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受験勉強が本格化する前のひととき、俺は栞と瑞月を連れて、いや、連れられて、近所の神社で催されている秋祭りに来ていた。今日のように瑞月と一緒に外出するのは久しぶりだったから、言い出しっぺの栞には密かに感謝している。
俺が進学を希望している大学は、地元から少々遠い所にある。そこに合格すれば、高校卒業後は今までのように瑞月に会うことはできなくなってしまう。だから今日のような機会は、俺にとって非常に貴重で大切な時間だった。
綿あめ、チョコバナナ、やきそば、たこ焼き、かき氷など、様々な屋台が立ち並ぶ中、俺は二人の後を着いて歩きながら、ふと思う。
この前ここの祭りに来たのはいつだったかな――。
ふわふわした帯を金魚の尾びれのように揺らしていたその昔と比べると、浴衣姿の今夜の二人はぐっと大人びて見えて、なんだか落ち着かない。とりわけ髪を結い上げた瑞月の後ろ姿はひどくなまめかしく見えて、俺の鼓動はずっとうるさいままだ。
「ヨーヨー釣りだって。やろうよ!」
「いいよ!」
瑞月と栞の声が聞こえて俺は我に返った。
「お兄ちゃん、行くよ!」
「はいはい」
栞に呼ばれて俺は二人の元へ急いだ。今日の俺は、二人の保護者兼ボディーガードだ。離れるわけにはいかない。
ヨーヨー釣りに挑戦した二人は、それぞれ水風船を一つずつ手に入れた。店を後にした二人は、ご機嫌だ。
「お兄ちゃんもやれば良かったのに」
「俺がやったら全部釣り上げちゃって、店の人が困るだろ」
「なぁに、それ」
瑞月はふふっと笑ってから、俺と栞の顔を交互に見た。
「ねぇ、何か食べようよ。私、たこ焼きがいいなぁ」
「じゃあ、焼きそばも買おうよ」
俺は二人に呆れ顔を見せる。
「お前たち、晩飯食べて来たんだよな?まだ腹に入るのか?」
「だって、屋台の買い食いはお祭りならではの楽しみだもん」
「三人で分ければちょうどいいよ。諒ちゃんも食べるでしょ?」
瑞月はにこにこしながら俺に問いかけた。
その笑顔に、俺の表情筋はあっという間に緩みそうになった。しかし、だらしない顔を瑞月には見せたくないと、俺は眉間に力を入れて苦笑を作る。
「分かったよ、付き合うよ。今日は祭りだもんな」
「じゃあまずは、たこ焼きね」
栞と瑞月はいそいそとした足取りで、その屋台に近づいて行った。
買ったたこ焼きと焼きそばを手に、俺たちは参道からやや離れた場所にあるベンチに向かった。
そこに三人で座り、早速買って来たそれらに手を伸ばす。
食べ終えて瑞月と栞は満足そうに笑い合う。
「美味しかったぁ」
「こういう所で食べるとまた一段と美味しいよね」
「この後はどのお店に行く?……あれ?」
栞が小さく声を上げ、一点を見つめた。
「どうしたの?」
「クラスの友達みたい。ちょっと行ってくるね」
栞は立ち上がり、その友達らしき数人の方へと歩いて行った。しばらく話をしていたが、俺たちの所まで戻って来てこう言った。
「あたし、みんなと一緒に回って、それから帰ることにするね。だから、この後は二人で回ってもらってもいい?お兄ちゃん、いいよね?」
「いや、だけど……」
俺は渋った。母さんから保護者役を頼まれている。
すると、栞はにっと笑って言葉を加える。
「お母さんには、さっき連絡しといた。お兄ちゃんたちがいいならいいよ、って返事が来たよ」
「いつの間に……。母さんがいいって言ってたんなら、構わないけど。瑞月はどうする?帰るならこのまま送ってくよ」
「せっかく来たんだし、もう少し見たいなぁ」
「ってことで、決まりね!じゃあ、あたしはここで。お兄ちゃん、瑞月のことよろしくね」
栞は元気な声で言い、カラコロと下駄の音をさせて友達の方へ行ってしまった。
「まったく……」
ため息まじりのつぶやきを、うっかりもらしてしまった。
それを耳にした瑞月が申し訳なさそうな顔で俺に訊ねる。
「やっぱり、帰った方がいい?」
はっとした。もちろんそんな意味でのつぶやきではない。そして、瑞月に気を遣わせてしまったことを反省する。
「帰りたいとかそういうんじゃなくて、栞は自由だなって思っただけだよ。この後は、俺たちだけで楽しむとするか。瑞月が見たいって思う店、全部回ろうぜ。欲しいものがあれば、買ってやるよ。それで確か最後には、花火があるんだよな」
「うん。水上花火。花火は絶対に見たい!」
「いいよ。一緒に見よう」
俺はベンチから立ち上がり、胸がどきどきしていることを悟られないように平静を装いながら、瑞月の前に手を差し出す。
「行こう」
「うん!」
瑞月は嬉しそうに頷いて、ためらうことなく俺の手を取った。