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(室内・夕方。タコ焼き器の上でじゅう、と音がする。三人は座卓を囲んで、粉の入ったボウルや具材の皿を前にしている)
蓮司「……ウインナー、もうちょっと入れてもいい?」
日下部「いや、入れすぎ。バランスって言葉知らないのか?」
蓮司「チーズも入れるつもりだけど」
日下部「それはいい。でもウインナーで埋まると、味ぼやけるんだって」
遥(静かに生地をかき混ぜながら)「……これ、混ぜすぎた?」
蓮司「ちょうどいい。気泡出てきたら、それっぽい感じ」
日下部「“それっぽい”って何だよ……」
(蓮司、生地をタコ焼き器に流し込む)
蓮司「よし。じゃあ、好きな具、各自で入れて」
(遥、おそるおそるウインナーをひとつつまんで、端の穴に落とす)
遥「……入れた」
日下部「うん。で、もっといく。野菜も」
遥「焦げない?」
蓮司「焦げても、まあ……カリカリってことにしとこう」
日下部「適当すぎるって」
蓮司「適当っていうか……こういうの、きっちりやるもんじゃなくない?」
(沈黙。たこ焼き器から、じゅう、という音だけが響く)
日下部「……なんか、こうしてると、家みたいだな」
蓮司「……そっちはどうなの、遥。楽しい?」
(遥、少しだけ考えて、小さくうなずく)
遥「……たこ焼き、初めて」
日下部「食べるのが? 作るのが?」
遥「……作るの」
(少しの間)
蓮司「じゃあ、今日は記念日だな」
遥「……変な記念日」
日下部(笑う)「まあ……そういうのも、悪くないでしょ」
(そして再び、生地を回す音だけ)