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きょうふ
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comi
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#可愛い
トド村
37
仕事を休むため、派遣先の携帯ショップのギャルメイク先輩に電話をする。
「もしもし、どしたんへるちん?」
電話越しに、先輩のあっけらかんとした声が響いた。
「あっ、あの……その……父が、隕石と激突して入院して……。お見舞いに行かないといけないので、仕事をおやすみします」
「へるちんってもしかして嘘つくの下手なタイプ? ……まっ、いっか。環(たまき)さんにはウチから伝えとくわ。あのお局ババアのことは上手いこと言いくるめとくから、しっかり休みな? 普段仕事さぼらないへるちんが休むんだから、なんか色々あるっしょ?」
「ありがとうございます……!!」
「おっけー、それじゃーねー」
ツ、と通話が終わった。
「ご主人様、早速楓子の事務所に向かいましょう」
ドッペルゲンガーはもう準備万端だ。
「待って。あんたと私が一緒に外出たらまずいでしょ? あたしたち、顔が全くおんなじなんだから」
「双子ってことにしてゴリ押せばよくないですか?」
「ゴリ押せるかぁそれ?」
「しょーがないですねー。えいっ」
ドッペルゲンガーが不意に抱きついてくると、私の視界が青い光に包まれた。
気づいたときには、フリルとレースがこれでもかと主張するゴスロリドレスに、片目には謎の眼帯。街中で二度見されること不可避の姿に変身させられていた。
「な、なにこれ!?」
「私の能力でご主人様を変身させました」
「戻しなさい!! ってか、変身するならあんたがしなさいよ!?」
「いやですよー、外暑いですし。ゴスロリは布面積多くて蒸れるので。あ、でもご主人様すっごく似合ってるからいいじゃないですか?」
こいつほんま……。似合ってるわけないだろうが。私なんかに着られてゴスロリ服が可哀相だ。
「ご主人様、今は楓子さんの事務所に行くのが最優先ですよ」
そうだった。私の命が危ない。その言葉の真意を聞き出さないといけないのだ。
「でも、こんな格好で外を出歩くなんて無理……」
「はぁー、しょーがないですねー」
見かねたドッペルゲンガーが私の手を強く握る。
「行きますよ、ご主人様!」
「ちょっ、ちょっと待ってまだ心の準備が!?」
私はドッペルゲンガーに手を引かれ、羞恥心に悶えながら楓子さんの事務所へと向かった。
◇
「ここが、楓子さんの事務所……」
アパートから3駅ほど離れたビル。その一室の前に私たちは立っていた。
(やぁ、よく来てくれたね。ノックはいらないよ。入ってきて)
突然、脳内に大人びた女の声が直接響く。
「この声、楓子さんです……」
ドッペルゲンガーが目を見開いた。
「……行こう」
私たちは意を決して扉を開ける。
部屋に一歩踏み入ると、ハーブとお香が混ざった甘い香りが漂ってきた。
暖色系の少し薄暗い照明。窓を覆う黒いカーテン。机の上には大きな水晶玉やタロットカード。
「やぁ、待ちかねたよ。ドッペルゲンガーちゃん。それと君が、地獄子ちゃんだね?」
楓子さんが私達に振り返る。
その大人びた視線が、私のゴスロリドレスと眼帯に注がれた。
(死にたい。今すぐ隕石がここに落ちてきて、私ごと消し飛ばしてほしい)
「ふふっ、ずいぶんと気合の入った格好で来てくれたんだね。可愛いよ」
「あ、う……」
違う、これはこの偽物に無理やり着せられただけで、決して私の趣味では――!
「見てくださいご主人様!! なんだか魔女の家みたいです!!」
ドッペルゲンガーがきょろきょろと辺りを見渡す。
「ふふっ、気に入ってもらえてなによりだよ」
口元を緩めた楓子さんは、私たちを応接室に案内し、ハーブティーとクッキーを振る舞ってくれた。
「さて、早速だが本題に入ろう。地獄子ちゃん、君はこのままだと命が危ない。自分のドッペルゲンガーに出会ったものは死ぬ。これはこの世界のルールだ」
「でも、ご主人様も私もピンピンしてますよ?」
ドッペルゲンガーがクッキーを齧りながら首を傾げる。
「恐らく、召喚の時にイレギュラーが発生したのだろう。地獄子ちゃん。君、どうやってこの子を召喚したんだい?」
「えっと……鶏肉に赤ワインかけたらなんかいけました」
私が説明すると、楓子さんがぽかんと口を開けた。持っていたハーブティーのカップがカタカタと震えている。
「失敬。……私の動画、一応『生贄の鶏』ってテロップを入れたはずなんだけど。スーパーのパック肉と赤ワインで闇の眷属を、しかもドッペルゲンガー級の存在を引きずり出した子は君が初めてだよ。君、とんでもない黒魔術師の才能があるよ」
「あっ……ども……」
急に褒められると、どう返事をしていいのか分からない。
「そうなんです!! うちのご主人様はすごいんです!!」
ドッペルゲンガーがなぜか誇らしげに胸を張る。
「そうだね。地獄子ちゃんの才能は素晴らしい。だがその才能が、思わぬ事故を引き起こしてしまった。私がYouTubeに上げた召喚法。あれで呼べるのは、本来なら下級の使い魔だけなんだ。――この子のようなね」
楓子さんが指を鳴らすと、ぽんっとコウモリのような使い魔が現れた。ちょっと可愛い。
「ママなんか用?」
「すまない、呼んだだけだよ」
「ちぇっ、つまんねーの」
使い魔は不満げにすぐ消えてしまった。
「話を戻そう。地獄子ちゃんの突出した才能と、過度に簡略化された儀式。イレギュラーが重なり、君はドッペルゲンガーに出会っても死ななかった極めてレアな人間となった。だが、黒魔術のルールは厳格だ。恐らく何らかの『呪い』という形で、君の身体に影響が出ているはずだよ。最近、急に痣が出来たとか、異変はなかったかい?」
「いえ、特にはなにも……」
本当に心当たりがない。すると、横からドッペルゲンガーが声を上げた。
「あっ、そういえば前、ご主人様と一緒にお風呂に入った時、お尻に数字みたいなマークが出ていました!」
「ぶっ、ちょっと何言ってんのあんた!? 人の前でそんなプライベートな話を暴露しないでよ!!」
「ふむ……地獄子君。すまないが一度診察させてもらえるかい? 君の命に関わることなんだ」
「……っ、……はい」
羞恥心で顔が爆発しそうになりながら、私はさっき無理やり着せられたゴスロリ服のスカートをめくる。よりによって、なんでこんなフリフリした服のときに……!
診察を終えた楓子さんが、これまでにないほど真剣な顔で私を見つめた。
「……これは『死の刻印』だね。このままだと君は、あと49日後に死ぬ」
──隕石が降って職場が消し飛ぶどころか、私自身が消し飛ぶタイムリミットが始まってしまった。
「そんな!? ご主人様を助ける方法はないんですか!?」
ドッペルゲンガーが青ざめて楓子さんに詰め寄る。
「方法は二つある」
楓子さんがゆっくりと口を開いた。
「まず一つ目。あまり気は進まないが……ドッペルゲンガーちゃん、君を殺す方法だ。これが一番残酷で、一番確実だ」
「え……?」
ドッペルゲンガーの表情が強張る。
「元凶である君を消せば、呪いは解けるどうかな?地獄子ちゃん」
私は、楓子さんの提示した方法にどうしても納得できなかった。
勝手に呼び出して、勝手に働かせて、都合が悪くなったら殺すなんて──そんなの、あんまりじゃないか。
「……他に方法はないんですか?」
「あることにはある。だがこれは不確実で、極めて難易度が高い方法だ」
「教えてください楓子さん!! 私、ご主人様の命を守るためならなんだってします!!」
ドッペルゲンガーが必死の形相で楓子さんにすがり付く。
楓子さんは少し視線を落とした後、私とドッペルゲンガーを交互に見つめ、静かに告げた。
「二つ目の方法。古より伝わる、呪いの解き方だ──」
一拍置いて、その美しい唇が紡いだのは、あまりにも突飛な解決策だった。
「真実の愛を見つけ出す。それが、ドッペルゲンガーちゃんを殺さずに、地獄子ちゃんの呪いを解く唯一の方法だ」
コメント
1件
おわった……! ていうかゴスロリ姿で診察台に上がった地獄子ちゃんの羞恥死寸前の感情、めっちゃ分かるわ(笑)。でもその後の「真実の愛」ってオチ、急に童話みたいな要素ぶっ込んできて笑った。楓子さんの魔女感も増してきたし、ドッペルゲンガーちゃんほんま良い子やな。続きが気になる!