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#復讐
富士子☆
1
264
るしゅ
157
鬼霧宗作
159
「死亡通知じゃ、俺は死なない」
父はそう言った。
私はすぐには返せなかった。
三枚目の死亡通知には、
父の名前。
九月六日。
午後十一時四十分。
死亡場所は母の家。
死因は、
刺殺。
玄関には、その予告通り包丁まで突き刺されている。
なのに父だけが、
最初から怯えていない。
「どうしてそんなこと言えるの」
「知ってるからだ」
「何を?」
「死亡通知の仕組みを」
真壁刑事が父を見る。
「詳しく聞きましょう」
父は病室の椅子へ座った。
柿崎先生はベッドの上で、
目を閉じたまま何も言わない。
「雅彦さん」
私は父の前に立つ。
「父さん、死亡通知を作ったの?」
「違う」
即答だった。
「じゃあ誰?」
父は答えない。
「また隠すの?」
「順番に話す」
「人が死んでるのに?」
父が私を見る。
「だから話すんだ」
そして、
三枚目の死亡通知を指した。
「澪。この紙を見て、お前は何を信じた?」
「父さんが死ぬ」
「なぜ?」
「そう書いてあるから」
「それだけだ」
「何が?」
「死亡通知の一番怖いところは、死を予知することじゃない」
父は言った。
「人間に、書いてあることを信じさせることだ」
高瀬を思い出す。
三日後に転落死する。
そう書かれていた。
高瀬は怯え、
母の姿を見たと言い、
最後には屋上から落ちた。
久我もそう。
自分が死ぬ。
父を殺せば助かる。
そう書かれていた。
だから父へ車を向けた。
「つまり……」
私は言った。
「通知そのものに、人を殺す力はない?」
「ない」
父は断言した。
「呪いでも予言でもない」
「じゃあ赤い文字は?」
勝手に浮かんだ文字。
水に濡れる紙。
消えて、
また現れる通知。
父は首を振った。
「そこは俺にも分からない」
「分からないのに、死なないって言えるの?」
「死ぬ仕組みだけは知ってる」
真壁が訊く。
「どういう仕組みです」
父は少し考えた。
「死亡通知には、三種類の人間がいる」
指を一本立てる。
「通知を受け取る人間」
二本目。
「その人間が選ぶ対象」
三本目。
「そして、実際に手を下す人間」
私は眉を寄せた。
「全部別?」
「別になることがある」
佐伯の通知。
名前は佐伯。
でも死んだのは息子。
運転したのは奈緒。
久我の通知。
名前は久我。
しかし久我は、
父を殺せば自分は助かると思わされていた。
「人を殺すための命令書……」
「そうだ」
父が言う。
「未来を当ててるんじゃない」
「じゃあ、午後十一時四十分は?」
「期限だ」
「何の?」
「誰かが結果を確認する時刻」
私は息を止めた。
死亡時刻ではない。
計画の締切。
「だから同じ時刻が何度も出る?」
「ああ」
「でも、本当にその時間に死んだ人もいる」
「死ぬように仕組まれてるからだ」
真壁の目が鋭くなる。
「組織的犯行を示唆していますか」
「少なくとも一人じゃ無理だ」
父は答えた。
「戸籍を触れる人間」
「病院の記録を触れる人間」
「会社の事情を知る人間」
「俺たちの過去を知る人間」
指折り数える。
「全部を一人でやるのは難しい」
私は佐伯を見る。
市役所。
柿崎を見る。
病院。
榊原。
会社。
そして父。
全員が十五年前から繋がっている。
「七人が協力してる?」
父が首を振る。
「逆だ」
「逆?」
「七人は、お互いを信用してない」
それは分かる。
皆、
少しずつ違うことを言う。
そして、
少しずつ嘘をつく。
「だから死亡通知が使える」
父は続けた。
「全員が相手を疑ってるから」
誰かが死ねば、
残った人間を疑う。
誰かの名前で通知が届けば、
その本人を疑う。
母の名前。
私の名前。
父の名前。
犯人は、
名前を借りている。
「じゃあ父さんは」
私は三枚目を見る。
「自分が刺されるとは思ってない?」
「刺そうとする人間は来るかもしれない」
「怖くないの?」
「怖いよ」
初めて、
父がそう言った。
「死ぬのは怖い」
「だったら」
「でも紙は怖くない」
父は私を見る。
「怖いのは、この紙を信じた人間だ」
玄関に刺さった包丁。
誰かが、
父の死亡通知を現実にしようとしている。
「父さんを刺す人が来る?」
「たぶんな」
「誰?」
「通知を受け取った人間」
私は考えた。
三枚目の裏。
父は誰か一人を選べる。
選べば、
自分の死亡は取り消される。
父が選ばないなら?
「選ばなかったらどうなるの」
「昔と同じなら」
父が言う。
「誰かが俺を殺せという通知を受け取る」
背中が冷たくなった。
知らない誰かが、
自分が助かるために父を刺す。
「そんなの止めなきゃ」
「だから俺を隔離する」
真壁が頷く。
「少なくとも九月六日までは警察で保護できます」
「それで終わる?」
私が訊く。
父は首を振った。
「終わらない」
「どうして」
「俺が死ななければ、代わりが出る」
佐伯の息子。
久我。
これまでと同じ。
「だったら、どうすればいいの」
「通知を止めるしかない」
「だから誰が作ったの!」
私は声を荒らげた。
「父さんは仕組みを知ってる。母も知ってた。柿崎先生も知ってる」
柿崎が目を開ける。
「なのに誰も名前を言わない」
私は三人を見る。
「どうして?」
父は黙った。
私は気づく。
「名前を知らないんじゃない」
誰も答えない。
「犯人一人を探しても意味がないんだ」
父の目が動いた。
「そうなんでしょう?」
「……ああ」
「じゃあ何なの」
父がゆっくり立ち上がった。
「澪」
「何」
「死亡通知を始めた人間と」
一度、
言葉を切る。
「今、死亡通知を送っている人間は別だ」
私は息を止めた。
「最初の人は誰」
父は答えない。
「十五年前?」
「ああ」
「母にも届いたんでしょう」
「ああ」
「なら母も被害者じゃないの?」
父は苦しそうな顔をした。
「そこが違う」
「何が」
「最初の死亡通知は」
父が言う。
「千佳に届いたんじゃない」
私は固まった。
これまで見つかった、
十五年前の母宛ての死亡通知。
警察資料にもあった。
母のカルテにも、
死亡通知を持参したと書かれている。
「どういう意味?」
「最初から千佳の名前は書かれてなかった」
「じゃあ誰の?」
父は答えた。
「千佳が自分で書いた」
頭が追いつかない。
「母が?」
「ああ」
「でも父さん、死亡通知を作ったのは母じゃないって」
「今の通知は違う」
「十五年前は?」
父は拳を握った。
「最初はただの紙だった」
「ただの紙?」
「死ぬ日も、死因も、選択欄も」
父の声が震えた。
「全部、千佳が考えた」
私は何も言えなかった。
母は死亡通知を送った人間ではない。
そう信じ始めていた。
少なくとも、
今の連続死については。
でも。
十五年前、
死亡通知という仕組みそのものを作ったのが、
母だったとしたら。
「何のために?」
私は訊いた。
父は目を閉じた。
「七人に、真実を話させるためだ」
「何の真実」
「二つの家族のこと」
私と、
ひかり。
そして一人しかいないはずの新生児。
父は続けた。
「千佳は誰かを殺すつもりなんてなかった」
「じゃあ、ただ脅した?」
「ああ」
「でも人が死んだ」
「そうだ」
「どうして?」
父は私を見る。
「誰かが千佳の作った遊びを――」
唇を噛んだ。
「本物にした」
部屋が静まり返った。
私はようやく分かった。
現在の犯人は、
母のやり方を真似している。
十五年前の秘密を知り、
母が作った死亡通知を再現し、
今度は本当に人を殺している。
「父さん」
「何だ」
「最初に死亡通知を作ったのは」
父は逃げなかった。
そして、
はっきり言った。
「千佳だ」
胸の奥が冷たくなる。
父が続けた。
「これは――」
一度、
私を見る。
「千佳が始めたことだ」
コメント
1件
うわあああ第27話読み終えたよ…!!😭💦 父さんの「死ぬ仕組みは知ってる」って冷静な口調、めっちゃ怖かった…。でも「紙は怖くない。怖いのは信じた人間」って言葉がめちゃくちゃ心に刺さった…。 そしてまさかの母・千佳が最初の死亡通知を作ったって衝撃すぎる…!!「ただの遊びを本物にした誰か」って、そいつが今の真犯人なんだろうな…。澪の気持ち考えたら胸が苦しいよ…。次の話が待てないよ〜!!🌸