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#一次創作
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#相談部屋
放課後。
相談者は椅子に座ったまま、しばらく黙っていた。
「俺、いじめられてるんです」
遥は黙って聞いている。
「それで、最近よく言われるんです。『無理なら逃げていいよ』って」
少し間。
「でも、あの言葉、嫌いです」
遥は視線を上げる。
「何で」
「逃げていいって言われても」
相談者は膝の上で手を握る。
「逃げたいわけじゃないんです。普通に学校行きたいし、普通に授業受けたいし、友達と話したい」
一拍。
「それを全部奪われて、最後に『逃げていい』って言われると」
少し笑う。
「何か、俺が出ていく側みたいで」
教室が静まる。
遥は何も言わない。
「転校したら」
相談者が続ける。
「『逃げたんだ』って思われそうで。不登校になったら『負けたんだ』って思われそうで。じゃあ我慢するしかないのかって考えると」
視線が落ちる。
「それも違う気がする」
遥は机に置いたペンを指で転がす。
「……難しいな」
相談者が顔を上げる。
「はい」
「逃げるか、耐えるか」
遥は少し間を置く。
「その二つしかないみたいにされると、どっちを選んでも苦しい」
相談者は黙っている。
「俺」
遥が続ける。
「逃げるって言葉、あんまり好きじゃない」
相談者が少し驚く。
「遥も?」
「うん」
短く。
「だって、そこにいることで傷つき続けるなら」
一拍。
「離れるのは、負けとは限らない」
相談者は黙って聞いている。
「でも」
遥は続ける。
「離れたくないなら、離れたくないって言っていい。学校に行きたいなら、行きたいって言っていい。ただ」
少し間。
「今の場所に行き続けることだけが、そのための方法じゃない」
教室が静まる。
相談者は俯いたまま、しばらく黙っていた。
「……俺。本当は、誰かに『転校しろ』って決められるのも嫌だったんです。『不登校になればいい』って言われるのも。俺の学校なのに」
一拍。
「俺がどうしたいか、最後まで聞かれない感じがして」
遥は頷く。
「それは嫌だな」
相談者が顔を上げる。
遥は続ける。
「いじめてる側が勝手に居場所を決めて。周りがその後の選択肢を決めて。本人はその間で耐えるだけ」
少し間。
「そんなのおかしい」
相談者は何も言わない。
「逃げるかどうかじゃなくて」
遥は言う。
「どうしたら自分を守れるか。誰に助けを求めるか。どこなら安心して過ごせるか」
一拍。
「そっちを考えていい」
相談者はゆっくり頷く。
「……逃げたって言われても?」
遥は少し考える。
「言わせとけばいい」
相談者が少し笑う。
「強いですね」
「別に」
遥は視線を逸らす。
「言葉に名前つけたところで、苦しかったことまで変わるわけじゃない」
教室が静まる。
相談者はしばらく考えてから、口を開いた。
「俺。逃げたいんじゃなくて、ちゃんと生きたいんだと思います」
遥は答えなかった。
ただ、小さく頷いた。
いじめられている側に、
「我慢するか」
「学校を離れるか」
その二択しかないわけではない。
誰かに相談する。
環境を変える。
距離を取る。
学校側に対応を求める。
その時々で必要な選択は違う。
だから、「逃げる」という一つの言葉で、その選択を片づけなくてもいい。
そこから離れることを選んだとしても、それは「負け」ではない。
そして、離れたくないと思うことも、間違いではない。
コメント
1件
ああ、この回、すごくよかったです。「逃げていい」という言葉が、実は選択肢を狭めてしまう言葉になり得るっていう視点に、はっとしました。相談者が「逃げたいんじゃなくて、ちゃんと生きたい」と言ったところで、遥が「言葉に名前つけたところで、苦しかったことまで変わるわけじゃない」と返すシーン、心に残りました。安易な励ましじゃなくて、ちゃんとその人の立場に立って考えようとしてる感じが伝わってきます。