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『こんばんは。お久しぶりです』
夏樹さんは、私に声を掛けられて鋭い目元を瞠目させた。
まさか、かつての教習生に声を掛けられるとは、彼も思わなかったのだろう。
『おっ……おお、久し振りだな。元気か?』
困惑気味に、目尻を下げた夏樹さんの表情を向けられる。
私の顔は覚えているけれど、名前までは記憶にないようだった。
少しガッカリしてしまったけど、毎日のように入校してくる人がいるし、いちいち教習生の名前を気に留めていられないか、と思い直す。
それよりも偶然を装い、夏樹さんにアプローチできた事が、何よりも嬉しい。
『なぁ。連絡先…………交換してもいい?』
その場で世間話をした後、彼が遠くに眼差しを配らせながら、ポツリと零した。
『えっ…………ええ。橋本さんが……良ければ』
『これ。俺の連絡先』
夏樹さんが、スーツの内ポケットからスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリのQRコードを差し出された。
私もバッグからスマートフォンを手にして、彼の連絡先を読み込むと、夏樹さんが『友だち』に追加される。
『そうだ。思い出した。村下……由恵さん……』
強面の顔つきがフッと緩み、目を細めながら視線を伝わせられて、ドキッとしてしまう。
『ありがとうございます』
『じゃあ…………近々、連絡するよ』
『はい』
互いに手を振り合い、夏樹さんは立川駅へ、私は自宅へ足を向けた。
夏樹さんとは、連絡先を交換してから三度会った。
一度目は相模湖までドライブ、二度目は立川駅近くのショットバーで飲み、三度目の逢瀬で…………私は、ラブホテルで夏樹さんに抱かれた。
彼に身体を晒し、淫らな声を上げるのが恥ずかしくて、吐息を零すだけだった情事。
夏樹さんに激しく身体を貫かれながらも、私の脳裏に恋人の影が掠めていく。
彼にも彼女がいるのに、他の女を抱いて、何とも思わないのだろうか。
『互いの恋人を忘れて……由恵は…………俺に抱かれていればいいんだよ……』
私の考えている事に勘付いたのか、掠れた声色で囁かれ、夏樹さんが、ほどなくして私の中で果てた。
けれど、この逢瀬を最後に彼からの連絡は途絶え、一切会う事もなく、私は夏樹さんと身体の関係を持った秘密を抱えたまま、当時の恋人と入籍。
結婚生活三年目に入ったところで、夫の浮気が発覚し、四年間の結婚生活にピリオドを打った。
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コメント
1件
おお、第7話読みました。再会から身体の関係まで、わりとスムーズに進んだんですね。でも「脳裏に恋人の影が掠める」ってあたり、由恵さんの心の揺れがすごく生々しくて印象に残りました。夏樹さんの「互いの恋人を忘れて」という台詞も、彼なりに何か感じてたのかな……結局フェードアウトしちゃったけど。結婚生活のその後も含めて、この第一章がどう着地するのか気になります。