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きょうふ
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comi
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#可愛い
トド村
37
見渡す限り、青々とした芝生が広がっている。
西日に照らされた広大なゴルフコースは、人の気配がまったくなく、不気味なほど静まり返っていた。
ふと、私の脳内に直接、楓子さんの涼やかな声が響く。
(よく来たね、ヘル子ちゃん)
辺りをきょろきょろと見回しても、彼女の姿はどこにもない。
「楓子さん!? 今どこにいるんですか?」
(ああ、私は今シンガポールにいるよ。ちょっと知り合いの富豪に占いを頼まれてね。今は水晶でそちらの様子を見ながら喋っているよ)
アフリカで雨乞いをした次はシンガポール。相変わらず次元の違う忙しさだ。
(どうだい? 小守とデートしてみて、使い魔の扱いには慣れたかい?)
「どうでしょう……」
終始振り回されっぱなしで、慣れたなんてとても言えない。
(はじめの内はそんなものさ。――さて、Lesson2を始めようか)
ぽんっ、と軽い音と共に、私の足元に一本の竹箒が現れた。
(今から君には、その箒で空を飛んでもらう。古典的だが、魔力のコントロールを身体に覚え込ませるのにもってこいの修行だ)
箒で空を飛ぶ。……急に魔女っぽくなってきた。
「だけど空を飛ぶなんて、どうしたら……私、魔法なんて使えませんよ?」
(実はね、君はすでに無意識のうちに魔法を使っているんだ。)
「え?」
(君のアパート、派手に儀式をしたりあれだけ元気なヘブミちゃんと暮らし始めたりしても、誰も苦情を言いに来なかっただろう? )
「……はい」
(あれは君が無意識周囲に張り巡らせていた、一種の防音の固有結界さ。君は自分の存在を世界から消すために、無意識に魔力を使い続けてきた。)
そうだったんだ。私は手袋をした右手をじっと見る。
(だから今度は、自分を生かすための魔法を覚えていこう。小守はそのための手助けをしてくれるはずだよ)
楓子さんの言葉がストンと胸に落ちた瞬間、背後からぐっと身体を抱きしめられた。
「説明は後だ。箒にまたがれ」
耳元で囁く小守の声に従い、慌てて箒を跨ぐ。
その背中から、コウモリのような翼が猛烈な勢いで広がった。
「ばっ……びゅーーーん!!!!」
鼓膜を突き刺す元気な声とともに、小守が私を抱えたまま、垂直に大空へと跳び上がった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!???」
ものすごい風圧が顔面を殴りつけ、息ができない。重力から解き放たれた身体は、あっという間に雲の近くまで上昇していく。
「しっかり掴まってろよぉぉ!!!」
「ひゃ、ひゃぁぁぁぁぁ!!!」
小守がニヤリと笑った直後、身体がフワリと浮き――猛烈な勢いで旋回しながら急降下を始めた。
一瞬、視界が開ける。
眼下に広がるのは、ジオラマのように小さくなったゴルフ場。緑の芝生も、美しい砂のバンカーも、はるか遠くにある。
(待って、高い、高すぎる……っ!!)
もし今、小守が手を離したら。地上へ真っ逆さまに落ちたら、確実に死ぬ。
呪いのタイムリミットを迎える前に、物理的に人生が終わる。
あまりの恐怖に心臓が口から飛び出そうになり、私は涙目で、ちぎれんばかりの力で箒を握りしめた。
「まずは空を飛ぶ感覚を覚えな! そしてイメージしろ! 自分に翼が生えて、こんな風に風を捉えるイメージを!」
ジェット機のような速度で加速しながら、小守が叫ぶ。
「イメージ……イメージ……っ!!」
恐怖を必死にねじ伏せ、私は脳裏に漆黒の翼を思い描く。
「今だ!!」
ゴルフ場の中央にある大きな池の真上で、小守が非情にも私の手を離した。
下から上へ突き上げる凄まじい風。視界が、水面に向かって高速で落下していく。
「飛べぇ!! ヘル子!!」
私は、小守の背中の翼を、風を掴むあの感覚を全力で再現した。
背中に、見えない翼が生えるイメージ――!!
ドクン、と胸の奥の澱が跳ねる。
水面まであと数十センチというところで、私の身体がピタッと宙で静止した。
お尻の下で、竹箒が生き物のようにドクドクと紫色の光を放っている。
「やった……できた……!! 」
成功の喜びに胸を躍らせ、さらに飛ぶイメージを強める。
直後、箒がキャパシティを超えたように激しく発光し、パキンッ! と派手に弾け飛んだ。
「え、嘘――」
ドッボォォォン!!! と、私は派手な水しぶきをあげて池に落ちた。
◇
「やるじゃねぇかヘル子! ママが生み出した箒をぶっ壊すなんてな!」
貸し切りのクラブハウスの更衣室。ずぶ濡れの小守が、ギザ歯を覗かせてニカッと笑った。
「ありがと……助けてくれて……」
ゴルフ場の職員さんにお願いして貸してもらった、サイズがぶかぶかの「ゴルフ場ポロシャツ」と「チノパン」を身に纏い、私は濡れた髪をタオルで拭く。ちなみに下着は小守のスペアのスポブラだ。パツパツで、胸が猛烈に苦しい。
「あ? 礼とかいいっつーの。……まぁ、どうしても礼がしてーっつうならさ」
小守が私の肩に、容赦なくかぷっと噛みついた。
ちゅぅぅぅっと、細い喉が鳴る音が更衣室に響く。
「ぷはっ! これで貸し借りなしだ」
「…….うん」
口元を拭う小守に、私は赤くなった肩を押さえながら小さく頷いた。
◇
「じゃーなヘル子!! 呪いなんかに負けんじゃねーぞ!」
駅の改札前で解散するとき、拳を差し出してくる。
「……うんっ!!」
夕暮れの駅前、私達は小さくグータッチを交わした。
◇
「ただいま帰りましたー! わぁ、お部屋からすっごく美味しそうな匂いがします!」
ガチャリとアパートの扉が開き、汗だくのヘブミが帰ってきた。
「おかえりヘブミ。今日はたくさん動いたから、レバニラにしたよ」
「レバニラ! 美味しそうです、いただきます! ――って、ご主人様、なんですかその『志村カントリークラブ』って書かれた緑のポロシャツは!? ダサいです!」
「うるさいな、色々あったの。」
私はヘブミに、今日の出来事を順を追って話した。
「ええーっ!? 私が悪質な転売ヤーやクレーマー達と血みどろの戦いをしている間に、そんな楽しそうなことしてたんですか!? ずるいです! 私もご主人様とマック行ったり、クレープ食べたり、空飛んだりしたいです!!」
ヘブミが手足をバタバタさせて駄々をこねる。
「ん? ……ってかご主人、なんか肩に変な噛み跡ありますね?」
「……あ、いや、これは……」
気まずそうに目を逸らす私。事情を察したヘブミの目が赤く光る。
どさっ、と凄まじい質量でヘブミに床へ押し倒される。
「ご主人様、あのクソガキ使い魔に血を分けちゃったんですかぁ!? 浮気です!! NTRです!!」
「はぁ!? 違うし!! ってかあんたの恋人は楓子さんでしょーが!!」
「楓子は恋人! ご主人はご主人!! 別カテゴリーです!!」
「なんなのその都合のいい脳内フォルダは!?」
「こうなったら、私もご主人様の肩を噛んで上書きしてやりますぅぅ!!」
「やめろ痛い離れろーーーっ!!?」
エアコンの効きが悪い六畳一間のアパートで、私達は夜遅くまでどったんばったん大騒ぎした。
(タイムリミットまで、あと46日)
コメント
3件
あああ第7話もサイコーだったよ!!😭💕 まず楓子さんシンガポールから水晶で会話してくるの次元違いすぎて笑ったw「アフリカで雨乞い→シンガポールで占い」ってマジで何者なんだこの師匠😂✨ そして小守との飛行訓練!「ばっ……びゅーーーん!!!!」って叫びながら垂直に飛び上がる小守かわいすぎるし、池の上で手離す展開は「えぇ!?😱」ってなったよ!!でもヘル子ちゃん自分で飛べたのマジで成長じゃん…!と思ったら箒パキンって壊れてドボンなのシュールで草ww 最後のヘブミとの「浮気です!!NTRです!!」のやり取りも面白すぎたww「別カテゴリー」って脳内フォルダ分けしてるの天才かよ😂💞 肩の噛み跡の上書きしようとして床でバタバタしてる光景、想像しただけで尊すぎて叫びそうになったよ!!次回も楽しみにしてるね、トド村さん!!🔥