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翌朝瑠璃子はホテルで遅めに目覚めた。

中沢に振られて以来ずっと眠りの浅い日が続いていたが、昨夜は久しぶりにぐっすり眠れた。

そのせいか頭と身体がすっきりしてとても気分がいい。


引越しに関する手続きは昨日全て終えたので、今日は新居で必要な家具や家電を買いに行く予定だ。

ホテルから1キロほど離れた場所にある大型のショッピングモールには家具店と家電量販店が入っている。

秋の空気が心地よい季節なので、瑠璃子は散歩がてらそこへ買い物に行く事にした。


ホテルで朝食を済ませると早速徒歩でショッピングモールへ向かう。


子供時代に何度も訪れた町とはいえ覚えているのは祖母の家の周辺だけだ。

だからほとんど岩見沢市内の事は知らない。

知らない町を歩いているだけでなんだかワクワクしてくる。そして今自分は自由なのだと感じる。


豪雪地帯の家には塀がない。雪解けの時期に屋根に積もった雪が落ちる際塀があるとなぎ倒されてしまう。

だからどの家にも塀がなかった。そして屋根はとんがり屋根が多い。家ひとつを見るだけでも東京の家とは雰囲気が違う。。


辺りを興味深げに見て歩いているとやがて国道へ突き当たった。

国道を右折して10分ほど歩くとお目当てのショッピングモールへ到着した。


家具店へ入ると瑠璃子はまずベッドと布団一式を選んだ。

新居の間取りは1LDKで東京のマンションと同じだったがこちらのマンションの方が床面積が広い。

寝室も以前より広いのでゆったりとベッドが置けそうだ。


東京で使っていた二人掛けの小さなテーブルセットを瑠璃子は処分して来た。だからダイニングテーブルも新調したい。

沢山展示されているテーブルを一つ一つ見て歩いた瑠璃子は、天然木で出来た四人掛けのダイニングセットを選んだ。

リビングも以前より広いので四人掛けでも余裕で置けるだろう。

次に瑠璃子はソファーを選んだ。以前は二人掛けだったが今度は少しゆとりのある三人掛けの布製のソファーを選んだ。足と肘掛け部分はテーブルやベッドと同じナチュラルカラーの天然木なので統一感がある。


これからは中沢との思い出が沁みついた家具類を見なくて済むのかと思うとホッとする。

実は東京にいる間ずっと辛かった。瑠璃子の部屋には嫌というほど中沢との思い出が沁み込んでいたからだ。これからはその情景を思い出さなくて済むのかと思うと心が軽くなる。


瑠璃子がカーテン売り場へ向かう途中一組のカップルとすれ違った。

瑠璃子と歳の近いカップルはおそらく結婚を控えているのだろう。二人は満面の笑みを浮かべながら家具選びをしていた。

そんな仲睦まじい様子を見た瑠璃子の胸がズキンと痛む。そしてすぐに涙腺が緩んでしまう。


(ダメよ瑠璃子、今は泣かないで)


そう自分に言い聞かせながら足早にその場を後にした。


必用な家具やカーテンを購入した瑠璃子はその後家電量販店へ行き家電類を買う。

家具も家電もマンションの入居日にまとめて配送してくれるというので瑠璃子は配送の手続きをした。


とりあえず生活に必要な物を全て新調した瑠璃子は清々しい気持ちになっていた。

新しい部屋を一から作るという作業は想像以上にワクワクする。これからどんな部屋にしていこうかと考えるだけでも心が弾む。

この時瑠璃子は移住を決意して本当に良かったと思っていた。

もしあのまままだ東京にいたらきっと毎日を鬱々して過ごしていただろう。


買い物を終えた瑠璃子はホテルへ帰る途中でパン屋を見つける。そこで昼食用にパンを買った。

ホテルに戻ったら夜はもう外へ出たくなかったのでコンビニへ寄り夕食用の弁当も買って帰った。


ホテルの部屋へ戻った瑠璃子はパンとコーヒーで昼食を終えるとノートパソコンの電源を入れた。

ここ数日バタバタしていてパソコンを開く時間もなかった。瑠璃子は真っ先に小説投稿サイトを覗く。

するとお気に入りの作家の小説が新しく2話更新されていたのですぐに読み始めた。

更新された話の中では主人公の少女と彼女を見守る青年の会話が描かれていた。二人はラベンダー畑にいた。


「富良野が舞台なのかな?」


小説を読み終えた瑠璃子はそんな風に思った。


2話を一気に読み終えた後、瑠璃子はその作家が新たに新作をアップしている事に気づく。

新作は小説ではなくエッセイのようだ。投稿時刻を見ると投稿されたのはほんの10分前だ。

エッセイから彼の人となりがわかるかもしれないと思った瑠璃子はすぐにエッセイを開いた。


エッセイには彼が撮影したと思われる写真が一枚と短い文が綴られていた。

写真は真っ青な空に白い雲がぽっかりと浮かんでいるものだった。それは先ほど瑠璃子が歩きながら見上げた岩見沢の空によく似ていた。


その写真を見た瑠璃子は確信する。


(彼は間違いなくこの北の大地で暮らしているわ)


なぜかはわからないが瑠璃子にはそう思えた。

そしてエッセイを読んでみる。



『瑠璃色の蝶』


遠い昔 あの夏の日

傷んだ僕の心に瑠璃色の蝶が舞い込んできた

蝶はひらひらと纏わりつき僕に勇気をくれた

そして瑠璃色の蝶は僕に癒しも与えてくれた

あの瑠璃色の蝶は今どこで羽を休めているのだろうか?

夏の終わりに思い出す瑠璃色の蝶

それは僕にとって永遠の女神だった



読み終えた瑠璃子は胸が熱くなる。そして感受性が敏感になっている瑠璃子の涙腺を刺激する。

彼は詩人だ。


彼の文章には人を魅了する力がある。そして読むたびに引き込まれる。

だから瑠璃子は彼の小説のファンになったのだ。


彼は一体どんな人でどこでどんな生活を送っているのだろうか?


もしかしたら自分は彼の小説に恋をしているのかもしれない…そんな風に思う。

そして瑠璃子は偶然とはいえ彼が綴ったエッセイの中に『瑠璃』という文字が入っていたのでとても嬉しかった。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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コメント

8

ユーザー

ステキな小説を書いてくれる作家さん✨ もしかして あの方ではないよね??って気になってしまう~( *´艸`)

ユーザー

岩見沢での新生活に胸躍らせる瑠璃ちゃん🎶 その心の奥底には中沢との辛い思い出を一掃する気持ちもあったのが切ない😢 そして投稿サイトの作家さんの『瑠璃色の蝶🦋』に瑠璃ちゃんの名前が入ってるのがとても気になる〜〜‼️この作家さんは瑠璃色に特別な思い入れがあって小説にしてるのかな⁉️ワクワクo(^▽^)o💕

ユーザー

瑠璃ちゃん、辛かったね😢 でもこれから楽しい事が訪れると信じて新たな暮らし頑張って‼️ 絶対幸せになれるって‼️ 人の不幸の上に幸せはない😈

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