テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,444
「僕が膝をつく……。ふふ、楽しみだよ」
トオルが見た「膝をつく僕」という未来。それが敗北を意味していたとしても僕は自分の目的のため必ずガイアを倒して見せる。
「はぁ……。お前なぁ」
アレンは呆れたように大きな溜息をついたが、その瞳からは先ほどまでの迷いが消えていた。
トオルが手を叩き、静寂を破る。
「さぁ、悲しんでいる暇はありません。シオリさんを救出しましょう。彼女を欠いたままでは、ガイア、災厄との戦いは成立しないので」
「分かったよ……。シオリのいる場所を教える。ついてこい」
アレンの道案内で、僕たちは地下施設のさらに奥へと足を進めた。
冷たいコンクリートの壁が続き、時折、遠くから重苦しい機械音が響いてくる。ここは「国家」という巨大な怪物の内臓だ。
しばらく歩くと、アレンが壁に設置された通信用のマイクを掴み、鋭い視線でモニターを見据えた。
『シオリ、聞こえるか。……お前をここから出す。今からそっちに行くから、絶対に能力は使うなよ』
重厚な防壁がスライドし、無機質な純白の部屋が姿を現した。そこに座っていたのは、研究所の収容施設にはあまりに不釣り合いな、静謐な美しさを湛えた少女だった。
「……シオリさん、美人だね。」
「見た目に騙されるな、レイ……。こいつは、俺のストーカーだ。」
アレンが心底嫌そうに顔を歪めた瞬間、シオリが弾かれたように立ち上がった。
「アレン様! やっと、やっと来てくださったのね……! あら? そちらは『予知』の方?」
「シオリさん、お久しぶりです。早速ですが、ワタシたちに協力してください。この世界を救うために」
トオルがいつもの穏やかな笑みで歩み寄るが、シオリは冷ややかに一蹴した。
「嫌よ。この世界がどうなろうと知ったことじゃないもの。アレン様さえいれば、世界なんて滅びて空っぽになった方が、邪魔者がいなくていいくらいだわ」
文字通りの『愛の蹂躙』。僕とトオルは無言で、この「不自由な愛」の鍵を握る男――アレンへ視線を投げた。
「あーもう、分かったよ! そんなにこっちを見るな!」
アレンは乱暴に頭を掻き、覚悟を決めたようにシオリに向き直った。
「いいかシオリ。この世界がなくなったら、物理的に俺ともう会えなくなるんだぞ。それでもいいのか」
「予知が嘘かもしれないし、そもそも世界を救うなんてめんどくさいわ。アレン様と今ここで二人きりになれるなら、それで私は満足よ」
シオリの鉄壁の拒絶。だが、アレンは深呼吸を一つすると、最後の手札を場に叩きつけた。
「……シオリ。俺たちに協力して、ガイアを倒す手伝いをしろ。そうしたら――お前とデートしてやる。お家デートだ!」
その瞬間、部屋の空気が一変した。シオリの瞳に、ガイアの魔力をも凌駕しそうな輝きが宿る。
「うふ……! やりますわ、やらせていただきますわアレン様! もう世界でもなんでも救ってあげましょう!」
シオリが恍惚とした表情で僕たちの陣営に加わった。隣でアレンが、自分の出した「正解」の代償の重さに、小声で絶望を漏らす。
「お家デートか……。せめて普通のデートと言っておけば……」
「……なんか、ドンマイ」
僕は同情を込めてアレンの肩を叩き、ふと脳内のリストから漏れているあの名前を口にした。
「あ。……デッドQも必要なの? 彼も適合者の一人だよね」
「いえ」
トオルは表情一つ変えず、ゴミを掃き出すかのような軽薄さで言い捨てた。
「彼はいりません。……よし。これであとはカケルさんに協力して貰えれば、国家転覆の役者はすべて揃います」
僕は頭の中で「7人の適合者」を二つの陣営に分類し始める。
「僕とトオル、シオリにアレン……。デッドQは必要ないとして、ガイアは敵。……あとの二人は?」
僕の問いに、トオルは静かに、けれど逃げ場のない確定事項を告げるように答えた。
「あとの二人は――どちらも『敵』です。話し合いの余地すらありません。」
トオルの言葉に、地下室の温度がさらに数度下がったような錯覚を覚えた。
「敵か……。どんな奴らか、今のうちに教えてよ」
「ええ。一人はガイアの側近です。王という絶対的な理を守るための、最強の盾ですね」
「側近まで、能力持ちの覚醒者かよ……」
アレンが吐き捨てるように言う。だが、トオルはその視線を真っ直ぐに彼へ向けた。
「アレンくん。……その男とは、あなたが戦うことになるんです」
アレンの背負うべき「役割」が宣告された。一瞬の静寂。けれど、アレンから立ち昇る雰囲気は、怯えではなく、すべてを焼き尽くすような静かな闘志へと変わっていく。
「……その人の能力とかは?」
僕が問いかけようとした時、アレンがそれを制するように手を上げた。
「いや! 知る必要はない。どんな理不尽な術を使おうが、どんなバケモノだろうが……そんなの関係ねぇ。俺の力で、まとめてぶっ飛ばすだけだ」
「……さすがアレン様! ああ、その無鉄砲な熱量……今すぐ手を繋いでよろしいでしょうか!」
「よろしくない! 」
シオリの抱きつきを必死に拒絶しながらも、アレンの拳は固く、硬く握られていた。能力を知らずに挑む。それはあまりに無謀だ。
でも……。
「いいね。 それがNo.1なんだね」
残るピースはあと一つ。
「あと一人は?」
「現れますよ。三日後。」
トオルは予知者の瞳で、まだ誰も見ていない空の一点を見つめた。
「ですから皆さん……特にアレンさんは、今のうちにその酷い傷を治しておいてください。早くメンテナンスを受け受けてください。」
「……わかったよ。ったく、デートにメンテナンスに、忙しいこった」
アレンは毒づきながらも、自分の体の限界を悟ったように肩を落とした。トオルは満足げに頷くと、No.1の方を向いて最後のアドバイスを口にする。
「ああ、それから。カケルさんにも、三日後のことを伝えておいてくださいね。彼もまた、欠かせない役者ですから」
「了解だ。伝えておくよ」
僕たちの「合意」を確認すると、トオルは静かに身を翻した。
「ワタシは少し離れます。片付けておかねばならない用事がありますので」
「そうなんだ……。分かった。三日後、待ってるね、トオル」
「……ええ。」
トオルの姿が地下の闇に溶けるように消えていく。三日後。そこで何が起きるのか分からない。
けれど、隣でストーカーに付きまとわれているアレンと、新しい『鍵』であるシオリを見れば、不思議と負ける気はしなかった。
「……さて。それじゃあ、僕たちの『国家転覆(準備)』を始めようか」
◆
冷徹な静寂が支配する玉座の間。この国の頂点、女王・ガイアが、暗闇の中から問いかけた。
「で? そっちはどうだった」
その問いに応えるように、影の中から一人の男が姿を現す。つい数分前まで、僕たちに「世界を救おう」と微笑んでいた、あの予知者だ。
「手筈通りですよ。……」
トオルは深く、優雅に頭を下げた。その口元には、レイたちに見せていたものとは似て非なる、底知れない『虚無』が浮かんでいた。
コメント
1件
第19話、めっちゃ面白かったです!シオリさんの「アレン様さえいれば世界なんて滅びていい」って歪んだ愛、重すぎてゾクゾクした…お家デートであっさり寝返るとことか、ヤンデレとしては最高の裏切り方でした(笑)。トオルの最後の「手筈通りですよ」も寒気が走るほど怖かった…まさか二重スパイだったなんて。アレンの「知らなくていい、ぶっ飛ばす」って少年漫画すぎる台詞も熱いし、三日後が気になりすぎます!続き楽しみにしてます🌙