TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

蓮司の相談室2

一覧ページ

「蓮司の相談室2」のメインビジュアル

蓮司の相談室2

55 - 第55話 何も起きてないのに、ずっと疲れてる

♥

17

2025年12月01日

シェアするシェアする
報告する

相談室のドアは、ノックもなく開いた。

それがもう、常連の証拠みたいなものだった。


「相変わらず暇そうだな」


そう言いながら入ってきたそいつを、蓮司は一瞥するだけ。


「失礼だな。サボりの溜まり場扱いすんな」


「相談室だろ?」


「だから言ってんだ」


椅子を引く音がして、そいつは勝手に腰を下ろした。

机に突っ伏すでもなく、背もたれに預けるでもない。

ただ、なんとなく“座った”という感じ。


「で? 今日は?」


蓮司が聞くと、そいつは天井を見たまま言った。


「……別に、大したことじゃない」


「それ一番大したやつ」


「あー、もう。そういうとこ」


鼻で笑ってから、少し間を置く。


「なんつーかさ。

毎日普通に学校来て、飯食って、寝て。

特に嫌なことも起きてないのに――ずっと疲れてる」


蓮司はペンを回すのをやめた。


「体?」


「いや……たぶん違う。

寝ても取れないし、休みの日も、回復しない」


「じゃあ故障じゃなくて摩耗だな」


「雑な診断だな」


「大体合ってる」


そいつは苦笑したが、すぐに表情を消した。


「“何もしてないのに疲れてる”って、

言うのすげえ負けた気がしてさ」


「誰と戦ってんだよ」


「……自分?」


その答えに、蓮司は小さく肩をすくめた。


「起きてるだけでエネルギー使う時期あるぞ。

考えてなくても、勝手に頭が回ってる」


「それ、怠けじゃなくて?」


「怠けなら罪悪感感じない」


そいつは少し黙った。


「……確かに。

サボってる自覚あるときの疲れとは違う」


「だろ」


蓮司は椅子の背に体重を預ける。


「ずっと気張ってんだよ。

頑張ってる自覚ないまま」


「でもさ、それ言うと

“何をそんなに?”って言われるじゃん」


「言われるな」


「説明できないのが一番しんどい」


蓮司は笑わなかった。


「説明できない消耗って、

一番自分で疑うからな」


そいつは机を見つめた。


「サボってるわけでもない。

壊れてるわけでもない。

でも、使い切ってる感じがする」


「うん」


「……この状態、放っといたらどうなる」


「無感情になるか、

急に全部どうでもよくなるか」


「最悪じゃん」


「最悪だな」


あっさり言ってから、続ける。


「でも、ちゃんと口に出せてるから、

そこまでは行ってない」


「それ、慰め?」


「観察結果」


そいつは少し笑った。


「相変わらず言い方冷てぇ」


「期待されても困る」


沈黙が落ちた。

気まずさじゃなく、共有済みの静けさ。


「……なあ」


「ん」


「“疲れてる”って理由で、

何かやめてもいいと思う?」


蓮司はすぐ答えなかった。


「やめる、じゃなくてもいい」


「は?」


「休符入れるだけ」


ペン先で机を軽く叩く。


「一生の決断にするから重くなる。

今日は音止めます、くらいでいい」


「それ、逃げじゃない?」


「逃げる体力残すためのやつ」


そいつは目を伏せた。


「……ちゃんと立ってるつもりだったんだけどな」


「立ちっぱなしなら、そりゃ疲れる」


淡々とした声。


「座れ。誰も減点しない」


しばらくして、そいつは小さく息を吐いた。


「……じゃあ今日は、立たないわ」


「そうしろ」


蓮司は視線を戻し、ペンを再び回し始めた。


相談室には、いつも通りの夕方が流れていた。



この作品はいかがでしたか?

17

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚