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「おねぇちゃん、マジで何やってるんですか?」
仕事から帰ると、風呂場でおねぇちゃんが全身蜂蜜まみれになっていた。
「見たら分かるでしょ?全身に蜂蜜を塗りたくってるの」
髪の毛から蜂蜜を垂らしながらおねぇちゃんが振り向く。
「……いや、だから何で全身に蜂蜜を塗りたくってるんです……?」
タイムリミットが近づいてきたせいでおかしくなってしまったのだろうか?
私が気の毒そうな目で見つめると、おねぇちゃんがはぁーとため息をつく。
「ネットに書いてあった黒魔術を試してるの」
「私、今度のデートで楓子さんにキスしてみようと思う。呪いを解くために、皆とずっと一緒にいるために」
そう言っておねぇちゃんは真剣な表情で蜂蜜をチューブ蜂蜜を手に持ち、頭のてっぺんから蜂蜜をどばどばとかけた。
風呂場に蜂蜜の甘ったるい匂いが広がる。
全身に蜂蜜を塗りたくった後、自分の両肩に手を起き、「レナ•ニンブジ•イヨツ」と唱えた。
すると、お姉ちゃんの身体が青く発光した。
光がおさまると、おねぇちゃんは
「よし、あと3セット」
と言ってまた蜂蜜を自分の身体に塗りたくりはじめた。
そっか、おねぇちゃんは今戦ってるんだ。
呪いと、死の恐怖と一人で戦ってるんだ。
……方法はだいぶあれだけど。
「キス……するんですか、楓子さんと」
私の声が震える。
「うん」
とおねぇちゃんが小さく頷く。
おねぇちゃんの肩は少し震えていた。
私はおねぇちゃんと楓子さんがキスする姿を想像し唇を噛む。
勇気が必要なのは私の方かもしれない。
楓子さんを諦める勇気。
おねぇちゃんを送り出す勇気。
私はレディーススーツを脱ぎ捨てて下着姿になった。
「天国美!?」
「私も蜂蜜塗っておねぇちゃんを応援します!!」
「はぁ!?」
私はおねぇちゃんから蜂蜜チューブを引ったくり、頭から蜂蜜をどばどばかけた。
……すごいベトベトする。これシャワーで落ちるんだろうか?
「……あんたが蜂蜜まみれになる必要なかったでしょ、バカ」
「全身蜂蜜まみれのおねぇちゃんにだけは言われたくありません」
そう言って私ははちみつを全身に塗りたくる。
「おねぇちゃん、背中にはちみつ塗ってください」
「……しょうがないわね」
おねぇちゃんの手の感触が背中ごしに伝わる。
「……くすぐったいです」
「がまんしなさい」
私達はお互いハチミツまみれになった後
「レナ•ニンブジ•イヨツ」
と同時に唱えた。
◆◇◆
全身のはちみつを洗い流した後、ついでにおねぇちゃんとお風呂に入る。
「なんか、お肌がとぅるとぅるになった気がしますー」
「錯覚でしょ」
狭い浴槽に二人きり、私はおねぇちゃんの白い背中をじっと見つめていた。
「……ねぇ、天国美」
「なんですか?」
「こんなこと言うのは変かもしれないんだけどさ。私、今、すごく楽しいんだ」
「タイムリミットまであと20日なのに?」
「うん、天国美を召喚してから、楓子さんに会って、小守に会って、黒魔術を覚えて、
色んなところ言って……きっと天国美を召喚してなかったらこんな体験できなかったと思う」
「私、今までずっとぼっちだったの」
「お母さんも私のこと早々に見限っちゃったし、あんたを召喚しなかったら、きっとこれからも誰とも深く関わらずに過ごしていたと思う。」
「だからね、天国美。私の妹になってくれて……その、あ、ありがとう……」
おねえちゃんはそう言った後、照れ隠しで顔を浴室に沈めた。
「おねぇちゃん……」
私は思わずおねぇちゃんの背中に抱きついた。
「うきゃあ!?」
おねぇちゃんをきつく強く抱きしめる。
「おねぇちゃん、おねぇちゃん、おねぇちゃん……!!」
「ちょっ、泣かないでよ。私まだ死んだわけじゃないんだから」
「おねぇちゃんは死なせません。ヨボヨボのおばあちゃんになっても生きてもらいます」
私がそう言うとおねぇちゃんは困ったように
私の頭を撫でた。
風呂場にはまだ、蜂蜜の匂いが残っていた。
(タイムリミットまであと20日)
コメント
1件
ハチミツ黒魔術という意味不明な光景から始まったのに、気づいたら姉妹の絆の話で泣きそうになりました。姉が「ぼっちだった」って告白するところ、妹を召喚して世界が変わったっていう台詞が本当にぐっときます。コメディタッチなのに切なくて、風呂場に残るハチミツの匂いまで見えてくるようでした。残り20日……2人の行く末が気になります。