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修学旅行が終わると、いつもの日常が戻って来た。


三年生達の間では志望校や夏期講習についての話題が増え、

学校生活に関しては秋の文化祭の話し合いが始まる。

拓のクラスの文化祭の出し物は『お化け屋敷』に決定した。


そんな6月のある日、拓と真子は学校帰りにカフェにいた。


「明後日の真子の誕生日、どこに行く?」

「えっ? 拓土曜日はバイトじゃなかった?」

「彼女の誕生日だから休み下さいって言ったら休み貰えた。デート頑張れよーって冷やかされたよ」


拓はそう言って笑った。


「うわっ、休めるの?」


真子はその日は拓のバイトがあるから、誕生日デートは無理だと諦めていた。

しかし会えるとわかり途端に嬉しくなる。


「うん。だから真子の行きたいところに行こう」

「やったー」

「で、どこにする?」

「うーん、久しぶりに原宿とか行きたいな」

「都心か、オッケ! だったら体調しっかり整えておけよ。原宿は人が凄いからな」

「わかった。楽しみにしているね」


真子は嬉しそうに微笑んだ。

その日拓に自転車で送ってもらった真子は、

拓の姿が見えなくなるまで手を振った後家に入る。


すると出迎えた母の英子が少し心配そうに言った。


「おかえり、今日は体調どうだった?」

「うん、今日は平気だった」

「そう…それなら良かったわ。お茶入れるから手を洗ってらっしゃい」

「はーい」


真子は手洗いとうがいを済ませると、母のいるダイニングへ行く。

実は修学旅行の後の検査で、真子の心臓はあまり良い状態ではないという事がわかる。

当初は20歳を過ぎて行う予定だった手術を、今年中にした方がいいと告げられる。

母の英子の嫌な予感は当たっていたのだ。


手術が早まりそうだと伝えられた日、病院から帰った真子は杉尾医師の手術は受けたくないと両親に伝えた。

いきなり娘からそんな事を言われたので、真子の両親は驚く。

そして当然の事ながら理由を娘に聞いた。しかし真子はその理由を言わない。

とにかく嫌なものは嫌だとの一点張りだった。


父の保はなぜ杉尾医師ではダメなのか理解に苦しんでいたが、

同じ女性として母の英子は何かを察知したのだろう。

それ以上真子に理由を聞かないでいてくれた。

しかしその日以降、両親は他の病院で手術を受けられるかどうかを調べ始める。

娘が違う医師をと望んでいるのだ。

母としてはなんとかその望みをかなえてやりたい。


その後、病院探しがどうなっているのかは真子も知らなかった。


真子が椅子に座ると、母の英子が紅茶とマドレーヌを持って来た。


「お隣の倉田くらたさんからいただいたの」

「ふーん、美味しそう」


真子は早速マドレーヌを食べ始める。

そんな娘を見ながら英子が言った。


「お父さんからさっき連絡があってね、来月北海道へ異動になるんだって」


真子は驚いて手を止める。


「北海道?」

「そう。北海道の支社長が突然死されてね、その代わりにお父さんが行くんですって」


真子の父は大手鉄鋼メーカーに勤めていた。

今は横浜支社にいるが、支社長になるなら栄転だ。


「お父さん凄いね」

「ええ、支社長にはもうなれないかもって諦めていたから嬉しそうだったわ」

「良かったね」

「でね、向こうにいらっしゃる部長さんの親族の方が、岩見沢医科大学病院の心臓外科医をやっているんですって。お父さんが

真子の事を話したら紹介してくれるって言うの。なんでもその先生は、北海道で1~2を争う名医で東京でも名前が知られてい

るんですって。だから真子、北海道に一緒に行ってみない?」


母の言葉に真子は驚く。

父の保が北海道支社に行くと聞いた時は、てっきり単身赴任だと思っていたからだ。



母の英子はこのチャンスを生かそうと思っていた。

今の病院で手術を受けたくないという娘に、なんとしても手術を受けさせるためには、

違う病院を探さなくてはならない。

しかし名医がいる神奈川や東京の大きな病院は、転院を受け入れてくれたとしても

手術の予約が1~2年先までいっぱいとの事だ。

今すぐ手術を受けなくてはならない真子にとって、そんな先までは待てない。

手術を受ける事が出来なければ、娘の命は危ないのだ。


そんな悲観にくれていた宮田家のもとへ、偶然朗報が舞い込んで来た。

このチャンスを逃す手はない。


ただし北海道への引っ越しとなると、真子には東京の美大は諦めて貰う必要がある。

そして手術の時期によっては、一年浪人になってしまうこともあり得る。


このままここで杉尾医師に手術をしてもらうか、家族で北海道へ移住し向こうの医師に委ねるか、

まさに究極の選択だった。


そんな母の思いをひしと感じつつ、真子は真剣に考える。


(北海道へ行ったら、もう拓とは簡単には会えない…)


真子の胸に悲しみが広がる。

そんな娘を見て母の英子が言った。


「まあすぐに返事はしなくてもいいわ。一週間くらい考えてみて。引っ越しは三週間後よ。あまりにも急だから、あなたがここ

にこのまま残りたいっていうなら、お母さんはあなたとここに残るから」


英子はそう言って、夕食の支度をしにキッチンへ行った。



お茶を飲み終わった真子は、二階の部屋へ行く。

そして色々と考える。


北海道には昔から興味があったので、引っ越す事には何の問題もない。

そして、杉尾以外の医師に執刀してもらえるというのは何よりも嬉しい。

大学に関しても、ネットで調べたら美術系の大学が引っ越し先のすぐ近くにあるようだ。

真子は美術の勉強が出来れば、大学にはそれほどこだわりはなかったのでそこも特に問題はない。


ただ、拓の事だけが心に引っかかっていた。

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