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参道沿いに立ち並ぶ屋台を眺めながら、俺たちはぶらぶらと歩いていた。
瑞月はわくわくした様子で目を輝かせている。
その微笑ましい様子をもっと見ていたいと思った時、瑞月の足が止まった。
「どうした?」
「うん、ちょっと気になるものがあって……」
「気になるもの?」
訊き返しながら俺は瑞月の視線を辿った。
その先にあったのは、「りんご飴」の店だった。
「ほしいの?買ってやるよ」
しかし瑞月は口ごもる。
「でも、あれって、食べるのが難しそうだよね?お祭りとかで見かける度に気になるんだけど、まだ買ったことがないな、って」
「じゃあ、気になったついでに買ってみれば?」
「でも……」
まだ迷っている様子の瑞月の手を引いて、俺は店の前まで近づいて行った。
「りんご飴、一つ下さい。持ち帰り用に、そのケースに入れてもらっていいですか」
「はい、お待ちください」
店員からりんご飴が入ったビニール袋を受け取り、瑞月を促す。
「あっちで味見してみよう。おいで」
参道からやや外れた道端に寄り、俺は袋からりんご飴を取り出した。ケースから出したそれはつやつやと赤く、屋台の灯りを受けてぴかりと光った。
「食べてみなよ。ずっと気になってた憧れの『りんご飴』なんだろ?」
「でも、やっぱり食べきれないかも……」
「全部ここで食べなくたっていいじゃん。残りは家に持って帰ればいいんだから。ほら」
俺は瑞月の手に飴を握らせた。
「それじゃあ、せっかく諒ちゃんが買ってくれたから……」
飴を受け取った瑞月は恐る恐るといった様子で、その表面をカリっとかじり取った。
「んっ、ちょっと固い。あ、でも甘い。りんごの甘さも後から来たよ。初めて食べたけど、美味しい。ね、諒ちゃんも食べてみて。ほらっ」
予想していなかった瑞月の行動に俺はどぎまぎした。
「俺はいらないよ。それは瑞月に買ったものだから」
「そんなこと言わないで。はいっ、口、開けて」
瑞月は俺の口の前にりんご飴をぐいぐいと近づけてくる。よく見ると、自分がかじった部分を俺に向けていた。
こんなの、間接キスになってしまうじゃないか……。
このままその部分に口をつけてしまったら、罪悪感を覚えそうだ。それから逃れるために、俺は抵抗をやめた。
「分かった。一口だけもらうよ」
俺は瑞月の手からりんご飴を受け取り、どきどきしながら赤い表面に歯を立てた。もちろん、彼女が食べた部分は避けた。
「おっ?シャリシャリして意外とうまいな」
「ね?こんなこと言うとアレだけど、思ってたよりも美味しいよね」
「うん。でもこれってさ、男が手にしているのは、いまいち様にならないな」
俺は苦笑しながら、りんご飴を瑞月に返した。
「やっぱりさ、瑞月みたいな可愛い女の子が持っている方が、断然似合うよな」
つい本心が紛れ込んでしまったが、どうせ瑞月は俺の気持ちには気づきもしないだろう。
そして案の定、彼女は俺のセリフを見事なまでにスルーして、あははっと笑った。
「確かに『りんご飴』って、『男の子』よりも『女の子』っていうイメージかもね」
瑞月は俺の手からりんご飴を受け取り、もうひとかじりした。唇についた飴を舌でぺろりとなめとる。
祭りの柔らかい灯りの中、舐めた後の彼女の唇が艶やかに濡れて見えて、俺の胸は高鳴った。
もしも今瑞月にキスしたら、りんご飴の味がするのかな――。
その時、花火が始まるというアナウンスが耳に届き、俺ははっと我に返った。不埒な想像から現実に立ち戻り、瑞月に声をかける。
「花火、見に行くか」
「うんっ!」
りんご飴を片手に笑う幼馴染に、俺はやっぱりどきどきしながら手を差し出す。
「はぐれないように、手、繋ぐぞ」
「うん。あ、待って」
瑞月は残りのりんご飴をケースの中に戻し、袋の中にそっと仕舞い込んだ。
「おまたせ。諒ちゃん、行こっ」
瑞月は屈託なく笑いながら俺の手を取り、きゅっと握った。
彼女のいつも通りの様子に、俺の口からは小さくため息がこぼれた。
あまり考えたくはないが、俺の気持ちに気づく気づかないの話以前に、この幼馴染は俺を異性であると認識しているのだろうかと疑問が浮かぶ。
「諒ちゃん、どうかした?」
瑞月は不思議そうな顔で俺を見上げていた。
「なんでもないよ。花火の会場に向かおうか」
いつかは彼女と指を絡ませ合う関係になりたいと思う。しかし、俺はその気持ちを隠し、微笑みを浮かべて、瑞月の手をそっと握り返した。時機が来るまでは今の関係に甘んじておこうと、心の中で自分に言い聞かせた。
(了)