テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
お茶会までの仕込みは、予想外の事態も起こったが許容範囲。
エスメの体に戻り二週間が経った今日、オクレール侯爵邸自慢の薔薇園でお茶会を開催する。
薔薇を育てるのは昔から好きだ。丁寧に手を加えると、それに応えるように鮮やかに花開く。
招待状を送って来たのは六人。思惑通りの面子が揃った。
実は絶対に来ないだろう私に反感を持っている令嬢五人にも招待状を送っている。
案の定、招待に応じていない。
「お久しぶりね。みなさん。どうぞお座りになって」
私の言葉に令嬢たちは顔を見合わせた。
既に所作や言葉遣いから、この三年との違いを見せつけられた。
この子たちを再び私の支配に置くのは赤子の手をひねるより簡単そうだ。
「にゃー」
「きゃっ? 猫?」
足元にいたノエルに驚きの声をあげるアマンダ嬢。
私のプレゼントした繊細な刺繍を施したグリーンのマーメイドラインのドレスが彼女の瞳の色にあっている。
「この猫はアンドレア皇子殿下の猫ですか?」
ルシア嬢が目を輝かせて私を見た。
「ふふっ、ノエルはもう私の猫よ。ルシア嬢そのロイヤルブルーのドレス似合ってるわ」
「ありがとうございます。仕立て屋まで派遣して頂き、こんな素敵なドレスを頂いて嬉しいですわ」
ルシア嬢が礼を言うと、皆が口々に私に感謝を口にした。
「流石、エスメ様ですわ。聖女の流行させたドレスとは比べ物になりません」
「やはり、次期皇子妃のエスメ様こそ、私たち貴族令嬢を引っ張ってく方ですわ」
「皆、それぞれ違う薔薇が刺繍してあるのですね。エスメ様、どういった意味合いがあるのですか? エスメ様の金色の刺繍は一段と華やかな薔薇ですよね」
私は今日、純白のマーメイドラインのドレスに金色の薔薇の刺繍の入ったドレスを着ていた。
「ピエール・ドゥ・ロンサール、薔薇の王様よ」
私が言った言葉に、周囲の令嬢が目を輝かせる。
彼女たちは堂々とした女王様気取りの私について行きたいのだ。人付き合いが苦手なエスメ(ノエル)には物足りなさを感じていたのだろう。
「この薔薇の刺繍はエスメ様の親衛隊である証ですね。来週のアンドレア皇子殿下の誕生日の舞踏会には親衛隊はこのドレスで参上しましょう」
アマンダ嬢はクラリッサと同じ年の十七歳。クラリッサと仲が良く影響を強く受けている。
ドレスをお茶会に着るには高価にしたのはわざとだ。
流行は男の寵愛だけでは作れない事を私が直々に教えてやるつもりだ。
「アマンダの刺繍はエスメラルダ。花言葉は美しい少女よ。今年は少女から大人の女性になる年ね。美しく花開かせるといいわ」
微笑みながら私が言った言葉に、アマンダ嬢が感動し胸を抑える。
「素敵な言葉をありがとうございます。エスメ様のような美しく聡明な女性になるべく研鑽していきたい所存です」
「アマンダ! 図々しいわ。誰もお姉様のようにはなれないのよ。お姉様は特別なんだから」
相変わらず私の親衛隊隊長の妹に笑みが溢れた。
メイドのボニーがマカロンタワーを持って来て、テーブルの中央に置く。
令嬢たちは色とりどりのマカロンを幸せそうに見つめる。
「見て楽しんだら、取り分けましょうか。このマカロンは幾ら食べても太らない魔法のマカロンなのよ」
「「「流石、エスメ様ですわ」」」
全くの嘘である。太らないスイーツなど存在しないのが世界の真理。
細いウェストが美しいとされる中、令嬢たちは厳しい食事制限をしている。
目で見て楽しんで、一つ二つ摘むくらいなら罪悪感なく食べられるだろう。
ボニーが私に耳打ちする。
「聖女シエンナ様がいらっしゃってます」
聖女シエンナが訪れたのは思わぬ収穫。彼女に自分の立場を教える良い機会が早めに訪れたと思おう。
「こちらに案内して」
私の言葉とほぼ同時にシエンナが現れる。
案内される前に勝手に敷地に入ってくるなんて不躾な女。
「「「聖女様?」」」
他の令嬢たちも彼女の登場に動揺している。
淡いピンク色のドレスは繊細なレースをふんだんに使ったプリンセスライン。
現在、流行しているタイプのドレスだが私には淡い色も形も似合わないので着る気はない。
アンドレアの寵愛を受ける聖女ゆえに憧れの的として流行を作ったシエンナ。彼女は平民でありながら、令嬢たちに注目されている。
「ご機嫌よう。エスメ嬢」
膝を引いて貴族のようにカーテシーの礼をするシエンナに微笑み返した。
「あら? 本日は何のご用かしら? お約束はなかったはずですけれど?」
「お茶会があると聞きまして来ましたわ」
私は思わず溜息をついた。
私がダミー招待状を送った本日不参加の令嬢の中にシエンナ側について美味しい思いをしようと企んでいる人間がいる。
シエンナの過去の策略は一人ではなく協力者がいないと無理なものが多かった。
私は今日参加の六人以外には、それぞれ違う開始時間を明記した招待状を送った。
それぞれとサシで話す事で協力者を割り出そうと言う算段だったが、手間が省けた。
シエンナの協力者はミランダ・ドリアン伯爵令嬢。
アンドレアの婚約者候補だった一人だ。彼女は私への私怨が相当あるらしい。
空席だらけのお茶会を笑ってやれとばかりに、シエンナにお茶会の話をしたのだろう。
「招待されてもないのに来られるなんて、面白い方」
私が微笑むと、他の令嬢たちが嘲笑の笑みを浮かべる。
慣れないアウェーな雰囲気にシエンナは顔を青くした。
「席をご用意して差し上げて」
クラリッサがボニーに指示する。これから、私が彼女をどう料理するのか楽しみで仕方ないのだろう。
ボニーが末席に席を用意する。
指示もしてないのに、我が家のメイドは察しが良い。
戸惑いながらもシエンナが席に座ろうとした時だった。
「エスメ!」
聞きなれた声がして振り向くと、薔薇のアーチを潜り白馬に乗ったアンドレアが現れた。
⋯⋯これは、流石に予想外。
私は努めて平静を装う。
「アンドレア皇子殿下にエスメ・オクレールがお目にかかります。殿下が約束も無しに来られるなんて、恋人の悪い影響を受けていそうで心配ですわ」
扇子で口元を隠しながら、流し目でシエンナを見る。
私の目線を追って彼女を見つけたアンドレアは目を丸くしていた。
「シエンナ、何故ここに」
「アンドレア皇子殿下、酷いんです。私をお茶会に招待してないってエスメ様が意地悪するんです」
シエンナは自分以外が揃いのデザインのドレスを着ている状況を利用する事にしたようだ。
確かに彼女を呼んで仲間外れにしようとした状況にもとれる。
「招待されてないのは事実でしょ! 本当に不躾な女!」
クラリッサが私が攻撃されたと思い激昂する。
私はそんな彼女をアイコンタクトで制した。
クラリッサは感情の起伏が激しいのが弱点だ。
以前は悩ましく思っていた彼女の欠点だが、今は私が好きで怒っている彼女が可愛く見える。
私は場を沈めようと、ゆっくりと口を開いた。
「私はお茶仲間が増えるのは別に嫌ではありませんわ。ただ、アンドレア皇子殿下がわざわざシエンナ様をお迎えに来たので、もう帰られてはいかがですか?」
私の提案にシエンナは目に涙を浮かべ健気に笑顔を作ると、アンドレアに抱きついた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!