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放課後、人気のない階段裏。夕日の影が伸びるその場所に、蓮司は背を預けていた。
タバコを咥えて火をつける──ふりをしながら、それを吸いはしない。
校内で吸う気はない。ただ、構えているだけ。
「……話あるなら早くしてくれない?」
声は軽い。けれどその奥に、明確な挑発の色。
日下部は立ったまま、手をポケットに突っ込んだまま、蓮司を見下ろしていた。
「……あいつのこと、どう思ってる?」
「誰の?」
「とぼけんな。遥のことだよ」
その名が出た瞬間、蓮司の唇がかすかに持ち上がった。
「ああ、遥? ……どうって、俺の“恋人”でしょ?」
「……それ、本気で言ってるのか?」
「さあ?」
タバコを弄ぶ指先が止まる。
蓮司は、ふっと日下部に目を向けた。
「本気かどうかって……おまえが決めるの? それとも本人に聞いた?」
「──おまえじゃ、あいつを守れない」
日下部の声が低くなった。
言葉の端に、苛立ちがにじんでいた。
「むしろ、おまえが、あいつを壊してる」
「……へえ。見えるんだ、そんなふうに」
蓮司は立ち上がる。
長身のその影が、日下部に近づいていく。
「でもさ、俺は“守る”なんて言ったことないよ? 好きでやってるだけ」
「──っ」
「それとも……おまえ、“信じたい”わけ? 俺たちの関係、嘘じゃないって」
「ちがう」
即答した日下部の目が、どこか揺れていた。
「ちがう、けど──」
「なら、余計なお世話だよね?」
蓮司が近づく。
至近距離。指先が、日下部の制服の胸元に触れる。
「ねえ、ほんとはさ──おまえのほうが、遥に触れたいんじゃない?」
日下部の手が、蓮司の手を払いのけた。
「黙れ」
「……図星?」
そのまま蓮司は、にこりと笑った。
「おまえって、さ。優等生ぶって、正義感ぶって、でも──一番、卑怯」
「おまえよりはマシだ」
「かもね。けどさ──俺の方が、遥にとって“本物の悪役”になれる」
「……ふざけるな」
「ふざけてるのは、おまえだよ。俺はずっと、遊んでるだけ。全部、おまえが勝手に真面目に見て、イラついてるだけ」
蓮司は最後に一歩だけ退いた。
そして、いつもの無邪気な口調で言う。
「じゃあね、日下部。……そんな顔で、遥に話しかけるなよ? 嫌われたくないならさ」
夕日の光が、蓮司の横顔を切り取っていた。
その目は、底が知れないまま、ただ“楽しげ”だった。