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放課後。
空き教室。
日下部は机に肘をついて、ぼんやり窓の外を眺めていた。
ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が教室に入る。
「眠そうですね」
「眠い」
「正直ですね」
「隠す意味ないし」
相談者が笑って席に座る。
「今日は?」
相談者は少し考えてから口を開く。
「俺、『大丈夫?』って聞かれると、反射で『大丈夫』って言っちゃうんです」
日下部は目を向ける。
「本当は?」
相談者は少し黙る。
「大丈夫じゃない時もあります。でも、気づいたら言ってます。『大丈夫』って」
教室が静かになる。
「何で言うんだろうな」
相談者は苦笑する。
「分かんないです」
少し間を置く。
「心配かけたくないのか、説明するのが面倒なのか、自分でもよく分からなくて」
日下部は頷く。
「『大丈夫』って言うと、その話、終わるだろ」
相談者は顔を上げる。
「……はい」
「終わると安心する?」
少し考える。
「その時は。でも」
視線が落ちる。
「帰ってから、『何で言わなかったんだろう』って思います」
日下部は少し笑った。
「もったいないな」
相談者は黙る。
「『大丈夫』って」
日下部は言う。
「便利なんだよ」
「便利?」
「相手を安心させられる、説明もしなくていい、その場も終わる」
少し間。
「だから癖になる」
相談者は小さく頷く。
「確かに」
「でも」
日下部は続ける。
「毎回それだと周りは」
少し間。
「本当に大丈夫なんだって思う」
相談者は黙る。
「俺、気づいてほしい気持ちもあります」
「だろうな」
「でも、言えないです」
教室に静かな時間が流れる。
日下部は口を開く。
「『大丈夫じゃない』が言えないなら」
少し間。
「百かゼロで考えなくていい」
ruruha
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1
水白幻レイ
11
相談者は首を傾げる。
「え?」
「『ちょっと疲れてる』『今日は少ししんどい』『また今度聞いて』」
短く言う。
「そのくらいでも伝わる」
相談者は考え込む。
「俺、『大丈夫』か『全部話す』しかないと思ってました」
「間がある」
日下部は頷く。
「人に話すって」
少し笑う。
「小出しでもいい」
相談者も少し笑った。
「それなら、できるかもしれません」
立ち上がる。
「次また聞かれたら」
少し考える。
「『今日はちょっと疲れてる』くらいなら言ってみます」
「十分だ」
日下部は言う。
「本音って」
少し間。
「急に全部は出てこないからな」
相談者は静かに頷いた。
「ありがとうございます」
ドアが閉まる。
「大丈夫」と答えるのは、強いからとは限らない。
その一言が、一番言いやすい言葉になっているだけなのかもしれない。
少しだけ本音を混ぜられる日が増えたら、誰かとの距離も少し変わるのかもしれない。
コメント
1件
読み終わりました……「大丈夫」って、一番簡単なのに一番重い言葉ですよね。日下部さんの「百かゼロで考えなくていい」「小出しでもいい」という言葉が、すごく優しくて沁みました。全部話さなきゃ、と思いすぎてしまう自分にも、そう言ってあげたい。本音を少しずつ出せる関係って、こうやって築かれていくんだなあと、温かい気持ちになりました。素敵なエピソードをありがとうございます🌷