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翌朝瑠璃子は元気に飛び起きた。

昨夜の大輔との電話は30分以上も続いた。大輔は淋しがっている瑠璃子が満足するまで電話を切らないでいてくれた。

そのお陰で瑠璃子はすっかり元気を取り戻していた。


この日休日の瑠璃子は10時に秋子の家へ行く予定だ。

今日は秋子から染色のレクチャーを受けるので瑠璃子は楽しみにしていた。



その頃大輔は学会が開かれるホテルへ入っていた。仲間達と合流した後会場へ向かう。

学会は昼の休憩を挟んだ後、午後3時まで続いた。


学会が終わると、大輔は恩師や仲間達に挨拶をしてから先に会場を出た。そしてタクシーに乗った。


「南青山霊園までお願いします」


目的地へ着くと大輔はタクシーを降りて霊園の入口へ向かう。

大輔は医学部時代の親友で大学4年生の時に自殺をした原田浩二(はらだこうじ)の墓参りに訪れていた。


原田は東京出身で2年浪人した後大輔と同じ岩見沢医科大へ入学した。大輔は現役合格だったので原田は大輔よりも2歳年上になる。

二人はあっという間に意気投合し親友となる。2歳年上の原田は大輔にとって頼りになる兄貴のような存在だった。


しかし原田は大学3年の頃から大学を休むようになった。そしてとうとう留年してしまう。

大学に来ない日が続いた後、原田は突然帰らぬ人となった。そう、原田は自殺したのだ。


葬儀の後大輔が原田の親族から聞いた話では、遠距離で付き合っていた恋人と別れてから原田は精神が不安定になり鬱病を患っていたそうだ。

大輔もその事にはうすうす気付いていたので、時間が許す限り原田のアパートへ様子を見に行っていた。しかし大輔が行くと原田はいつも決まってこう言った。


「俺は大丈夫だ。心配するな」


今思えば大輔の前では強がっていたのだろう。そう思うともっと自分が踏み込むべきではなかったかと大輔は今でも悔やんでいた。


原田が死んでから、一時期大輔は医学の道を志す意義を見出せなくなっていた。

いくら医師が命を救う技術を学んでも、人は自殺によってあっけなくいなくなってしまう。それを目の当たりにした大輔はすっかり無気力になり大学を辞める事まで考えていた。

しかしそんな大輔に寄り添い親身に相談に乗ってくれたのが村田教授だった。大輔は村田教授の説得や仲間達の励まし、その他様々な要因により最終的には大学に残る事を決意する。

そして現在大輔は名医となり多くの人々の命を救っていた。


大輔は墓地の近くにある生花店で花を買うと、亡き親友原田の墓へ向かった。

途中、すっかり葉が落ちて寒々とした木の枝が空へ高く伸びていた。その枝の向こうには澄み切った真っ青な空が見えている。

大輔は原田の墓前へ行くと花を供えてから静かに手を合わせた。

寒々とした真冬の森では小鳥達のさえずりが響き渡る。時折乾いた音を立てながら落ち葉が風に飛ばされていった。遠くからは切ないようなカラスの鳴き声が聞こえてくる。


大輔は最後にもう一度墓を見つめると、一礼をしてからその場を後にした。



その頃瑠璃子は秋子の家で初めての染め物にチャレンジしていた。

エプロンをつけた瑠璃子は今大きな鍋の前にいる。今日は麻のストールを草木染で染めるようだ。


「今日はね、桜の木の枝を使って『桜染め』っていうのをやるわよ」

「桜染め? 木の枝で?」

「そう。素敵なサーモンピンクに染まるわよ」


桜の木の枝は以前秋子が公園で拾ってきたものだ。瑠璃子は木の枝から染物が出来るとは思わなかったので興味津々だ。


まずは鍋で木の枝をグツグツと煮込み染液を作る。染液の色が濃くなったら火を止めて中にある木くずを取り除き、再度火をつけて加熱しながら麻のストールを浸していく。

色ムラが出来ないよう時折鍋の中をかき混ぜて、その後少し放置する。この間に色が染み込むらしい。


待っている間、瑠璃子は秋子が用意してくれたお手製のランチをいただいた。

秋子は豚汁と炊き込みご飯で作ったおにぎり、煮物、そして自家製の漬物を素敵な器に盛り付けて出してくれた。


「うわぁ、まるで古民家カフェのランチみたいに素敵ですね」


瑠璃子は嬉しそうに美味しいランチをいただいた。


昼食後鍋の中を見ると、ストールは綺麗なサーモンピンクに染まっていた。色が落ちないよう最後にミョウバンで作った媒染剤に浸した後水洗いをしてからストールは完成した。


「あとはお家で乾かせばOKよ」

「うわぁ素敵! 使うのが楽しみです」


瑠璃子は上手く出来たのでご機嫌だ。


「春はヨモギを摘めばヨモギ染めも出来るわ」

「うわ、それもやってみたいです」

「じゃあ春になったら一緒にヨモギを摘みに行きましょうか」


瑠璃子は春が来るのが待ち遠しくなった。


秋子に礼を言ってから瑠璃子はマンションへ戻った。

部屋に入ると早速湿ったストールを干す。エアコンですぐに乾くだろう。

その日瑠璃子は嬉しくて何度も何度もストールに触れた。


明日瑠璃子は夜勤なので出勤は午後からだった。大輔も同じシフトだ。

という事は今夜は夜更かしが出来る。

そこで瑠璃子は今夜は読書に集中する事にした。


夜、ソファーに座って読書に夢中になっていると駐車場から音がした。しかし瑠璃子は読書に集中していて気付かない。

その時インターフォンが鳴ったので瑠璃子はビクッとする。

モニターを見ると大輔が立っていたので瑠璃子はびっくりして慌ててドアを開けた。


「先生、今帰りですか?」

「うん、ただいま」


大輔はあっという間に瑠璃子を抱き締めるとキスの雨を降らせる。

瑠璃子は何かを言いかけたが大輔の情熱的なキスに負けてしまいそのまま唇を重ねた。


その夜、二人は再び熱い夜を過ごした。



翌朝瑠璃子が目を覚ますと、隣で大輔がぐっすりと眠っていた。

大輔は昨夜東京から戻ったその足で瑠璃子の部屋を訪れそのまま泊まった。

テーブルの上には瑠璃子が好きな東京の店のクッキーが置いてある。大輔は瑠璃子が食べたがっていた懐かしい味をわざわざ買ってきてくれたのだ。そんな大輔の優しさが嬉しい。


瑠璃子はそっとベッドを抜け出すと身支度を整えてから朝食を作り始めた。

ベーコンエッグとサラダを作ったので、あとはコーヒーとトーストを準備すればOKだ。


瑠璃子が大輔の様子を見にベッドルームへ行くと、ちょうど大輔が目を覚ましたところだった。


「先生、おはようございます」

「う……ん、おはよう」


大輔はまだ寝ぼけた様子で答える。それを見てすっかり油断していた瑠璃子は、突然大輔に腕を引っ張られベッドに押し倒されると声を上げる。


「キャーッ!!!」


しかし大輔はククッと笑いながら瑠璃子の上に重なると再び瑠璃子を愛し始めた。

情熱的にもつれ合う二人の身体には朝の優しい光が差し込んでいた。



それから1時間半後、漸く二人は朝食を食べ始めた。


「すっかり冷めちゃいました」

「冷めても美味しいよ」

「ならいいけど」


瑠璃子は笑顔になる。大輔が帰って来た事が嬉しくてつい顔がにやけてしまう。


食事を終えて二杯目のコーヒーを飲んでいる時、瑠璃子が昨日作ったストールを持って来た。

そしてニコニコしながら大輔に渡す。


「さぁ、ここでクイズです。これはいったい何で染めているでしょうか?」


瑠璃子が楽しそうに出題した。すると大輔は深刻な顔を浮かべて悩み始める。


「うーん、ピンク色だからなぁ、何だろう?」


しばらく悩んだ末大輔はこう言った。


「桜の花びら」

「ブッブーッ」


瑠璃子は大輔が外したので嬉しそうだ。


「うーん、じゃあシソの葉?」

「ブッブーッ」


瑠璃子は更に満面の笑みになる。


「先生、降参?」

「うーん、そうだな、ピンクって他にないもんなぁ……うん、降参します」


そこで瑠璃子は嬉しそうに言った。


「惜しかったですねぇ、正解は『桜の木の枝』でしたー」

「えっ? 枝なの? だったら桜の花も正解じゃない?」

「ブッブー、駄目でーす」


勝ち誇ったような瑠璃子を見て思わず大輔が笑った。


「わかったよ。はいはい、瑠璃ちゃんの勝ちです」


そして大輔はストールをじっくりと見つめる。


「上手に出来たね」

「うんっ」


大輔が褒めてくれたので瑠璃子は嬉しかった。


出張帰りのままだった大輔は一度家に戻る事にした。

スーツ姿で玄関へ向かう大輔を見ながら瑠璃子は二人が出逢った日の事を思い出していた。あの日も大輔はスーツを着ていた。


大輔は玄関を出る前に瑠璃子にチュッとキスをする。


「じゃあまた後で迎えに来るよ」

「はーい」


瑠璃子は幸せに満たされた気分のまま笑顔で大輔を見送った。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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コメント

25

ユーザー

もう既に新婚さんのようなラブラブぶり💕🏠️👩‍❤️‍👨💕 二人とも 夜勤があるのに、もぅ~🤭♥️そんなに激しくて大丈夫?😘💏💕

ユーザー

もうこの幸せが羨ましすぎる!

ユーザー

だいすけー エッチしすぎー🤣 あ、ウソです。 🤭もっとしてもらってイイですー。︎💕︎💕︎💕ꉂ🤣𐤔

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