TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

車が走り続けるとやがて右手に海が見えてきた。

そして更に進むと道沿いにひなびた店が見えてくる。小さな食堂のようだ。

健吾はその店の駐車場に車を停めた。


「夕食はここでいいかな?」

「うん、いいよ」

「この店は小さくて古いけど魚の鮮度がピカイチなんだ」

「へー、楽しみ」


二人は店に入る。


「いらっしゃい」


入るとすぐに優しそうなおかみさんが二人に声をかけてくれた。


「時間、まだ大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、今日は8時まで営業しています」


おかみさんはニコニコしながら答える。


店の中には二組の客がいた。

今日は平日なので空いているが土日は行列が出来るらしい。


二人は窓際のテ―ブルに座ると早速メニューを開いた。

メニューには一番人気の刺身定食の他に、白きすやあなごの天丼、カレイやメバルの煮付け定食などが写真付きで載っている。

新鮮な魚が食べたかった二人は迷わず刺身定食を選んだ。


注文の際におかみさんがあたたかいお茶を持って来てくれた。

それを飲みながら二人はお喋りをする。


「白きすの天丼も美味しそうーーー」

「次に来たら白きす天丼にすれば?」


(次? また次があるの……?)


理紗子は一瞬ドキッとする。

その時ちょうど窓から見える海の向こうに夕日が沈み始めた。


「理紗子、ほら、夕日」


理紗子が窓の外を見るとブルーモーメントの中にゆっくりと沈んで行くオレンジ色の太陽が見えた。

ほんの2時間前までは部屋で執筆作業をしていたのに今は千葉で夕日を眺めている。とても不思議だ。


健吾はいつでも理紗子をシンデレラに変えてくれる。魔法をかけて理紗子を非日常の世界へ連れ出してくれる。

きっと健吾は本物の王子様なのだ。そして彼と一緒にいる女性はいつでもシンデレラでいられる。

究極のスパダリ男とはきっとそういうものなのだ。


理紗子が物思いに耽っていると健吾が言った。


「理紗子? どうした?」

「ううんなんでもない。なんかね、楽しくドライブして美味しい海鮮も食べられてそして夕日まで……なんか贅沢だなー幸せだなーって思ってたの」

「ハハッ、このくらいで贅沢か? 理紗子は安上がりだな」


健吾は声を出して笑いながら理紗子の頭をポンポンと撫でた。


その時刺身定食が運ばれてきた。それを見た理紗子は思わず叫ぶ。


「お刺身が10種類以上も入ってる! 凄く美味しそう!」

「ハハッ、食いしん坊の理紗子にはぴったりの店だろう? 俺もたまにこれが無性に食べたくなってさ、突然思い立って来るんだよ」

「誰と?」

「一人でだよ」

「本当?」

「ああ。嘘ついてどーする?」


健吾は笑いながら刺身を食べ始めた。

刺身は健吾が言った通り鮮度が良くとても美味しかった。二人も大満足で食事を終えた。


会計の際健吾がおかみさんと大将に言った。


「すごく美味しかったです! また来ます」

「ご馳走様でした」

「あいよー、ありがとうなー」

「ありがとうございましたー」


大将とおかみさんは嬉しそうな笑顔で二人を見送った。


車に戻ると健吾はもう少しドライブしようと言って車を走らせた。

どうやら岬へ向かっているようだ。


「岬には砂浜もあるの?」

「あるよ。展望台もあるからそこから夜景も見渡せる」


岬の最先端まで行くと健吾は駐車場に車を停めた。

駐車場のすぐ傍には砂浜が広がっている。


薄暗い砂浜に足を取られると危ないので健吾は理紗子の手を握って歩き始める。

今夜は風も波も穏やかで海は凪いでいた。

対岸には横浜や東京の明かりがぼんやりと見えた。


「向こう岸の夜景が綺麗ね」

「うん。こうやってみると横浜も東京も意外と近いな」

「アクアラインで来るとすぐね」


理紗子はそう言って楽しそうに笑う。

そこで健吾が聞いた。


「あいつとは、元彼とはドライブデートとかしたのか?」


健吾が意外な質問をしたので理紗子はびっくりした。


「付き合っていた2年のうちドライブしたのは最初の頃に数えるくらいかな? 弘人は渋滞が嫌いだったから遠出はしなかったし」

「そっか」

「どうしてそんな事を聞くの?」

「いや、別に」

「じゃあ私も聞いちゃおうかな。過去にお付き合いした美女達とはこの岬には来たの?」

「いや、来てない」

「じゃあ、いつもはどういう場所でデートをしていたの?」

「うーん…….銀座とか青山とか代官山とか? そんなんばっかりだったな」

「ドライブはあまりしなかったの?」

「そうだね。ドライブ好きな子っていたかなぁ? 俺もあんまり誘わなかったし」

「そうなんだ。じゃあ、さっきの食堂にも本当に一人で来てたんだ」

「そうだよ。ああいうひなびた食堂って大抵の女は嫌いだろう? 俺は凄く好きなんだけれどなかなか一緒に行ってくれる女性がいなかったからなぁ。だからなんとなく自分だけの秘密の場所みたいになってたな」

「ふぅん。じゃあここも秘密の場所?」

「だな」


自分だけが健吾の秘密の場所に連れて来てもらえた。そう思うと理紗子の心が満たされる。

嬉しくて微笑む理紗子の肩を突然健吾が引き寄せる。そして理紗子にそっと唇を重ねるた。それは慈しむようなとても優しいキスだった。

波の音をBGMに二人はしばらくの間キスを続けた。


しかしキスはどんどん激しくなり健吾は高ぶる気持ちを抑えられなくなりそうだった。それは理紗子も同じだ。二人は慌てて唇を離す。

そして高揚した気分をなんとか抑えつけると健吾が言った。


「展望台へ上がってみよう」

「うん」


展望台は現代アートのオブジェのように美しいデザインだった。

その展望台は階段といくつものフロアが繋がった珍しい造りになっている。一番上のフロアはおそらくビルの7~8階ほどの高さがあるのではないだろうか?

二人は一番上を目指して階段を上り始めた。なんだか子供時代のようにワクワクした気分になる。

しかしゴール目前で理紗子は段々とペースが落ち息もかなり乱れていた。それでもなんとかゴールへ辿り着いた。


「大丈夫?」

「はぁーっ、明らかに運動不足だわ。ケンちゃんはさすが余裕ね」

「ジムで鍛えているからね」


健吾は余裕の表情を見せる。


展望台は360度の大パノラマだった。昼間はここから富士山も見えるらしい。対岸には三浦半島や横浜、東京も見えるようだ。


「理紗子、上を見てごらん」

「うわーっ、無数の星が見える、凄ーい綺麗ー」

「これから冬にかけて空が澄んでくるともっと綺麗に見えるよ」

「そうなの? これより凄いって一体どんな星空なの?」


理紗子は驚きながら星を眺め続けた。

そしてふとこんな風に思う。再び冬にここに来て健吾と一緒にその満天の星を見てみたいと。しかし『偽装恋人』が冬まで続いているとは限らないのでその願いは叶わないかもしれないと理紗子は思う。


「何を考えているの?」


理紗子があまりにも静かだったので健吾が聞いた。


「冬に…」

「ん? 冬?」

「冬になったらまたケンちゃんとここに来て満天の星が見たいな」


理紗子は思っていた事を勇気を出して言ってみた。しかし健吾は押し黙る。

そんな健吾を見て理紗子は言わなければよかったと後悔した。

このまま気まずくなるのが嫌だった理紗子は慌てて取り繕う。


「冗談冗談! 『偽装恋人』なのに変な事言ってごめんね」


すると健吾がやっと口を開いた。


「理紗子、その『偽装恋人』の件なんだけれどもう終わりにしないか?」

「えっ?」


理紗子は健吾の言葉に衝撃を受ける。その言葉の意味は健吾がもう理紗子の事を必要としないという意味になる。

だから健吾は最後の記念にこうしてドライブに連れて来てくれたのだろうか?

それなのに理紗子は勝手に勘違いをして本物の恋人気分で浮かれていた。あまりにも恥ずかしくて穴があったら入りたかったが理紗子は逃げずに何とかこう告げた。


「うん、わかったよ。ケンちゃんが私の事をもう必要ないっていうんだったらそれでいいよ。『偽装恋人』は今日で解消ね」


理紗子は泣きたい気持ちをこらえながきっぱりと言い切った。


「えっ? 必要ないなんて言ってないぞ。必要だからやめるんだ」

「え? な、何? ちょっと何言ってるかわかんない」

「理紗子は何か勘違いしてるぞ。俺は『偽装恋人』をやめる代わりに今度は『本物の恋人』になって欲しいと理紗子に言っているんだ、わかるか?」


(えっ? それってどういう意味?)


理紗子がぽかんとした顔をしていたので健吾は声を出して笑った。

笑われた理紗子は急に不機嫌になりムキになって言った。


「え? だって今『偽装恋人』をやめたいって言ったじゃん」

「ああ、やめたいよ。やめる代わりに今度は『本物の恋人』になってくれって言ってるんだよ」

「………….?」


その時健吾の頭の中には再び妹の真麻の言葉がこだまする。


『女はね、ちゃんと言ってくれないと不安になる生き物なんだよ!』

『女はね、ちゃんと言ってくれないと不安になる生き物なんだよ!』

『女はね、ちゃんと言ってくれないと不安になる生き物なんだよ!』


健吾は慌てて理紗子の方を向くと理紗子の手を握って話し始めた。


「理紗子、今まで『偽装恋人』として俺の傍にいてくれてありがとう。しかし今思えば『偽装恋人』なんていう失礼な事を君に頼むべきではなかったんだ。その事を俺はずっと後悔していた。俺は最初から君の事が好きだった。最初から君とちゃんと付き合いたいと思っていた。しかし君が今は恋愛する気はないと言っていたのを聞いて告白する勇気が出ずについ『偽装恋人』なんていうあいまいな事を君に持ちかけてしまったんだ。でももうそれは終わりにしよう。そしてこれからはきちんとした恋人として俺とイチから始めてくれないか?」


健吾は少し緊張した面持ちで理紗子の瞳を見つめていた。

理紗子はびっくりしたまま何も言えずにいた。それもそのはずだ、最悪の状況が一転し夢のような状況へと変わっていたのだから。


「理紗子?」

「………….」

「理紗子! 俺と正式に付き合ってくれますか?」

「えっと…….」

「一言でいいんだよ理紗子、YESかNOかだ!」

「イッ……YES!」


その一言で健吾の表情が一気に緩む。そして理紗子を強く抱き締め耳元で囁いた。


「ありがとう」


理紗子は息ができないほど強く抱き締められたまま再び健吾に唇を奪われた。

理紗子がうっすらと目を開けると健吾の顔越しに無数の星が見えた。


二人が抱き合う夜空には宝石のように美しい星々がキラキラと瞬いていた。






この作品はいかがでしたか?

344

コメント

5

ユーザー

この岬、ホントにいい所❣️ホント好きなんだよぉ~ヽ(*´∀`)ノ しかも、そこにこの2人が。 好きすぎる(๑♡∀♡๑)💕

ユーザー

理沙ちゃん、健吾もお互いにドキドキ💗ハラハラ💦したよね~💦💦 お互いに両思い🩷で良かったよ~😂✴️

ユーザー

イッ……YES!キャ─(*ᵒ̴̶̷͈᷄ᗨᵒ̴̶̷͈᷅)─♡✧* やっと…やっと… 感無量です•*¨*•.¸¸☆*・゚🤍⭐🤍☆*°•*¨*•.¸¸☆* ステキな夜を…♥️🩷♥️🩷

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚