夕方の光が、街を金色に染めていた。
スーパーの袋を片手に、真白とアレクシスは並んで歩く。
秋の風はやわらかく、けれどどこか寂しさを運んでくる。
「アレク、これ重くない?」
「大丈夫。真白の方が牛乳持ってるんだから、そっちのほうが重いよ」
「うーん、じゃあおあいこだね」
ふたりは顔を見合わせて、ふっと笑った。
その笑い声が、並木道の向こうへと溶けていく。
公園を抜ける近道。
足元には、乾いた落ち葉がいくつも重なっている。
一歩ごとに、ぱり、ぱりと音がした。
言葉の代わりに、その音だけが続いていく。
不思議と静かで、心地よい沈黙だった。
「……こういう音、好きかも」
真白がつぶやくように言う。
「落ち葉の?」
「うん。なんかね、“季節が変わっていく”って感じがする」
「なるほど。たしかに、音で季節を感じるっていいね」
アレクシスは頷き、風に吹かれた前髪を軽く押さえた。
その仕草がどこか絵になって、真白は思わず目を細める。
ふと、アレクシスが立ち止まった。
彼の足元に、真っ赤な葉がひとつ、風に押されて転がってくる。
アレクシスはそれを拾い上げ、真白に差し出した。
「これ、君に似てる」
「え?どこが?」
「見てるだけで、あたたかい感じがする」
不意の言葉に、真白は頬が熱くなった。
「……それ、言いすぎ」
「ほんとだよ」
アレクシスは軽く笑い、葉をそっと真白に手渡した。
「持って帰ろう。テーブルの上に飾ったら、秋らしくなる」
「うん……そうだね」
沈黙。けれど、先ほどよりも柔らかい。
足元でまた、落ち葉が鳴る。
ぱり、ぱりと、まるでふたりの歩調を刻むように。
公園の出口に差しかかる頃、太陽はほとんど沈んでいた。
街灯がぽつり、ぽつりと灯る。
その明かりの中で、アレクシスの横顔が一瞬だけ照らされた。
穏やかで、静かで、けれどどこか切ない表情だった。
「アレク」
「ん?」
「こうして帰るの、好きだな」
「……うん。俺も」
それ以上、言葉はいらなかった。
風が二人の間を通り抜け、落ち葉がまた舞い上がる。
その音が、まるで優しい拍手のように聞こえた。
帰り道の途中で、真白はポケットに入れた赤い葉をそっと取り出す。
指先で触れると、まだ少しだけ温かかった。
それはきっと、さっきアレクシスが手渡した温度のせい。
――季節が変わっても、このぬくもりだけは変わらない。
そんな確信が、胸の奥で小さく灯る。
遠くで子どもの笑い声がして、空には一番星が滲んでいた。
秋の夜が、そっと始まろうとしていた。
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