詩帆を見て、涼平は少し驚いているようだった。
髪も下ろしいつもと違う雰囲気だったので新鮮だったのだろう。
詩帆が自転車の鍵を開けようとすると、涼平がそのままにしててと言う。
てっきり自転車で移動するものだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「誕生日くらいは一杯飲みたいでしょ?」
涼平は自転車はここに置いておいて帰りに取りに来ようと言った。
そして大通りへと歩き始める。
詩帆が不思議に思っていると、涼平は手を挙げてタクシーを停めた。
タクシーに乗った涼平は、
「茅ケ崎の鳥澤酒造のレストランまでお願いします」
運転手にそう告げた。
そしてタクシーが動き始める。
「しゅぞう?」
詩帆は聞き慣れない言葉を聞いたので涼平に聞く。
「うん。湘南で唯一の蔵元がやっているレストランがあるんだ。料理はイタリアンなんだけれど、美味い日本酒と湘南の地ビー
ルが飲めるんだよ。そこでいいかな?」
詩帆は「もちろんです」と返事をする。
そして心の中ではそのレストランに興味津々だった。
(一体どんなお店なんだろう?)
その店までは距離にしたら三、四キロほどだろうか。
それほど遠くはなかった。
店は住宅街の中にひっそりとあった。
表側は昔からある酒造メーカーの施設があり広い敷地は塀に囲まれていた。
そして入口の門には酒造メーカーの看板が掛けられている。
詩帆がお店はどこにあるのだろう? と思っていると、右端に小さな入口が見えた。
狭い入口を入ると木が生い茂った細い小道となっていた。
(ここがお店の入り口?)
その時涼平が「こっちだよ」と言ったので、詩帆は涼平の後をついて行った。
細い小道を突き当りまで行くと、突然二つの建物が現われた。
左側には蔵を改造して作った日本料理の店。
そして、右側には古民家の佇まいのイタリアンの店があった。
その古民家は地方にあった古民家をわざわざ移築して店舗にしたようだ。
店内は和の落ち着いた雰囲気でゆっくり寛げそうだ。
詩帆は思わず、
「素敵!」
と呟いた。
そんな詩帆の喜んでいる様子を見て、涼平は満足気だった。
二人はスタッフに窓際の奥の席へ案内される。
窓からは裏山の木々が見えた。
その手前には、ライトアップされた日本庭園が浮かび上がる。
まるで昔話の中にタイムスリップしたかのような光景に詩帆は思わず見入っていた。
二人は早速メニューを見て湘南地ビールを頼む事にする。
詩帆はフルーティーなアルトを、そして涼平は黒ビールのシュバルツを頼んだ。
飲み物が来ると、涼平が誕生日おめでとうと詩帆に言いながら乾杯をした。
ビールを一口飲んだ詩帆は、笑顔で言った。
「美味しい! とっても爽やかで飲みやすいです」
「それはよかった。黒ビールもコクがあってすごく美味いよ」
涼平も嬉しそうに笑う。
二人がビールに感動していると、料理が次々と運ばれて来た。
前菜のパテには、湘南野菜の色鮮やかなピクルスが添えられていた。
モチモチした食感がたまらない自家製生パスタ、そしてブリのローストバルサミコソースがけなど、
美味しい料理は和の陶器に美しく盛り付けられていた。
詩帆はそのすべてに感動していた。
嬉しそうな詩帆の様子を見て、涼平は連れて来て良かったと心から思った。
コメント
2件
涼平さん、お店チョイスが粋だわ〜happy birthday🎂🍻👩❤️💋👩そして詩帆ちゃんの装いも普段と違ってドキドキ💓の涼平さん 楽しい時間に乾〜杯🥰
お誕生日おめでとう~‼️🎁🎂 カンパーイ✨🍻🎶 ビール美味しそう....😋💕