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《天国美視点》
目が覚めて、視界に飛び込んできたのは、観覧車で楓子さんとおねぇちゃんがキスをする瞬間だった。
二人のキスシーンが目に焼き付く。
二人がキスしても、呪いは解けなかった。
頭が割れるように痛い。
頭の中に舎蘭さんの声が響く。
視界が黒く染まっていく。
「ごめんね天国美ちゃん。これも、真実の愛にたどり着くために必要なことなの」
黒い闇の中へと、意識が引きずり込まれる。
「楓子さん、おねぇちゃん……」
私の声は、闇の中へと消えてしまった。
◆◇◆
爆煙の中から私と楓子さんは箒に乗って抜け出した。
「大丈夫かい地獄子ちゃん」
「はい……でも、天国美が……」
「あの子は今、舎蘭に操られている。彼女を助けるには、舎蘭を倒すしかない」
煙が晴れ、天国美を乗っ取った舎蘭が姿を表す。
長く伸ばした白い髪、黒く染まった両目に赤い瞳。
頭の上に百足が天使の輪のようになって浮かんでいる。
「あの頭の上の百足の輪から禍々しい魔力を感じる。……おそらくあれが、舎蘭本体だろう」
楓子さんが空中に複数の魔方陣を展開する。
「あの百足を破壊する。そしたら天国美は元に戻るはずだ」
魔方陣から青い魔力が次々と舎蘭に向かって放たれる。
舎蘭が空を高速で飛び回り青い弾幕を躱す。
私は、眼帯を外し、右目に舎蘭を捉える。
「ゴートゥ……ヘル!!」
私は舎蘭の頭の上の百足に向かいゴートゥーヘルを使った。
右目にブラックホールが発生し、勢いよく
舎蘭が引き摺りこまれる。
「さすが私の子孫……無茶苦茶な力ね……!!」
黒い羽根をばたばたさせながら、舎蘭が必死でブラックホールに抵抗する。
……駄目だ。このままだと天国美の身体ごとブラックホールに吸い込んじゃう。
私はゴートゥーヘルを解除した。
舎蘭の爪が鋭く伸び、私の心臓を狙う。
駄目、避けきれない___。
「あぶないっ!!」
楓子さんが私を押し退ける。
楓子さんの胸に舎蘭の爪が突き刺さる。
「楓子さんっ!!」
「……問題ない」
胸から出血し、吐血しながら楓子さんが言う。
「でも……」
「大丈夫、約束しただろ。君達のことは私が守るって」
楓子さんが小守を召喚した。
「ママ!?…….おい地獄子、これは一体どういう状況だよ……!?」
血塗れの楓子さんを見て、小守はひどく動揺する。
「小守、天国美が呪いの魔女に乗っ取られた。元に戻すにはあの頭の上の百足を破壊するしかない。力を貸してくれ」
息も絶え絶えに懇願する楓子さんに小守は何かを言おうとする。
しかし小守は言葉をぐっと堪え、背中から大きなコウモリの翼を広げた。
「……しっかり捕まってろよママ。あのバカが目ぇ覚まさせっぞ!!」
楓子さんは小守と息を合わせ、箒で加速していく。
「レナ•ニ•ベシモ」
舎蘭が呪文を唱えると、突然遊園地のジェットコースターが巨大な百足に変身し、楓子さん達に向かって勢いよく突進する。
「くそっ……!!」
小守が急旋回して巨大百足の突進を躱す。
「ゴギャギャギャギャァ!!!」
巨大百足がその巨体からは想像がつかないほどのスピードで楓子さん達を襲う。
「現代の黒魔術士もなかなかやるじゃない」
そう言って舎蘭が指パッチンすると、更に三体の巨大百足が姿を現した。
「果たしていつまで保つかしらねぇ」
計四匹の巨大ムカデの猛攻により、私達は
舎蘭に近づくことすら出来ない。
「地獄子ちゃん、私達が時間を稼ぐ。その隙にゴートゥーヘルの準備を!!」
そう言って楓子さんが百足達に魔法を放つ。
私は箒で高く、高く空へと飛んだ。
「ゴートゥーヘル……!!」
ブラックホールが巨大百足達を吸い込む。
「少しでも楓子さん達の役に立つんだ……!!」
四匹の巨大百足を吸い込み、遊園地に静寂が訪れる。
ぱち、ぱちと舎蘭が拍手する。
「まさか、私の下僕達を瞬殺するとはねぇ。だけど呪いの魔女の下僕を取り込むということがどういうことだか分かってる?」
次の瞬間、身体中を蟲達に内側からむさぼられるような痛みが走る。
「ああっ…….!!!ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
身体の魔力が暴発する。
私の魔力が観覧車を、ジェットコースターを、メリーゴーランドを溶かし、遊園地を更地にする。
箒が壊れ、地面に落下しそうになる。
ボロボロになった楓子さんが私をキャッチする。
朦朧とする意識の中、舎蘭の姿を視界に捉える。
舎蘭の周りの空間がぐにゃりと歪む。
「ママ!!地獄子!!舎蘭が逃げるぞ!!」
憎々しげに小守が叫ぶ。
「天国美……」
朦朧とする意識の中、私は舎蘭に向けて手を伸ばす。
「天国美を助けたければ、月までいらっしゃい」
舎蘭の姿が消えた。
◆◇◆
「地獄子!!地獄子!!おいしっかりしろ!!」
小守の声が、遠くに聞こえる。
私の身体には百足のような紋様が現れ、身体中で暴れまわっている。
楓子さんが口を開く。
「……これが、試練だというのなら」
「私は、最期まで自分の役目を全うする」
「ママ……何言って___」
狼狽えた表情で小守が言う。
楓子さんが私にキスをした。
この感覚、《呪い移し》だ。
楓子さんは今、私の呪いを肩代わりしようとしてるんだ。
「やめろママ!!ママが死んだら意味ねーだろうが!!」
小守が、楓子さんの腕を引っ張る。
私の身体から楓子さんの身体に、呪いが移る。
「この身体も……限界か」
楓子さんの身体がボロボロと崩れていく。
「さようなら、ご主人様」
楓子さんの身体が崩壊し、青い光でできた女性のシルエットが現れた。
「楓子さん……?」
「ママ、なんだよその姿……?」
私と小守が動揺する。
「これが、ドッペルゲンガーである私の本当の姿だよ。黒瀬楓子から借りていた名前と肉体を失った、魂だけの姿だ。もう時間がない。___今から君達にかけるのは、私の最後の魔法だ。どうか、受け取ってほしい」
「いやだ……ママ……ママ」
小守が泣き崩れる。
小守の小さな肩が震える。
名もなきドッペルゲンガーの手が、小守の頬に触れる。
「小守、私の家族になってくれてありがとう。どうか、天国美を月から連れ戻してほしい」
名もなきドッペルゲンガーが小守と額を合わせる。
泣きじゃくる小守の身体が紫色に光り輝き、小守は紫色のロケットに変身した。
「地獄子ちゃん、天国美を救えるのは君だけだ」
名もなきドッペルゲンガーが私を抱きしめる。彼女の身体が少しずつ崩れていく。
私は、楓子さんの魔法で漆黒のドレスを身に纏った姿へと変身する。頭に漆黒のティアラ、足に黒い硝子の靴を身に纏い、身体中に力が溢れる。
「どうか、呪いに負けないで……どうか……
天国美を……」
彼女の魂が光の束になって空に昇ろうとする。
彼女との思い出が甦る。
『君はいなくならなくていい』と抱きしめてくれたこと。
黒魔術を教えてくれたこと。
温泉旅館で手を繋いだこと。
「……ダメ!!」
気がつくと私は叫び、彼女の魂をブラックホールで吸い込んでいた。
「地獄子ちゃん……」
「こんな形でお別れなんて絶対に嫌です!!」
「……地獄子ちゃん、これは運命なんだ。仕方のないことなんだよ」
「運命なんて知りません!!あなたがいなくなるなんて絶対に駄目です!!こんな理不尽にお別れなんて絶対に間違ってる!!」
「はは……無茶苦茶だね。やっぱり君、黒魔術師の才能あるよ」
名もなきドッペルゲンガーが泣きながら笑う。
私は彼女の魂を吸い込んだ。
彼女の魂が、私のおなかの中に宿る。
「地獄子……ママは……ママはどうなったんだよ!?」
ロケットになった小守が困惑した声をあげる。
「あの人はまだ死んでない、私のおなかの中にいる」
「はぁ!?」
私は、意を決して小守ロケットに乗り込んだ。
「小守、天国美を助けに行こう」
「くそっ、色んなことがいっぺんに起こりすぎて訳わかんねぇ……けど!!」
小守ロケットのジェットが噴射され、空へと打ち上がる。
「とにかくあの馬鹿取り戻しに行くぞ!!
ばっびゅーーーーーん!!!」
小守ロケットは大気圏を突き抜け、月へと向かった。
コメント
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みぅです🤍🥀 第45話、読ませていただきました。 楓子さん……! 最後の魔法で、自分の全部をかけて地獄子ちゃんと小守を守ろうとしたのが、切なくて美しすぎました……。特に、ドッペルゲンガーとしての本当の姿をさらけ出して、泣き崩れる小守に「家族になってくれてありがとう」って伝えるところ、涙が止まらなかったです。 でも、地獄子ちゃんが「運命なんて知りません!」って叫んで、魂をブラックホールで吸い込んだシーン、めちゃくちゃ熱かったです。理不尽に別れたくないって、そういう執着、好きです。 小守ロケットで月に向かうラスト、ばっびゅーん笑っちゃいました(褒めてます)。天国美ちゃんを助けに行く決意、ちゃんと届きましたよ……! 次話、楽しみにしてます🌙