航太郎が、長野へ行っている間の五日間、賢太郎と葉月の絆はさらに深まった。
二人だけの甘い時間を過ごす合間には、将来の話で盛り上がる。
そのうちの一つが、家のリフォームについてだ。
リフォームの施工は、建築設計事務所に勤めている千尋に頼むことにした。
二人は将来についてを語り合いながら、買い物にも出かけた。
そして、ショッピングモールでは、新生活に必要な雑貨や家具を見て回る。
前の夫・啓介は、葉月が買い物をしているとすぐにイライラして急かしたが、賢太郎は違った。
彼はむしろ、葉月と一緒に選ぶことを楽しんでいる。
そんな賢太郎のお陰で、葉月は心置きなく買い物を満喫できた。
こうして、二人の五日間は楽しく過ぎていった。
(結婚って、特別なことは必要なくて、日々こんな風に楽しめることが大切なのかも……)
葉月は、賢太郎と過ごすうちに、自然とそう思うようになっていた。
そして、五日目の金曜日、いよいよ航太郎が帰ってくる日だった。
この日、葉月はいつものように出勤した。
航太郎の迎えは、賢太郎が行ってくれることになっている。
(五日も離れていると、早く会いたくなるから不思議ね)
葉月は、久しぶりに息子に会える喜びに、ウキウキしながら出勤した。
そして午後三時、葉月は短い休憩に入った。
飲み物を持って休憩室へ行くと、椅子に腰を下ろす。
その時、携帯にメッセージが届いたので、すぐにチェックした。
【母ちゃん、ただいま! 無事、帰還いたしましたっ!】
メッセージには、賢太郎が撮ったと思われる写真が添えられていた。
それは、ファミリーレストランのハンバーグを前にして、敬礼をしている航太郎の写真だった。
心なしか、少し逞しくなった息子を見て、葉月は胸がいっぱいになる。
(ふふっ、山焼けしちゃって……まるで山男みたいじゃない)
葉月が微笑みながら携帯をしまおうとしたとき、ちょうど大崎が休憩室に入ってきた。
缶コーヒーを買った大崎は、椅子に座る葉月に気づくと、そばまで来た。
「お疲れー!」
「お疲れ様!」
大崎は、汗を拭きながら葉月の前に座ると、缶コーヒーをプシュッと開けて言った。
「そういえば、息子ちゃん、帰って来た?」
「うん。見てこれ!」
「おー! 焼けてんな―」
「山でもこんなに焼けるのね。まるで山男みたい」
「いい笑顔じゃん! 山にも登ったんだっけ?」
「うん。山岳写真家の友人が連れて行ってくれたみたい」
「そっか、いい経験したんだなー」
「うん。ありがたいわ」
そこで、大崎は缶コーヒーを一口飲むと、姿勢を正してからこう言った。
「そうそう……俺、芹沢ちゃんに報告があるんだ」
「報告?」
「うん。実はさ……嫁さんと、復縁することが決まった」
少し照れた様子の大崎を見て、思わず葉月は大声を出した。
「うそっ!」
「本当!」
「うわっ、びっくり!」
「うん。でさ、芹沢ちゃんにはいろいろとお世話になったから、一番先に報告しようと思ってさ」
「うわぁ……おめでとう! 良かったー! 頑張った甲斐があったねー!」
葉月は思わず目が潤んでくる。嬉しそうな大崎を見て、胸がいっぱいになった。
「ありがとう! いやぁ、でもさぁ、これもすべて芹沢ちゃんのアドバイスのお陰だよ」
「禁煙頑張ったもんね」
「それだけじゃないよ。やっぱり女目線のアドバイスが、すごく役に立った。芹沢ちゃんに言われた通りやってたら、妻の態度が明らかに和らいでいったからなぁ。いやー、芹沢ちゃん、最強! 持つべきものは、やっぱ頼りになる友だな!」
「ふふっ、そんなに効果あったんだ。だったら、離婚復縁カウンセラーにでもなって、起業しようかなぁ?」
「マジでなれると思うぞ! 俺が保証する!」
「ふふっ、じゃ、ちょっと真剣に考えちゃおうかなー?」
葉月が冗談めかして言うと、大崎が声を出して笑った。
思わず葉月もつられて笑う。
しばらく笑ったあと、大崎は急に真面目な顔をしてこう言った。
「いや、冗談抜きで、感謝してます。本当にありがとう」
「ううん、私は何も……。奥様の心を動かしたのは、私のアドバイスなんかじゃなくて、大崎さんの努力だと思うよ。大崎さんが諦めずにちゃんと向き合った結果なんだから、自信を持って! あ、でも、だからって安心して気を抜かないでよ。一緒に生活を始めてからが本番なんだから。二度と前の過ちは繰り返さないようにね!」
「わかってる。今度捨てられたら、もう次はないだろうし。だから気を引き締めて頑張るよ」
「ちゃんとわかってるなら、よしっ! あー、でも、幸せな報告を聞くと、なんかこっちまで嬉しくなっちゃうー」
心から喜んでいる葉月を見て、今度は大崎が聞いた。
「芹沢ちゃんも、何かいいことあったんじゃないの?」
突然の大崎の言葉に、葉月は驚いた。
「え? わかる?」
「やっぱあるんだな? なんか最近の芹沢ちゃん、幸せオーラが漏れまくってるもんなぁ」
「え? 大崎さんって、そんなに鋭かったっけ?」
「俺は霊感強いぞぉー」
「えー? なんかイメージ違う! 幽霊とか全然見えてなさそう!」
そこで、二人は再び声を出して笑った。
笑いが落ち着くと、葉月が言った。
「私も再婚することになったの」
その言葉に、大崎は口をぽかんと開けて驚いた。
「マジか?」
「うん」
「相手はもしかして……」
「?」
「合コンの?」
「違う違う。あれは何もなかったから」
「え? じゃあ、まさかの、あの鉄道写真家とか?」
「ピンポーン!」
そこで、大崎はさらに目を見開いて驚く。
「マジで? いつの間に? 鉄道写真家とそんなことになってたんだ?」
「ふふ、いつの間にか……ね」
「びっくりさせんなよー! 俺が報告してる場合じゃねーっつーの! で、で? 詳しく聞かせて!」
「あ、ざんねーん、私の休憩もう終わりー!」
「ちっくしょう……じゃあ、明日の昼休みな! 昼休みに洗いざらい全部話してもらうからなー!」
「わかったわ。じゃ、お先にー!」
ニッコリ笑いながら席を立つと、葉月は休憩室をあとにした。
(ふふっ、明日の昼休みは、食事する暇ないかもね!)
葉月は思わずクスッと笑いながら、自分のデスクへ戻った。
コメント
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大崎さんも葉月ちゃんもそして航太郎君もみんなみんなおめでとう❣️ 葉月ちゃんこれからは賢太郎様と三人で仲良く楽しい家庭になるよ(╹◡╹)♡ 大崎さんも奥さんと娘さんと三人仲良く暮らしてね^_^
航太郎くん、 おかえりなさい🎵 きっと彼は、お家の様子や、母ちゃんと賢さまの関係の変化にビックリ&大喜びするんだろうなぁ~.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.♪楽しみ♡ そして大崎さんの復縁に葉月ちゃんの再婚....⛪️🔔💐🎉 皆がhappyで嬉しいです🍀✨
航ちゃんおかえり🥰 「母ちゃん、ただいま!」に息子のいない私はキュンキュン🩷しちゃいます😆 お家もリフォームして新たに3人での生活スタートもワクワクしますね🤗 大崎さん、奥様との復縁おめでとうございます🥳✨ 良かったね~💃💃💃 「今度捨てられたら」って自分の方に落ち度があったと分かっていれば大丈夫👍家族を思いやっての行動は伝わりますよ~🥰