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それから数日間崇矢の家での共同生活は続いた。
最初は一泊だけするつもりだった天馬であったが、
今すぐに自宅に戻れば、また美琴に狙われかねないと天馬の事を心配した崇矢からの提案により
しばらく厄介になる事にしていた。
あれ以来、美琴からのLINE連絡もパタリと止み、天馬こんな生活がずっと続けばいいのにと束の間の平穏を満喫していた。
しかし同時に、どことなく寂しげな表情をしていた。
それは、一緒に昼食を食べに行くと約束していた崇矢から直前に電話連絡があり
午後からもバイトをしなければならなくなった為、行けなくなったと言われてしまったからだ。
仕事だから仕方ないとはいえ、楽しみにしていた天馬はだいぶショックを受けているようだ。
「はぁ〜なんかこの部屋無駄に広いから一人だと虚無感がすごいなぁ〜
はやく帰ってこないかなぁ〜」
天馬がつまらなさそうにしていると
インターフォンが鳴り響く。
「あれ?崇矢かな?ずいぶん早いなぁ崇矢ったら鍵持って行かなかったのかなあ?」
「わかったよ!今開けるから!鍵くらい持って行けよなぁ」
天馬は呆れた様子でドアを開ける。
「もう崇矢!きちんと鍵を」
天馬の言葉はそこで止まった。いや正確には喋れなくなってしまっという方が正しいだろう。
ドアを開けて、目の前に居たのは崇矢ではなく美琴だったからだ。
「や♫天馬くん♫久しぶり♫」
「み、美琴さん?なんで?」
天馬は予想外の出来事で目の前が真っ暗になる感覚に苛まれていた。
「あれ?お友達は?えーっと崇矢さんだったっけ?
彼は居ないのかな?留守?天馬くん一人?」
ここで崇矢が留守だと正直に話してしまえば、美琴に何をされるか分かったものでないと考えた天馬は
必死に考えて「あっ、えっと、今風呂に・・・」
しかしそんな嘘は美琴に通用していなかったようで
「もー!嘘ばっかり!崇矢さんはお仕事中でしょ?
天馬くんのウソツキ!バレバレだよ!」
天馬は返す言葉がなかった。
早く帰ってくれと内心ヒヤヒヤしていたが、そんな気持ちは美琴には通じておらず
「ちょっとお邪魔させてもらうね!お邪魔ましまぁす♫」
美琴は天馬の静止を振り切り、ズケズケと部屋の中へ入っていく。
部屋に入り、広々とした内装を見た美琴は
「へぇ、立派なお部屋!素敵ねぇ。もしかして彼ってお金持ちなの?」
美琴はまるで自分の部屋だと言わんばかりに、ソファに座り天馬に微笑む。
「ちょっと美琴さん!帰ってくださいよ!お願いしますから!」
「もぅ天馬くんったら、敬語なんてよそよそしいんだから!
恋人なんだから敬語なんて使う必要ないじゃん!タメ語で話そうよ!ね?」
今の美琴は以前部屋に突撃して来た時よりも、さらに暴走している。
今はどんな言葉を投げかけたところで、意味をなさないと判断した天馬は
美琴に言われるがまま、ソファに腰を下ろす。
「じゃあお話ししましょうか♫邪魔者は誰一人居ないわけだし!ね?」
時間を少し遡り、美琴が崇矢宅を訪れる数時間前。美琴は六車とのスマホを介した定期連絡を行っていた。
「ならもう住所はわかっているんだな?」
六車は、相変わらず変成器で加工された声で美琴に語りかける。
どうやら美琴は、天馬を匿っている崇矢の自宅マンションの住所を尾行して突き止めた報告をしているのだろう。
「そうか!そうか!俺が教える前に調べるとは、大した女だなぁ」
「え?それって、知ってたって事ですか?なんであなたがそんな事を・・・」
「お前が知る必要があるか?前にも言ったはずだ!
お前は俺が出された指示をただ遂行していればいいんだ!妙な詮索はするな!」
「す、すいません・・・」
マンションの住所を把握しているならば、今すぐ部屋突撃しろという指示を下す六車に対し
美琴はまた鳥丸に邪魔されないだろうかと不安気味のようだ。
しかし、六車は鳥丸は仕事に行っているから部屋には居ない。
そして調べたから間違いとつけくわえた。
「な、なんでそんな事まで知ってるんですか?」
「また疑ってんのか?俺の事を」
「違います!違います!すいません!信用してすから!」
「なら信用してその住所に向かえ!わかったな?」
「はい・・・わかりました」
部屋では重苦しい沈黙が続いていた。その静けさを振り切るかのように美琴が口を開く。
「天馬くん・・・ごめんね・・・」
突然謝る美琴に動揺を隠せない天馬。
「ど、どうして謝るんですか?」
「私はね・・・天馬くんを心の底から愛しているの」
天馬は美琴の話を黙って聞いていた。
「この前は申し訳ない事をした。そう思ってるでもこれだけは分かって?
別に天馬くんを怖がらせようとしていたわけじゃないのよ?
ただ、私って昔から人を好きになると、周りが見えなくなっちゃうの自分の気持ちを伝えたい!
愛してるって知ってほしい!そう考えれば考えるほどに
相手の気持ちを無視して暴走しちゃうの・・・
だからあんな事を・・・本当にごめんなさい」
美琴はさらに続ける。
「お友達にも悪いことしちゃった。でも天馬には私の愛を知ってほしい!受け止めとほしいの」
「美琴さん・・・」
天馬は内心美琴に同情していた。
美琴から怖い思いをさせられた過去は消えないが
美琴には美琴なりの想いがあったのだと、その言葉から感じ取ったからだ。
「天馬くんって・・今・・アレ・・持ってる?」
「アレって?」天馬はおぼろげに避妊具の事かもしれないと、頭の片隅で考えていたが
違うかもしれないと、一応美琴に尋ねる。
「ううん。持ってなくてもいい。私・・我慢の限界なの!天馬くんとひとつになりたい!」
美琴はそういうとキッチンまで走って行った。
「ちょっと!美琴さん!」
そんな美琴に不安を抱きつつも、後を追って天馬もキッチンへ向かう。
しかし、天馬は美琴が手にしている物に恐怖を抱いた。
美琴が手にしていたのは包丁だったからだ。
「美琴さん?包丁なんか持ってどうするつもりなんですか?やめてください!」
「私ね・・・好きな人を包丁で刺して、その血を見ながら無理やりエッチをするのが
たまらなく好きなの!血に・・・興奮するの」
「なんだよ・・・それ・・・」
しかし美琴にはそんな性癖は無い。
これは美琴が六車の指示を遂行するために、仕方なく作り出した設定だった。
「ホラ見て・・・天馬くんの血を想像しただけではぁ・・・はぁ・・・こんなに濡れちゃってる」
美琴はスカートを自ら捲り上げ、パンツから滴り落ちる水滴を見せつける。
しかしこれも美琴が作り出した設定。
美琴がこの部屋に訪れる前に、水で予め濡らしていた事によって濡れているのだった。
しかしそんな事を知る由もない天馬にとって、恐怖以外のなにものでもなかった。
「そんな冗談やめてくださいよ!」
「冗談なんかじゃないよ?私本気なの!天馬くんの・・・血を見せて」
天馬は必死に逃げようとするが、腰が抜けて力が出ないようで、その場に倒れ込む。
「やめてください!お願いします!」
その瞬間、美琴は何者かに蹴り飛ばされ倒れ込む。
「え・・・何で?何でいるの?」
天馬は驚きを隠せなかった。それもそのはずだ。
そこにいたのは、午後からもバイトをしなければならなくなった為
昼食を食べに行く事ができなくなったと言っていた崇矢だったからだ。