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「……親に、将来のこと聞かれるのがつらいんです」
椅子に座った女子は、手をぎゅっと握りしめていた。
「本当はやりたいことあるけど、“安定した仕事に就け”って言われるのがわかってて。だから結局、“まだ決まってない”って嘘つくしかなくて」
日下部は黙って聞いていた。机の上のボールペンを転がしながら。
「なんか……親の前だと、自分の夢って口に出しちゃいけないみたいで。全部しぼむんです」
彼女の声は小さく、消え入りそうだった。
「……それ、別におかしくねぇよ」
日下部がぽつりと答える。
「親ってのはさ、“自分が安心したいから”って理由で子どもに安定を望むとこあるんだろ。お前のためって言いながらな」
彼女は顔を上げた。
「……そうなんですかね」
「そうだろ。だから、“親のための正解”と“自分のための正解”は別物だと思う」
沈黙が落ちる。
日下部は窓の外に目をやった。
「……でも、言えない気持ちもわかるよ。夢を言ったら笑われそうだとか、止められるとか。そうやって黙ってるうちに、自分でも夢がしぼんでいくんだよな」
彼女はかすかに頷いた。
「……どうすればいいんでしょう」
「どうもしなくていいんじゃね。親に言わなくても、夢は勝手に残るし。隠して育てるほうが強くなるかもな」
彼女の目が、少しだけ光を取り戻したように見えた。