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互いの実家に挨拶に行こう――。
そうと決めたその当日がいよいよやってきた。諒はダークグレーのスーツにネクタイ、私はシックなベージュのワンピースに白のカーディガンを羽織るという出で立ちで、彼のマンションを出発した。
どちらの家のことも、家族のこともよく知ってはいるからこそ、交際と結婚を考えていることを報告しに行くというのは、どことなく面はゆく、緊張する。それは諒も同じだったようで、私たちの車中での会話がいつもよりも弾まなかったのは仕方がない。
私の実家を先に訪ねることにしていたが、約束の時間より少し早く到着した。
諒は我が家の玄関前にある空きスペースに車を停め、やや強張った笑みを受かべて私を促す。
「少し早いけど行こうか」
「そうだね」
私たちは互いを励ますように頷き合い、車から降りた。
それとほぼ同時に玄関のドアが開き、母が姿を見せた。すぐに私に気がつき、嬉しそうに笑う。
「瑞月、お帰りなさい」
しかし次の瞬間、母の目は大きく見開かれた。
「えっ?諒ちゃん?どういうこと?」
諒は私の隣に並んで立ち、照れ臭そうな顔をして母に頭を下げる。
「お久しぶりです」
はじめ母は戸惑い顔を見せていたが、すぐに状況を飲み込んだらしく、満面の笑みを浮かべた。
「そういうことだったのね。瑞月ったら、会わせたい人がいるとしか言わないんだもの。二人とも、入って」
いそいそとした母の様子を見る限り、諒との交際を反対されるようなことはなさそうだ。私はほっとしながら、彼と一緒に母の待つ玄関へと向かった。
家に入る手前で、諒は母にもう一度頭を下げた。お邪魔します、という声には緊張がにじんでいた。
母はにこやかな笑みを諒に向ける。
「いらっしゃい。先日は瑞月が本当にお世話になって、ありがとうございました。ところで今日、そちらのお家にはもう行ってきたの?」
「いえ、これからです。まずはこちらにお邪魔して、と思ったので」
「そうなの。ありがとう。さぁ、とにかく、どうぞどうぞ」
「はい。失礼します」
靴を脱いだ私たちは、そこに揃えて出されたスリッパに足を入れる。
「お父さん、首を長くして待ってたわよ」
どことなく浮足立って見える母を先頭に、諒、私の順で廊下を進み、リビングに向かった。
そこでは父がソファに腰を下ろし、手持無沙汰な様子で新聞をめくっていた。私たちを見てすぐに新聞を閉じ、笑顔を見せる。
「お帰り、瑞月。諒君も、久しぶりだね」
「ご無沙汰をしております。今日はお時間を作ってくださって、ありがとうございます」
固い笑顔の諒に、父は穏やかな声で返す。
「諒君こそ、仕事が忙しいんだろう?わざわざ来てくれてありがとう。それにしても、瑞月が言っていた『会わせたい人』っていうのが諒君だったと知って、ものすごく驚いたよ。そう言えば、この間も瑞月が色々とお世話になったんだよね。本当にありがとう。諒君が近くにいてくれて本当によかった、って、母さんと話していたんだよ。あぁ、立たせたままですまないね。さ、どうぞ座って、楽にして」
「はい、ありがとうございます」
諒はぎくしゃくとした動きでソファに腰を下ろし、私はどきどきしながら彼の隣に座った。
「あ、そうだ」
諒は手にしていた紙袋を両親の前に差し出した。中身は今日の手土産として用意したものだ。
「よかったら召し上がってください。お二人とも、確か日本酒がお好きでしたよね?」
父は嬉しそうにそれを受け取った。
「おや、これは、純米吟醸じゃないか。こっちは純米酒?ありがたく頂戴するよ。せっかくだから、諒君と一緒に飲みたいな。今夜は実家に泊まるのかい?」
「いえ、今日は泊らずに帰ります」
「ということは、瑞月もか?」
「うん、そうなんだ。ごめんね」
「そうか……。まぁ、仕方ないな。諒君、今度ゆっくりこっちに帰って来た時には一緒に飲もう」
「はい、その時はぜひ」
諒と父との雑談を、私は落ち着かない気持ちで聞いていた。諒が俺に任せておけと言うから、細かな打ち合わせはしていない。いったい、どんな風に切り出すつもりなのだろうと、私は諒の横顔をうかがい見た。
私の視線に気づいた諒は、大丈夫だと言うように僅かに目を細めた後、ゆっくりと口を開いた。
「今日は、ご報告とお願いがあって参りました」
「うん。聞こうか」
父はおもむろに頷いて、それまで柔らかかった表情を固いものに変えた。
しかし、父の隣に座った母の目元は柔らかい。頬を緩ませて、私と諒を見ていた。
諒は凛とした顔つきで、父と母の顔を交互に見ながら話し出す。
「瑞月さんとは、少し前から、結婚を前提にしたお付き合いをさせていただいています。そう遠くない将来、瑞月さんと結婚したいと考えていますが、まずは私たちの交際を認めて頂きたいのです。どうかよろしくお願いいたします」
言い終えて諒は頭を下げた。
両親に反対されることはないとの確信はあっても、やはり、二人から「諾」の言葉を聞くまでは安心はできない。どうかいいよと言ってくれますようにと祈りながら、私も諒に倣って頭を下げた。