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トオルが姿を消してからニ日が経った。その間、僕たちは研究所の地下に潜伏し、来るべき瞬間に備えていた。
シオリだけは
「アレン様がいない部屋なんて息が詰まるわ」
と毒づきながら、自分の家へと戻っている。
「いよいよ明日だね。トオルが言ってた覚醒者がくる日」
僕は脳内のタイムラインを確認しながら、窓の外に広がる無機質な夜景を見つめた。
「ああ。メンテナンスもバッチリだ。」
アレンは自分の拳を強く握り締め、不敵に笑った。その横では、ニ日前からこの『作戦』に無理やり引きずり出された男が、頭を抱えて唸っている。
「え、え、明日!? ……いや、事情は聞いたけど、ボクはまだ納得はしてないよ……。なんでボクみたいな弱虫がこの国の王とそれから来る災厄のために戦わないといけないんだ……。」
ナンバーズNo.2、カケル。研究所防衛で見せたあの冷徹な威圧感はどこへやら、今はただの『常識人』としての不自由な困惑を隠しきれていない。
「仕方ねぇだろ。トオルがああ言ったんだ。お前の力も、この国家転覆には必要らしいからな」
アレンが適当にあしらうと、カケルは
「トオルって会ったこともないのに……」
と忌々しそうに吐き捨てた。
「まぁ、大丈夫でしょ。こっちには、未来をすべて見通す『予知(トオル)』がついてるんだから」
僕が楽観的にそう告げた瞬間、アレンが意地の悪い笑みを浮かべてこちらを向いた。
「へっ、まぁそうだな。……ちなみに、お前はガイアを前にして、無様に膝をつくらしいけどな」
「……あのねぇ。それをいちいち言わないでよ。貴方だって災厄防いだらシオリとお家デートでしょ!」
僕がムッとして言い返すと、部屋に小さな笑いが漏れた。
この歪なメンバーで笑い合えるなんて、数日前には演算すらできなかったことだ。
「よし、今日はもう寝ようか。明日、その覚醒者ってのを倒して、トオルにガイア戦に向けた作戦を話し合うんだから」
「……ああ。そうだな。決戦前の最後の休息だ」
アレンが短く応え、僕たちはそれぞれの眠りについた。明日、世界が書き換わる。その予感を脳の片隅に残したまま。
――翌朝。平穏を切り裂くような、けたたましいサイレンが研究所の地下に鳴り響いた。
「な……! 覚醒者が来たか。本当に予知(トオル)の言った通りだな」
アレンが弾かれたように立ち上がる。防衛システムが『侵入者』を検知したログが、僕の脳内にも次々と流れ込んできた。
「そうだね。……で、どうする? 相手は適合者の一人だ。No.1が一人で戦うの?」
僕が問いかけると、アレンは首を左右に鳴らし、不敵な笑みを浮かべてコートを羽織った。
「ああ。お前とシオリ、それにトオルは今、絶賛『休戦中』だからな。……この数日間、溜まりに溜まったイライラを、そいつを殴って晴らしてやる」
「……あはは。僕たちが休戦中でよかったよ」
アレンの熱量に苦笑しながら、僕は部屋の隅で毛布にくるまっている男を指差した。
「おい、No.2! 寝てる場合じゃねぇぞ、起きろ!」
アレンが怒鳴るが、カケルはあからさまに「寝たふり」を決め込み、毛布をさらに深く被り直した。
「……zzz。聞こえない。俺はまだ納得してない。……zzz」
「……この野郎、確信犯か」
呆れるアレンを尻目に、僕は施設のモニターへ視線を移した。『隙間』から手を伸ばす、未知の能力者。僕たちの国家転覆という名の演算。その最初の「敵」が、すぐそこまで来ている。
サイレンが鳴り響く通路を抜け、僕たちはエントランスホールで「彼」と対峙した。
「よぉ、覚醒者さん。待ってたぜ。ずいぶんと朝早くから元気なこった」
アレンが挑発的に声をかけると、奇妙な身なりをした男——覚醒者が、大袈裟に肩をすくめて見せた。
「え? 準備万端じゃん。俺っち、早起きして眠い目こすりながらここまで来たのに。……なんで? 来るのわかってた?」
「うん。分かってた。……だが、なぜ君がここに来たのか、その『理由』までは分からないよ」
僕が問いかけると、男は自嘲気味に笑い、自分のポケットを弄りながら答えた。
「理由は単純。俺っちが、元ここの『ナンバーズ候補』だったからさ。……行き場がなかった俺っちを拾ってくれたこの研究所……。」
男の瞳に、暗い執念が宿る。
「でも、俺っちは『ナンバーズの負荷に耐えられない』って、一方的に追い出された。……その結果が、これさ」
「なるほどな。……なぁ、もしお前がナンバーズになってたら、No.は何番だったんだろうな」
アレンの低い声。男は空を見上げるように視線を彷徨わせ、不気味に口角を吊り上げた。
「さぁね。……でも、噂じゃ『始まりのナンバーズ』。地上生物の全遺伝子を使える。絶対的なNo.1になってたかもねぇ」
アレンがニヤリと笑い、一歩前に出る。
「その遺伝子を使う能力の器。……捨てられたお前の代わりにNo.1になったのは、この俺だ」
アレンの言葉に、男——覚醒者の顔が歓喜に歪んだ。
「まじ!? 俺っちを捨てて選んだのが、君……。あは、最高だね! 俺っちは人間を超えた選ばれし『怪物』。君は結局、選ばれなかった残りカス。やったね、立場逆転じゃん!」
男は自分の肩を抱くようにして、狂気混じりの笑いを漏らす。
「きっと研究所も、俺っちを捨てたことを後悔してる。君も俺っちに負けて、死ぬ瞬間に後悔する。……ああ、今日ここに来て本当によかった」
「おしゃべりはもういいだろう。……行くぞ。俺とお前の、タイマンだ」
アレンが地面を蹴り、一気に距離を詰めようとした瞬間。
だが、その目前で男は逃げる素振りすら見せず、ただ不敵に笑って、自分の上着のポケットに両手を突っ込んだ。
「――っ! アレン、止まれッ!」
男がポケットの奥へグイと手を押し込んだ、その瞬間。アレンの着ている服の、脇腹と腕の『わずかな隙間』から、あり得ない角度で「男の手」が突き出した。
「な……ッ!? どこから……」
「驚いた? 俺っちの手は、今、君の『懐(なか)』にいるんだよ」
アレンの腕を、服の中から現れた手がガチリと、逃げ場のない力で掴む。そのまま、万力のような力でひねり上げられた。
「まずは一本。……君の誇り(うで)から、へし折ってあげるよ」
骨が軋む不気味な音が響く。最強のNo.1が、触れることすらできぬ『虚空の手』によって、蹂躙されようとしていた。
コメント
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第20話、読み終えたわ!覚醒者の能力、『君の隙間から』ってタイトル通りの攻撃でめちゃくちゃ怖かった…。アレンの腕を服の中から掴むとか想像できなくてゾッとしたわ。でも、カケルが「寝たふり」してるのがちょっと笑えた。シオリが家に帰ってるのもらしいなと思った。決戦前の歪な連帯感、好きだわ。続きが気になる!