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話は、美琴が天馬の自宅に財布を届けに来る日より数日前に遡る。
美琴のスマホに非通知で着信があった。
電話に出ると相手は男性だった。
いや、正確に男性だろうが正しい。
声が変成器で加工されていたから性別に確証はない。
口調が言葉遣いがどうやら男性っぽかったため、美琴は電話の相手は男性だと決めつけていたが、実際は女性かもしれない。
しかしそんな事、美琴にとってはどうでもよかった。
一番の問題は、自らを六車と名乗るその電話相手は美琴が以前、友人数名と結託し
マッチングアプリを用いた援助交際を利用した、親父狩りをしていたという事実を知っていたという事だ。
実際の話、美琴は友人に頼み込まれ仕方なく参加しのたが、
親父狩りに加担したという事実は事実としてある。それは仕方のない事だ。
しかし、なぜバレたのだろうか?友人が密告したのか?ありとあらゆる可能性を模索する美琴だったが
そんな美琴に男は
「この事実をバラしてほしくなければ俺の言う通りにしろ!」と交換条件を提示してきた。
その内容は一人の男性を精神的に追い詰め恐怖を与えろ!というものだった。
何の恨みもない見ず知らずの男性に対して、そんな事をするのは、美琴自身もあまり気分がいい物でなかったが
親父狩りの事実が公になれば、美琴の人生は狂ってしまう。
間違いなく警察に捕まってしまう。それだけは何としてでも避けたい美琴は
六車の指示に従うしかなかった。
美琴がその条件を了承すると、後日、美琴の自宅にある小包が郵送されてきた。
その中には、財布と、部屋の鍵だろうか?鍵が1本入っており、同時に一枚のメモ紙が同封されていた。
[○月○日の深夜1時前に、財布の中に入っている免許証に書いてある住所にこの財布を届けろ」
そのメモ紙が指示という事だろう。男性の名前は加賀美天馬というらしい。
また、メモ紙には加えて
「届け終わったら、SNSで完了した!と投稿しろ!それを確認したら、また新たな指示をする」
と書き記されていた。
それから美琴は、六車と一切接触する事無く、出された指示を、言われるがままに遂行してきた。
全ては順調に行っていた。美琴の前に崇矢が現れるまでは。
美琴は六車から崇矢の話は聞かされていなかった為、崇矢はという存在を危険視していた。
崇矢の存在は、今後美琴が六車からの指示を遂行していく上で、非常に大きな弊害になりかねないからだ。
美琴は、慎重に天馬と崇矢を尾行しながら、ついにマンションの住所を突き止めた。
「ここね・・・」
そのマンションは10階だてのマンションだった。
美琴は天馬と崇矢の行方を目で追いながら、部屋番号を調べていた。
すると天馬と崇矢が5階の右から3番目の部屋に入っていくのが見えた。
「部屋は503ね・・・とりあえず部屋はわかったから今日のところは帰るか・・・」
崇矢の暮らす部屋は、大学生には不釣り合いなほどに広く、豪華な造りだった。
「ひぁー!広いね!立派な家だなぁ」
「一人暮らしには勿体ない広さだったからさ天馬が来てくれてちょうどよかったよ」
しかし、天馬は気になっていた事を思い切って崇矢に尋ねる。
「でも大学生なのに、よくこんな立派な部屋が借りられたね?」
崇矢が暮らす部屋は、家族4人が暮らしても十分に生活できるほどに広かった。
なんでもこのマンションは両親の所有物件らしく、一人暮らしは何かと不便だろうからと
半ば強制的に入居させられたのだという。
「なんか俺の部屋と比べると劣等感が・・」
「なんでだよ!」
「いや、こうも部屋がすごいとさ俺の部屋が見窄らしく思えてくると言うか」
「俺なんて親が敷いたレールの上をただ歩かされてるだけだって
俺からしてみれば天馬の方が羨ましいよ
自分の道を自分の意思で歩いてる!すげー羨ましいし輝いて見えるよ」
天馬はそんなことないよと頬を赤らめ、恥ずかしがっているが、まんざらでもない様子だ。
「そろそろ飯にするか?」
しばらく談笑したのちに崇矢が思い立ったように立ち上がり天馬に尋ねる。
「そうだね!どっか食べに行く?」
「バーカ!俺が作るんだよ!」
「え?崇矢って料理できたっけ?」
「なんだよ!その反応は!今の時代は男女関係なく
キッチンに立つ時代だぞ?料理くらいできねぇとな!」
「う・・・耳が痛いよ」
「まぁ、ゆっくりしてろ!すぐにできるからさ!」
崇矢が料理をしている間、天馬はリビングで昔の事を思い出しながら待っていた。
小学生の頃からずっと一緒に遊んでいた。
崇矢が新しいゲームを買えば必ず崇矢の家に集まりゲームをし
マラソン大会の練習にも「一緒にゴールしよう」と約束して崇矢は付き合ってくれた。
そして高校生の時、天馬には付き合っていた女性がいた。
同い年で別クラスに通う涼風まひろという女子生徒だった。
涼風からのラブレターがきっかけとなり、二人は晴れて付き合う事となった。
崇矢もずっと一緒にいた親友である天馬に彼女が出来たことを、まるで自分のことのように喜んでくれた。
しかし、涼風は天馬と付き合った翌日に轢き逃げにあい、亡くなった。
自分にとって初めて出来た彼女だった。
デートだって沢山したかったと泣き崩れる天馬を崇矢は温かく支えてくれた。
そんな事をふと思い出していた。
「そういえば崇矢って未だに彼女できた事ないって言ってたよなぁ
高校の時も男女の恋愛には興味がないって話してたっけ?本当にもったいないよなぁ。
崇矢は俺とは違ってかっこよくて、運動神経も良くて、料理もできてマイナス要素なんて何ひとつないのにさぁ」
「なにがマイナスだって?」料理を終えた崇矢が両手に皿を持った状態で背後から声をかける。
「崇矢!いきなり声かけないでよ!びっくりするだろ?」
「何驚いてんだよ!どうせ俺の悪口でも言ってたんだろ?」
「ち、違うって!そもそも崇矢の悪口なんて言ったことないよ!」
「ははは!冗談だよ!そんなムキになるなよな!それよりホレ!食おうぜ!」
崇矢はそういうと、目の前のテーブルにできた料理を慣れた手つきで並べる。
崇矢が作った料理はパスタだった。
盛り付けもどこぞのレストランかと思うほどに凝った盛り方をしてあった。
「わぁ♫すごいね!お店みたいだよ」
「何言ってんだよ!パスタだぞ?こんなの誰だって出来るって」
それは料理が出来ない俺への嫌味か?とツッコミたかった天馬だったが
余計な事を言われそうな予感がしたため、喉元まで出かかっている言葉を無理やり押し殺す。
「まぁ、料理ができない天馬からしたら、こんなんでも立派な手料理に見えるのかもな」
「一言余計なんだよ!崇矢は!」
結局嫌味を言われるのかと、呆れる天馬。
「冗談だよ!さ!食おうぜ!」
「うん、いただきます」