翌朝、真子は検温に来た瑠璃子に聞いた。
「瑠璃ちゃんは岸本先生と小学生の時に出会った後、一度離れ離れになってから再会したって本当ですか?」
すると瑠璃子はニッコリして答えた。
「うんそうよ。それも偶然同じ病院で働く事になったの」
「へぇー、本当だったんだ」
「もしかして昨夜岸本先生に聞いたの?」
「はい。私、ここに来る前に彼氏がいたんですが、ちょっと色々あって何も言わずにこっちに来ちゃったので…」
「そうだったの…。うん、でもね、その彼と縁があればきっとまた会えるわ」
「そうですか?」
「そう。もし彼が運命の人だったらね」
「岸本先生も同じ事を言ってました」
「アハハやっぱり? だって実際にそれを体験している私達が言うんだから本当よ。それがいつになるかはわからないけれど、
その日を楽しみに生きていくっていうのも素敵じゃない?」
「その日を楽しみに?」
「うん。もしその人と再会したら会えなかった日々の事をお互いに報告するでしょう? その時に、自分はこんなものに打ち
込んで来たのよーとかこんな風に頑張って来たのよーって胸を張って言いたいじゃない? その為にも今を全力で生きるってい
うのかな?」
「確かに……」
「あとは、びっくりするくらい綺麗になって驚かせてやろうとかね?」
「なるほど…自分磨きってやつですね」
「そうそう…そうやって会えるのを信じて準備しているとね、きっと引き寄せてくれると思うわ」
「引き寄せる?」
「そう、願いを自分から引き寄せるのよ。運命なんて待っていないで、自分から引き寄せちゃえばいいのよ」
「自分から……」
そんな発想をした事がなかった真子は、瑠璃子の言葉をじっくり噛みしめる。
「真子ちゃんはまだ若いんだから時間はたっぷりあるわ。だから焦らずゆっくりその日を待ってみたら?」
瑠璃子はそう言ってニッコリと笑った。
真子はその笑顔に、なんだかとても勇気づけられたような気がした。
そしていよいよ手術の日がやってきた。
真子の枕元には千羽鶴の飾りがぶら下がっていた。
手術を受ける真子の為に、クラスの皆が作ってくれたのだ。
真子がその千羽鶴を指先でいじっていると、瑠璃子ともう一人の看護師が真子を迎えに来た。
「それじゃあ真子ちゃん、これから手術室に移動しますからね」
真子はストレッチャーへ移動すると病室の出口へ向かう。
廊下に出る際同じ部屋の三人が「頑張ってね」と声をかけてくれた。
真子は笑顔で「ありがとうございます」と答えると、少し緊張した面持ちで手術室へ移動した。
真子のすぐ傍には両親が付き添っていた。
父は今日の為に仕事を休んだようだ。
手術室前に着くと、一旦ストレッチャーが止まる。
「ではこれから手術室へ入ります。手術前にお嬢さんに一言どうぞ」
瑠璃子はそう言ってその場を両親へ譲った。
すると保と英子が真子に声をかける。
「真子、しっかりね!」
「真子、お父さんはここで待ってるからな、頑張って来いよ!」
「うん、私頑張る」
真子は精一杯の笑顔を見せて気丈に振る舞った。
本当は怖くて怖くて仕方がなかったが、両親を心配させないためにあえて明るい笑顔を見せる。
「では手術室に入りますね」
瑠璃子がストレッチャーを中へ押し込む。
その際、真子が小さな声で瑠璃子に聞いた。
「瑠璃ちゃんの彼は名医ですよね」
「そうよ。だから絶対大丈夫! 保証するわ! じゃあ真子ちゃん、後でまた会いましょう」
瑠璃子はとても穏やかに笑った。
「はいっ!」
真子も笑顔を返すと、岸本医師が待つ手術室へと入って行った。
その後、6時間に渡る手術は無事に終わった。
手術室の赤いランプが消えると、執刀医の岸本がマスクを外しながら出て来た。
そして手術結果を両親へ報告する。
「真子さんが頑張ってくれたお陰で全て上手くいきました。これで通常の生活が送れるようになります。長い間お嬢さんの病気
に向き合ってこられたご両親には心から感服いたします。本当にお疲れ様でした」
岸本は真子の両親に対し敬意を表してお辞儀をする。
医師から思いもかけない労いの言葉をかけられた母の英子は、感極まって号泣し始める。
そして泣き崩れる妻の肩を支えながら父の保が言った。
「先生、本当に…本当にありがとうございました」
保は深々と頭を下げた。
その時、ストレッチャーに乗った真子が手術室から出て来た。
まだ麻酔から覚めていなかったが、二人は駆け寄り眠っている真子に声をかけた。
「真子! よく頑張ったな」
「うぅっ……真子っ…お帰りなさい」
その様子を優しい表情で見つめていた瑠璃子が声をかけた。
「では高度治療室に移動しますので、ご両親もご一緒にどうぞ」
そしてストレッチャーは移動を始めた。
真子の手術は無事成功した。
この日真子は、生まれてからずっと背負って来た重い病から漸く解放された。
コメント
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ゆくゆくは「岩見沢の奇跡」を目の当たりにすることになると思うけど、確かにお互いに"別れた"と感じていたら連絡取ることは難しいのかもしれない… でも先ずは真子ちゃんが心臓の病を克服できて良かった🎉おめでとう🎈㊗️
話が終わっちゃうけど、この後学校に復学したタイミングで拓君には連絡して欲しかったなぁ😿