テラーノベル
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「ご主人様ぁ、本当にその格好で行くんですかぁ?」
レディーススーツに着替えた天国美(ヘブミ)が、怪訝そうに私を見る。
早朝の狭いアパート。私は楓子さんの元へ向かうため、ヘブミの魔法でゴスロリ服に変身させられていた。その上からマスク、サングラス、さらに黒い手袋。
私がこんな職質まったなしの格好をしてるのには深いわけがある。
「しょうがないでしょ。万が一身バレしたら、あんたの正体まで疑われるんだからそれにこの手も人に見られるわけにもいかないし」
手袋を外すと、朝の光にうっすらと透けた、向こう側の壁紙が見える右手が露になる。
「ってかヘブミ、あんたゴスロリ服以外に変身させられないわけ?」
重苦しいパニエのフリルを持ち上げながら睨むと、ヘブミはフンスッと胸を張った。
「はい! 他にはナース服とスクール水着、それにアメスク水着があります!」
「……じゃあゴスロリでいいわよ」
なんだそのラインナップ。
悪意あるだろ。
「それでは、お仕事行ってきます! ご主人様も黒魔術の修行、頑張ってくださいね!」
ぶんぶんと元気に手を振り、ヘブミが玄関を出ていく。
静かになった六畳間で私は顔を両手でパンッと叩き、気合を入れてアパートを後にした。
◇
「やぁ、待ちかねたよ」
事務所の扉を開けると、黒いドレスの胸元を透かせた楓子さんが振り返る。
「ほ、本日からよろしくお願いします!」
勢いよく直角にお辞儀をする私に、楓子さんは指パッチンで応えた。
ポンッ、と小気味いい音と共に現れたのは、コウモリの使い魔、小守(こもり)だ。
「まずは黒魔術の基本から。Lesson1は《使い魔の扱いに慣れよう》だ。――小守、変身」
楓子さんが手を叩くと、紫色の煙が視界を遮る。
晴れた煙の中から現れたのは、小生意気なギザ歯を覗かせた、ツインテールの少女だった。
ぶかぶかの黒パーカーに、安全ピンがジャラジャラ鳴るチェックのミニスカート。厚底靴のせいで、チビな私と同じくらいの背丈。
「今日、君には小守と一日デートをしてもらう。それが最初の試練だよ」
「で、デートですか……」
人生で一度も経験の単語に脳がフリーズする。
「オレがこのちんちくりんとデートぉ?」
小守が露骨に嫌そうな顔をする。
「まぁまぁ、後で血を飲ませてあげるから」
と楓子さんが嫋やかな白い腕を小守に見せると、一瞬で目を輝かせる。
「やったぁ、ママ大好き! ほら行くぞ地獄子」
現金な子だなぁ……。
呆れながらも小守についていった。
ガタンゴトンと揺れる電車。
真夏の車内、グラサンマスクの汗だくゴスロリ女と、足を大きく開いたガラの悪いメスガキが隣同士座る光景はとてつもなく目立つ。
乗客たちのひそひそ声が突き刺さる。
今だけ透明人間になりたい……。
(なぁ、ヘル子)
脳内に直接、小守の声が響いて跳ね上がった。
(何びっくりしてんだよ。テレパシーなんて黒魔術の初歩だぞ? それよりさぁ――)
小守がニシシと悪魔的に笑う。
(おめー真実の愛見つけないとあと46日で死ぬんだろ?)
(黒魔術の練習なんてまどろっこしいやってないでマッチングアプリでテキトーな奴捕まえて、ちゃっちゃとえっちすればぁ?)
「っ……!?」
小守の爆弾発言に声を出しそうになり、慌てて両手で口を塞ぎ、ブンブンと首を振る。
無理無理無理無理!!知らない人と会って話して
えっ、えっちするなんて絶対無理!!
(なに寝ぼけたこと言ってんだよゴスロリ女?誰だって付き合う前は初対面だろーが)
でもぉ…….。
(あーあ、お前みたいなコミュ障でも生きられるんだから日本は平和だねぇ。……あ、あと46日で死ぬんだっけぇ? ざまーみろ!)
小守がウケケケと笑う。
……性格わるぅ。使い魔って皆こうなのか?
相対的にヘブミが天使に見えてきた。
帰ったらなんかおいしいもの作ってあげよう。
◇
電車を降り、ショッピングモールのフードコートへと向かう。
平日の昼間でも、家族連れの賑やかな声が響いていた。
「ヘル子、オレハンバーガー食べたい。」
きょうふ
115
comi
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#可愛い
トド村
37
小守はずんずんと列に並び、「ねーえーまーだー!?」と子供のようにピョンピョン跳ねている。
ハンバーガーとポテトを抱え、近くの照り返しが強い公園のベンチで昼食をとる。
小守はハンバーガーを咀嚼しながら、足元の土で列をなすアリをじっと見つめている。
「アリはいいよなぁ。オレよりちっちゃくて」
ポテトの端をちぎってアリの列に落としながら、小守がぽつりと言った。
「アリ、好きなの?」
「アリが好きっつーか……オレ、背ぇ高ぇ奴が嫌いなんだよ。あいつらオレたち低身長族をいっつも見下してんじゃん」
あ、ママは別だぜ?だって血ィ飲ませてくれるし。と小守が付け加える。
「別にそんなことないと思うけど……」
「いーや見下してるね! 許せねぇ!」
小守がコーラをがぶ飲みする。
「ヘル子はいねーの? 嫌いな奴」
「へ?」
「いーじゃん教えろよぉ。オレも嫌いなタイプ教えたんだからさぁ」
その文脈は好きな人とか好きなタイプを聞く時に使うやつじゃないのか?
いたずらっぽく笑う小守に促され、私は自分の膝を見つめる。
嫌いなやつ…….か。
「……私」
ぽつりと呟き、すぐに後悔する。
「あのさぁそういう反応に困る回答すんのやめてくんない?」
小守がうげーっと舌を出す。
「あっ、えっと…….ごめん……。」
俯いた視線の先、群れからはぐれた一匹の蟻が、熱せられたアスファルトの上を孤独にうろうろしていた。
「気分転換にクレープ食べたい!」
小守がばっと両手を広げて大声を上げる。
「え、さっきハンバーガー食べたばっか――」
「うるせぇ、行こう!!」
半ば強制的クレープ屋に連れていかれる。
もし学生時代に友達がいたら、こんな風に振り回されていたのかな。
「ん? なんだよぼけーっとして?いらねーなら食っちまうぞ」
小守が私のクレープを横からガブッと一口、遠慮なく掠め取っていった。
◇
「小守様、宍戸地獄子様。さぁ、こちらへどうぞ」
公園の前に滑り込んできたのは、重厚な黒塗りの高級車だった。
事態を飲み込めないまま黒服の女性SPに促され、場違いな座席に深く身体を沈める。
汗ばんだゴスロリ服の背中に、本革のシートが妙にひんやりとして冷たい。
「えっと……どこに行くの?」
「ママの知り合いのゴルフ場。今日は貸し切りだってよ」
楓子さんの人脈、恐ろしすぎる。
「ゴルフ、するの……?」
「ちげーよ、あんぽんたん。腹ごなしは済んだだろ?」
小守が、ギザ歯を見せてニヤリと不敵に笑う。
「着いたらLesson2だ。――お前には、空を飛んでもらう」
(タイムリミットまで、あと46日)
コメント
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第6話めっちゃ面白かった〜!!🎀✨ ゴスロリ変装&グラサンマスクの職質不可避スタイル、笑ったww 小守のメスガキ具合が絶妙で「ざまーみろ!」に声出た😭💕 でも公園のアリの話で急に切なくなって…「私…」で止める地獄子ちゃんに胸がギュッてなったよ… 46日のカウントダウン、毎話刺さるね…次回「空を飛ぶ」ってマジ?!もう待ちきれん!!🦇🔥