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お嬢はゆーやに鞍替えわかりやす🤣
2人きりにならないの、偉いな٩(ˊᗜˋ*)و 指輪、古いの捨てたら新しいのが要りますね(ワクワク☺️)
正輝にせよ、莉乃にせよ,瑠璃マリ先生笑わせてくれる…シルバーの指輪に白地に赤くってお似合いなのにねーある意味🤣🤣🤣
その日仕事を終えた杏樹が電車に乗っていると優弥から初めてのメッセージが届いた。
【お疲れ! あの成田って客はいつから君にしつこくしていたんだ?】
なんでそんな事を聞くのだろうと思いつつ杏樹はすぐに返信する。
【お疲れ様です。成田さんは2年くらい前からでしょうか?】
【そうか。森田と付き合っていた頃は指輪ははめていなかったのか?】
杏樹はキョトンとする。
(なんでここで指輪の話になるの?)
不思議に思いつつすぐに返信する。
【仕事中は着けていませんでした】
【……という事はまだその指輪は持っているんだな?】
【はい】
そこで一瞬間が空いた後、再びメッセージが届いた。
【今度の土曜日は空いてる?】
突然聞かれたので杏樹は驚く。
その時電車が駅へ着いたので杏樹は電車を降りるとベンチへ座ってから返事を送った。
【特に予定はありませんが】
【じゃあドライブに行こう。その時森田から貰った物は全部持ってこい】
(え? どういう事?)
【あの、ちょっと意味がわからないのですが……ドライブへ行くのに何で貰った物を?】
するとすぐに返事が来た。
【過去の思い出は処分してもらう。そして俺が上書きしてやる】
(ハッ? しょ、処分? どうやって?)
杏樹は更に驚く。
交際中正輝にプレゼントされた物は指輪一つだけだった。
贈られた時てっきりホワイトゴールドだと思っていた指輪はシルバーだった。
家に帰って指輪の裏を見ると『silver』の刻印があったのでがっかりしたのを覚えている。
杏樹の中ではシルバーは高校生か大学生が身に着けるイメージしかなかった。
おまけに正輝が選んだシルバーの指輪にはムーンストーンの石がついていた。
杏樹はムーンストーンは嫌いではなかったがどうせなら誕生石のアクアマリンが欲しかった。
なぜムーンストーンにしたのか正輝に聞くと、今女性の間で大人気だとテレビでやっていたからだという。
それを聞いて更にがっかりした。
せめてムーンストーンの石が小さければ仕事中にも身に着けられたのだが、その指輪のムーンストーンはとても大きい。
おそらく正輝は 石が大きい=価値が高い という安易な思い込みでその指輪を選んだのだろう。
しかしそのせいで仕事中には着けられず杏樹はデートの時にしか着けなかった。
正輝はそれが不満だったようだ。
杏樹はその指輪をどうやって処分するのか優弥に聞いてみた。
【処分ってどうやって?】
【海に投げてもいいし貴金属買取店へ行ってもいいぞ?】
(え? シルバーって買い取ってくれるのかな?)
杏樹は不安に思いつつ再度優弥に聞いてみる。
【シルバーでも買い取ってもらえるのですか?】
杏樹からの返信を見た優弥は自分の目を疑う。
(まさか27歳の女性にシルバーの指輪を?)
優弥はまさかと思い念のために聞く。
【その指輪はシルバーなのか?】
【はい】
【もしかして映画のタイトルにもなったあの有名ブランドの?】
【違います。多分ノーブランドです】
杏樹からの返信を見て優弥は呟く。
「……ったく、なんでそんな奴と付き合ってたんだ?」
優弥は呆れた顔のまま返事を送った。
【シルバーは買い取って貰えても1グラムせいぜい150円もしないだろうな】
(そんなに安いんだ……)
杏樹は愕然とする。自分はなんと安く見積もられた女だったのだろうか?
あまりの情けなさに脱力感に襲われたがそれでもなんとか返事を送る。
【だったら海へ投げます】
【よし、わかった。じゃあ土曜日は海へ行こう。朝10時に迎えに行くから準備しておくように】
【わかりました】
優弥とのやり取りを終えた杏樹は心臓がドキドキしてきた。
(え? え? 私海に行けるの? 海にあの指輪をポイッ?)
あの指輪とおさらば出来るのだと思うと杏樹はワクワクしてきた。どう処分しようかずっと悩んでいたからだ。
まさか優弥がその手助けをしてくれるとは思いもしない。
(モト彼からもらった指輪をイマ彼が処分してくれる? そんな事ってあるの?)
思わず杏樹はクスクスと笑い出す。
前を通り過ぎる人達は一人笑う杏樹の事を不思議そうに見ていた。
翌日、杏樹はいつものように窓口で来店客の対応をしていた。
昼の混雑時を過ぎると店内に穏やかなムードが漂い始める。その時自動ドアが開いて新たな客が入って来た。
入って来た客は早乙女家具の社長令嬢・莉乃だった。
莉乃は胸元が大胆に開いた真っ白なニットのミニワンピースに真っ赤なショールを羽織っている。
その色の組み合わせを見た杏樹の頭には日の丸の旗が浮かんだ。
美奈子も同じ事を思ったのだろう。すぐに小声で囁く。
「愛国心があるのはいい事だけれどあの服にこそピンクのショールよねぇ……惜しい!」
美奈子の残念そうな顔を見た杏樹は思わず吹き出しそうになったがなんとかこらえながら声を張り上げる。
「いらっしゃいませ」
莉乃は身体をクネクネさせながら歩いて来ると満面の笑みで美奈子の窓口へ来た。
そして冷ややかな目で杏樹を一瞥する。
(なんでいつも私を睨むの?)
杏樹は小さくため息をつきながら気付かないふりをした。
莉乃が口を開く前に美奈子が声をかける。
「早乙女様いらっしゃいませ、得意先課の森田ですよね、今お呼びしますので…」
美奈子が席を立とうとすると莉乃はそれを制止する。
「あ、違うんです。今日は副支店長さんへお話があって……今いらっしゃいますか?」
「あ、はい、お掛けになって少々お待ち下さい」
美奈子はすぐに副支店長席へ向かった。
するとすぐに優弥が来てカウンター内から莉乃を呼んだ。
「早乙女様、お待たせ致しました。今日はどういったご用件でしょうか?」
「どうも♡ 今日は父から頼まれた用件をお伝えしたくて参りましたの」
「でしたら担当の森田が承りますが……」
「いえ、父が副支店長さんに直接にと申しておりまして……」
そこまで言われたら相手をしない訳にはいかない。
「わかりました、では奥の応接室へどうぞ」
優弥はカウンターを出ると莉乃を応接室へ案内した。
後から嬉しそうについて行く莉乃の表情は優弥の後ろ姿にうっとりとしている。
そこでまた美奈子が言った。
「なーに? あのうっとりした表情。ターゲットはもう副支店長に変わってるじゃん」
「みたいですね」
(正輝は一体どうなるんだろう?)
その時応接室に入った優弥がすぐに出て来た。
優弥は自分のデスクに戻ると立ったまま電話をかける。おそらく内線電話だろう。
すると2階から慌てて得意先課長が降りて来た。
「森田君は?」
「今外に出ています」
「じゃあ課長が一緒に来て下さい」
「わかりました」
優弥は庶務の沙織に来客用のコーヒーを頼むと課長を連れて応接室に入って行った。
それを見た美奈子が言った。
「副支店長やるじゃん。これで日の丸社長令嬢からのお色仕掛けからは逃げられるわね」
杏樹の左にいた真帆も言った。
「副支店長超有能ー! さすが女の扱いには慣れていますよねー」
「うん、モテる男はやっぱ違うねー、あしらい方が上手い」
二人がうんうんと頷くと杏樹も言った。
「ほんと見事な対応力……私も見習わなくちゃ」
杏樹は思わず顔を綻ばせた。