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今日はいよいよ遊園地デートの日だ。
「結局、遊園地デートにはその服装で行くんですねぇ」
天国美が、ゴスロリに眼帯姿の私をじっと見つめる。
「うん。どの服にするか悩んだけど……やっぱり、この服がいいかなって。変かな?」
「ううん、似合ってますよ。私の次に可愛いです」
「あんたねぇ」
天国美が、ひしっと私に抱きついてくる。
「いってらっしゃい、おねぇちゃん」
「うん、いってきます」
私は天国美を抱きしめ返す。
天国美の頭をくしゃくしゃと撫でてから、私は楓子さんの事務所へ向かった。
◆◇◆
「やぁ、待ってたよ」
事務所の扉を開けると、楓子さんが涼やかな笑顔で振り向く。
「せっかくだし、遊園地に行く前に箒に乗らない?」
楓子さんの提案に、私は小さく頷いた。
◆◇◆
空は快晴だった。
箒に跨がり、夏の空気を胸いっぱいに吸い込む。
遠くから飛んできた雁の群れが、私達と並ぶように空を進んでいく。
「地獄子ちゃん、本当に箒に乗るのが上手くなったね」
隣を飛ぶ楓子さんが、嬉しそうに微笑む。
「楓子さん達のおかげです」
そう答えながら、私は初めて空を飛んだ日のことを思い出した。
「初めて小守と一緒に飛んだ日は、口から心臓が飛び出るくらい怖かったです」
「でも、皆のおかげで、私はこうして一人で箒に乗れるようになりました」
私は少しだけ胸を張る。
「今なら、絶叫アトラクションにも耐えられます」
「ふふっ。それじゃあ、後でジェットコースターにも乗ってみようか」
「はいっ!」
箒で空を飛びながら、私達は他愛のない話を続けた。
遊園地は、もうすぐそこだった。
◆◇◆
「さ、行こっか」
楓子さんが、そっと手を差し出す。
私は少し躊躇ってから、その手を握った。
相変わらず、楓子さんの手はひんやりしていて気持ちいい。
私達は手を繋いだまま、遊園地へ入った。
◆◇◆
ジェットコースターが、ゆっくりと頂上へ向かっていく。
「そ、空を飛ぶのとはまた違った怖さがあるね……」
隣に座る楓子さんの笑顔が、引きつっている。
「……はい」
私も汗だくになりながら頷いた。
やがて、ジェットコースターが頂上で止まる。
そして――
一気に急降下した。
「うきゃああああああ!!??」
「アハハハハハハハ!!」
私達は悲鳴を上げながら、上下左右に振り回された。
◆◇◆
「それにしても、地獄子ちゃんは本当に変わったね」
パーク内のレストランでコーヒーを飲みながら、楓子さんが微笑む。
「そうですか?」
私は遠慮がちにポテトを齧りながら、楓子さんを見る。
「うん。初めて会った時よりも、ずっとよく笑うようになった」
思わず、ポテトを皿の上に落とす。
「……私、笑ってましたか?」
「気づいてなかったの?」
気づいていなかった。
私、いつの間にか笑えるようになっていたんだ。
「私、自分の笑顔がコンプレックスだったんです」
私は少し俯く。
「接客の時も、引きつった笑い方しかできなくて……よく怒られてました」
それから、楓子さんを見る。
「だから、その……ありがとうございます」
「どうしてお礼を言うの?」
「だって、私が笑えるようになったのは、楓子さん達のおかげだから」
私は指を一本ずつ折りながら、皆のことを思い出す。
「楓子さんが黒魔術を教えてくれたおかげで、私は自分の負の感情をコントロールできるようになりました」
「小守は、私なんかのことを友達だって言ってくれました。黒魔術の修行のおかげで、私なんかにも友達が出来たんです。」
そして、天国美の顔を思い浮かべる。
「天国美は……あの子を召喚してから、毎日が慌ただしくなりました」
私は小さく笑った。
「でも、天国美や、皆と出会ってからの日々は、私が二十三年間生きてきた中で、一番楽しかったんです」
楓子さんが目を細める。
「今度、本人達にも言ってあげてよ。きっと喜ぶから」
カラン、とコーラの中で氷が鳴った。
私はグラスを見つめながら、静かに口を開く。
「私、やっぱりまだ死にたくありません」
声が少し震えた。
「夏が過ぎても、その先もずっと……皆と一緒にいたいです」
楓子さんが、私の手を取った。
「大丈夫」
その声は、優しかった。
「地獄子ちゃんは死なないよ。私が絶対に死なせない」
楓子さんの真っ黒な瞳が、私の瞳をまっすぐに射抜く。
◆◇◆
空が夕暮れに染まる頃。
私達は観覧車に乗った。
ゴンドラがゆっくりと上昇していく。
街並みが少しずつ小さくなっていく中、楓子さんが静かに口を開いた。
「地獄子ちゃん。君には、伝えておかないといけないことがあるんだ」
その真剣な声に、私は黙って耳を傾ける。
「実はね、私は黒瀬楓子じゃないんだ」
「……どういう、ことですか?」
観覧車は、さらに高く昇っていく。
遠くに広がる街の明かりが、少しずつ灯り始めていた。
「私は、天国美と同じドッペルゲンガーだ」
楓子さんは、静かに告げる。
「主人である黒瀬楓子を殺した化物なんだ」
それから、彼女は語った。
自分が黒瀬楓子に成り代わった経緯。
天国美の言葉や行動に救われたこと。
そして――今でも天国美を愛していること。
私は、彼女の顔から目を逸らさずに話を聞いた。
「私は偽物だ」
楓子さんの声が、わずかに震える。
「本来、私には誰かを愛する資格なんてないのかもしれない」
「それでも……君を、君達を助けたいと願う気持ちは本当なんだ」
楓子さんが、じっと私を見つめる。
「どうか、信じてほしい」
私は彼女を見つめ返した。
そして、ただ一言。
「……信じます」
そう答えた。
観覧車が、ゆっくりと頂点へ到達する。
夕焼けに染まった空を背に、私は楓子さんと唇を重ねた。
……けれど。
呪いは、解けなかった。
「ごめんね」
名もなきドッペルゲンガーが、赤い涙を流す。
「私は……君の王子様には、なれなかったみたいだ」
私が何か言葉を返そうとした、その時だった。
――カァン。
遠くから、鐘の音が響いた。
夕焼けの空が、一瞬にして夜へと塗り替えられる。
「……え?」
私は、周囲を見回す。
誰もいない。
さっきまであれほど賑わっていた遊園地から、人の気配が消えていた。
静まり返った遊園地に、バサッ、バサッ、と翼の音だけが響く。
音のする方へ振り返る。
白い翼をはためかせながら赤い涙を流す天国美がそこにはいた。
「天国美……?」
呆然とする私の目の前で、天国美の茶髪がみるみる白く染まっていく。
同時に、真っ白だった翼が黒く染まった。
天国美が、ゆっくりと顔を上げる。
「貴女達に、試練を授けましょう」
その声は、もう天国美のものではなかった。
彼女の周囲に、無数の魔法陣が浮かび上がる。
「地獄子ちゃん!!」
楓子さんが、咄嗟に私を抱き寄せる。
次の瞬間――
無数の黒い光線が、私達の乗る観覧車へと降り注ぐ。
轟音。
観覧車が、大きく揺れる。
私達の乗っていたゴンドラが爆発し、夜空の中へと弾き飛ばされた。
コメント
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観覧車の頂上での告白、すごく胸に来ました。「信じます」って一言で楓子さんを受け止めた地獄子ちゃん、本当に尊い……。それなのに呪いが解けず、天国美が黒い翼を広げるラストは鳥肌ものでした。楽しいデートが一瞬で絶望に塗り替えられる展開、続きが気になりすぎます……!