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#一次創作
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放課後。
空き教室。
日下部は机に開いたノートをぼんやり眺めていた。
ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が中に入る。
「課題ですか」
「見つめ合ってるだけ」
「進展は」
「向こうが心を開いてくれない」
相談者が笑う。
席に座る。
「今日は?」
相談者は少し考えてから話し始めた。
「俺、話しかけたいのにタイミングを逃すことが多いんです」
日下部は黙って聞く。
「朝、『おはよう』って言おうと思ったら他の人と話し始めて。休み時間も、今かなって思ったら誰か来て」
少し間を置く。
「結局、一日話せないまま終わることがあります」
教室が静かになる。
「で」
日下部が聞く。
「次の日は?」
相談者は苦笑する。
「昨日話せなかったから、もっと話しかけづらくなります」
「なるほど」
「それを何回も繰り返して」
視線が落ちる。
「気づいたら全然話せなくなってるんです」
日下部は少し考えた。
「お前さ」
「はい」
「タイミングって」
少し間を置く。
「待つものだと思ってる?」
相談者は止まる。
「……はい」
日下部は頷く。
「だから来ない」
相談者は黙る。
「話しかけやすい瞬間なんて」
短く言う。
「案外ない」
「でも」
「うん」
「邪魔したら悪いかなって」
「その気持ちは分かる」
日下部は言う。
「でも」
少し間。
「相手もお前と同じこと考えてるかもしれない」
相談者は顔を上げる。
「え」
「話しかけようかな、でも忙しそうだな、また今度でいいか」
短く言う。
「お互い待ってる」
相談者は少し笑う。
「ありそうです」
「あと」
日下部は続ける。
「一回逃すと次は完璧なタイミング探し始めるだろ」
相談者はすぐに頷いた。
「はい」
「そんなものない」
即答だった。
相談者は笑う。
「だから」
日下部は言う。
「少しくらい会話を止めてもいい」
相談者は首を傾げる。
「止めても?」
「『おはよう』と『昨日の宿題さ』とか」
少し間。
「その一言で怒るやつなら、最初から話しかけにくい相手だ」
相談者は黙る。
窓の外からチャイムが聞こえる。
「俺」
少し考える。
「嫌われるのが怖いんじゃなくて変なタイミングで話しかけたと思われるのが怖かったのかもしれません」
「そっちの方が近そうだな」
日下部は頷く。
「でも」
少し笑う。
「相手はそこまでタイミング採点してない」
相談者は吹き出した。
「採点好きなの俺だけですね」
「前にも言ったな」
二人とも笑う。
立ち上がる。
「明日は」
少し考える。
「タイミング待たないで、一回だけ話しかけてみます」
「一言で十分だ」
日下部は言う。
「長い会話は」
少し間。
「そのあと勝手についてくることもある」
相談者は頷いた。
ドアが閉まる。
話しかけられない理由は、勇気が足りないからではなく、「完璧なタイミング」を待ち続けているからかもしれない。
会話は、始める一言がいちばん難しいだけなのだから。
コメント
1件
うああ……すごくわかるなあ、これ。 「完璧なタイミングを待つ」ってまさに自分もやってることだなって思った。話しかけるのって勇気じゃなくて、「今じゃない」って自分でハードル上げちゃってるんだよね。日下部の「そんなものない」がめっちゃ刺さった。採点してるの自分だけって気づかされたよ。一言でいいんだなあって、温かい気持ちになりました🌙