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瑠璃マリコ
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#シークレットベビー
#シークレットベビー
朝永ゆうり
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その男性を見た瞬間、私の周りの景色と喧騒が、ピタリと止まったように感じた。
──橋本 夏樹。
八年前、恋人がいるのにも関わらず、私が好きになってしまった男。
さらに言うなら、一度だけ身体の関係を結んだ男でもある。
短めの黒い髪をオールバックにさせ、眼光鋭い一重の瞼に、冷酷そうな面差しは、当時と変わっていない。
突然用意された再会の幕開けに、私の足は固まってしまった。
声を掛けようか、それとも、このまま素通りしようか。
けれど彼は私の事なんて、とうに忘れ去られているかもしれない。
夏樹さんにとって、私は、数多くの教習生の一人に過ぎないのだから……。
逡巡した後、気持ちを沈めようと短く息を吐き出すと、黒のストレートロングヘアを手で梳かし、漆黒の瞳を二〜三回ほど瞬きさせて一歩を踏み出す。
夏樹さんに近付くたびに、動揺する心とは裏腹に鼓動が加速していくと、背中に汗がじんわりと滲んだ。
「…………村下さん? 村下 由恵さん……だよな?」
夏樹さんとすれ違いざまに、低くて落ち着いた声音が、遠慮がちに私の肩へ落とされる。
「……え? はっ……橋本……さん……ですよね?」
「やっぱり村下さんだったか。久しぶりだな。元気だったか?」
夏樹さんが、強面の表情をクシャリと崩し、目を細める。
まさか、彼が私の事を覚えていたなんて思いもしなかったから、ただ焦ってしまった。
「お久しぶりです。橋本さんも……お元気そうで……」
喉はカラカラに渇き、言葉がうまく出てこない。
私の表情は、きっと作り笑いしながらも、引きつっているだろう。
「今も立川に住んでんの?」
「ええ。仕事が終わって、帰宅するところで……」
「車は…………運転してる?」
「時々ですが……乗って……ますよ」
久しぶりに交わす夏樹さんとの会話が、あまりにもぎこちなくて、心の中で苦笑する。
それ以降、会話は途切れてしまい、私と夏樹さんの間に沈黙が落とされた。
コメント
1件
よかったです…! 橋本夏樹という、かつて好きで一度だけ関係を持った男性との再会シーン、めちゃくちゃドキドキしました。彼の方から「村下さんだよな?」と声をかけてきたのが意外で、逆に読者として胸が高鳴りましたね。教習所の先生と教習生という設定も効いていて、過去の関係性が気になりすぎます。この後の展開、すごく楽しみです!