テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
5話 引っ越すなら10024へ行こうよ
窓際の席は、
光が均一だった。
影ができない。
時間が進んでいる感じが、
薄い。
リカは、
椅子に深く座る。
長めの上着。
袖は手の甲にかかり、
指先だけが出ている。
腰元で、
電子マネーのキーホルダーが
静かに触れ合う。
向かい側には、
軽い上着の友達。
動きやすそうな靴。
肩から下げた鞄の横で、
ぬいぐるみほどのサルが
小さく揺れている。
「さ」
声は軽い。
「引っ越すなら、
10024でよくない?」
冗談みたいな調子。
リカは、
少しだけ間を置く。
「急にどうしたの」
「だってさ、
便利だし」
笑いながら、
指で窓の外を示す。
整いすぎた景色。
高さのそろった建物。
人の動きは見えるのに、
音がない。
もう一人は、
少し派手な服装。
複数のキーホルダーを
まとめて持ち、
足元で音が鳴る。
「ここなら、
困らないよ」
そう続けられて、
リカは笑った。
「冗談でしょ」
言い切る。
深く考えないように、
軽く。
冗談として受け取るのが、
一番楽だった。
「えー」
不満そうな声。
でも、
それ以上は続かない。
話題は変わる。
次に行く場所。
何を食べるか。
窓の外の景色は、
ずっと同じまま。
リカは、
キーホルダーを指でなぞる。
半端な残高。
よく使う一つ。
存在感の薄いお守り。
どれも、
ここには合わない気がした。
帰り際、
四次元装置を操作する。
番号を入れる。
確定。
表示を見た瞬間、
胸の奥が
少しだけ落ち着く。
冗談は、
冗談のままでいい。
その日は、
そう思っていた。