CyberSpace.inc は、このビルの37階から41階までを本社オフィスとして使っていた。
受付は37階にあるが、奈緒は直接38階へ来るように言われていた。
エレベーターを降りると『面接会場はこちら➡』という案内板があったので、奈緒は廊下を右に進んで行く。
反対側の廊下には社員の姿がチラホラ見えたが、奈緒がいる廊下には全くひと気がない。
途中ですれ違ったのも清掃の女性一人だけだ。
いくつも並んでいる扉の横には、会議室・備品庫・資料室と書かれてある。
こちら側は普段あまり使われていない部屋が多いようだ。
突き当たりの部屋まで行くと、『面接へお越しの方は、中の椅子に座ってお待ち下さい』と書かれてあった。
部屋には誰もいないようだが、奈緒は念の為声をかけて中へ入る。
「失礼します」
部屋に入ると椅子が十脚ほど並んでいたので、奈緒はその一番端に腰を下ろす。
そして室内を見回した。
この部屋も会議室のようだが、それは奈緒が知っている会議室とはかなり違った。
窓は足元まで全面ガラス張りで、曇り一つない窓からは外のビル群が一望出来る。
それは会議室というよりも展望台のようだ。
室内は白い壁に白いテーブル、そして床はライトベージュの無垢材だ。そこには会議室によくありがちな無機質な感じは全くなく、どちらかといえばナチュラルな雰囲気でとても居心地が良い。
そして何といっても窓から見える真っ青な空に心が洗われるようだ。
(夜はきっと夜景が綺麗なんだだろうな……こんな素敵な会社なら働いてみたいかも)
まだ面接前だというのに、奈緒はそんな風に思った。
その時一人の女性が入って来た。
薄ピンク色のワンピースを着たとても綺麗な女性だ。
歳は奈緒と同年代のように見える。
奈緒は慌てて立ち上がると女性に挨拶をする。
「こんにちは。本日二時から面接の予約を入れております麻生と申します」
そして丁寧にお辞儀をする。
すると女子社員は上から下まで奈緒を値踏みするように見つめた後、気だるげに言った。
「人事部の名取です。では今から面接会場へご案内いたします」
女性はツンとすましてひとことだけ言うと、すぐに歩き始める。
奈緒は慌てて女性の後をついて行った。
今奈緒を案内している社員は、先ほど省吾がエレベーターで一緒になった名取美沙だ。
美沙は採用面接に女性が来ると、いつもこんな風に冷ややかな態度を取る。
今日は経理部の面接なのでこの程度で済んだが、秘書志望の女性が来るともっと手厳しい。
実は美沙は人事部という特権を生かし、深山省吾に近付く女性をことごとく排除していた。
排除する為には上司に嘘の報告までする。
それは例えば採用面接を受けにきた人が遅刻をした、礼儀がなっていない、待っている間の態度がひどかった等色々だ。
美沙は嘘をでっちあげて、しれっと上司に報告していた。
今まで省吾の秘書が決まらなかったのも、全てこの美沙のせいだった。
しかし誰もその事に気づいていない。
奈緒は歩きながら美沙の態度に違和感を覚える。
人事部と言えば会社の顔だ。その人事部の人間がこんな態度でいいのだろうかと疑問に思う。
(この会社の人はクールな人が多いのかな?)
美沙の態度に若干不安を覚えたが、ここは今を時めく人気IT企業だ。
奈緒が今まで勤めていた昔ながらの会社とは社風が異なるのだろうと思う事にする。
その時美沙が足を止め、面接会場となっている部屋のドアをノックした。そして中を覗き込んで声をかける。
「ご案内してもよろしいでしょうか?」
「お願いするわ」
中からはハキハキとした女性の声が聞こえてきた。
「ではこちらへお入り下さい」
奈緒はいよいよ面接が始まるのだと思い、少し緊張気味に声を出す。
「失礼いたします」
そして入口で深く一礼をしてから面接会場へ入って行った。
部屋には四人の面接官がいた。
男性が三名と女性が一名。
面接官の人数をさりげなくチェックしながら奈緒は椅子の傍まで進む。
そして再び挨拶をした。
「麻生奈緒と申します。よろしくお願いいたします」
もう一度お辞儀をしてから前を向くと、そこに見覚えのある顔があったので奈緒は驚く。
(!)
なんと面接官の中には、あの大雪の日に海で出逢った男性がいた。
「やぁ、また会ったね」
省吾はニッコリ笑うと右手を挙げる。
その瞬間、他の三人が驚きの表情で一斉に省吾を見た。
「なんだ、お前の知り合いか?」
「えっ? そうなの?」
「うん、ちょっとね」
省吾は思わせぶりな顔つきのまま、奈緒に言った。
「どうぞ、座って楽にして下さい」
「し、失礼いたします」
椅子に座った奈緒の心臓はバクバクと音をたてている。
緊張と驚きで声が少し上ずってしまった。
(なんであの人がここに?)
すると省吾が自己紹介を始めた。
「私は CyberSpace.inc 最高経営責任者の深山省吾です。よろしく」
(あ、やっぱり…)
奈緒は予想が的中したので心の中で呟く。しかし今は面接中だという事を思い出し慌てて頭を下げた。
すると省吾は隣の公平にも自己紹介を促す。
「私は最高執行責任者の川田公平と申します。よろしくね」
さらにその隣の男性も自己紹介をした。
「人事部長の杉田浩二(すぎたこうじ)です。本日はわが社の面接へようこそ!」
そして最後に一番左端の女性が挨拶をした。
「経理部長の村田美奈子(むらたみなこ)です。先日はお電話でありがとうございました」
村田はそう言ってニッコリと微笑んだ。
歳は40くらい。ショートヘアにシルバーフレームの眼鏡をかけ、シンプルな黒のパンツスーツを着こなした村田は、まさにバリキャリといった雰囲気の素敵な女性だった。
もしこの会社に採用されれば村田が上司になるのかもしれない……そう思うと奈緒の胸は高鳴る。
最高執行責任者の川田公平は省吾と同年代くらい、そして人事部長の杉田は30代後半といったところだろうか。
二人とも紳士的で爽やかなイケメンだった。
役員がこの若さだから、社員の平均年齢はもっと低いのかもしれない。
奈緒がこの会社に来て感じたイメージは、最先端、スマート、自由、そして若さだ。
それは役員達の服装にも表れている。
人事部長といえば普通は地味なビジネススーツが一般的だが、杉田は水色のワイシャツに白のパンツ、それにベージュのジャケットを着ていた。
最高執行責任者の川田も、遊び心のあるボタンのついたワイシャツにダークグレーのパンツ。それにネイビーのジャケットを羽織っている。
二人ともとてもお洒落で洗練されている。
一方最高経営責任者の深山省吾も、白のカットソーにグレーのパンツ、それに黒のジャケットを羽織っていた。そのシンプルで清潔感溢れる服装は、まさに新進気鋭のCEOにぴったりのファッションだ。
奈緒は自分がリクルートスーツスタイルでいる事が急に恥ずかしくなる。
そして四人の自己紹介が終わると、いよいよ奈緒の面接がスタートした。
コメント
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自己中で 秘書に向かない 名取美沙 自己中で 嘘つきだした 名取美沙 自己中で いずれボロ出す 名取美沙。 むしろ、今までよぅバレへんかったな。いっぺん成功すると、これを重ねていって、いずれもっとでかいことをやらかす。こりゃ犯罪と同じ道程。
美沙は会社の顔ということを忘れてると思う。 いつか痛い目にあうんだろうなぁ。
省吾さんと奈緒ちゃん、 面接で ついに再会💕💕 さて採用なるか....⁉️ 人事部に美沙のような態度の人がいるのは問題だと思う....😓 いくらコネでも、こんな人雇ったら絶対にダメ🙅🆖 まあ そのうち悪事がバレて排除されるでしょうけれど⚔️😁