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#百合
うあな
565
#ゆあんくん
モコビリ ❨低浮上❩
36,645
翌朝。
紬は制服の前で立ち止まっていた。
昨日の夜から、ずっと考えている。
何を着たいのか。
どう見られたいのか。
考えても、はっきりしない。
ただ。
「男の子として見られるの、嫌なのかな」
自分で口にしてみても、しっくりこない。
嫌い。
そう言い切れるほどじゃない。
でも。
女の子として見られたら。
そう考えると、少しだけ胸が軽くなる。
その違いが、自分でも分からなかった。
学校。
休み時間。
女子が数人、鏡を囲んでいる。
「今日、髪どう?」
「いいじゃん」
「ほんと?」
紬は通り過ぎようとして、足を止めた。
鏡を見る。
自分もそこに映っている。
女子たちと同じ鏡の中にいるのに。
自分だけ違う場所にいるみたいだった。
「紬?」
声をかけられる。
「何?」
「ぼーっとしてたけど」
「……何でもない」
笑って、その場を離れる。
廊下の角を曲がる。
蒼真とすれ違った。
「……」
「……」
互いに一瞬見る。
「おはよう」
蒼真が言う。
「おはよう」
それだけ。
蒼真はそのまま通り過ぎる。
紬も振り返らない。
昔なら、もう少し話していた。
でも今は。
兄弟だから話す。
それ以上でも、それ以下でもない。
その距離が、いつからできたのか。
紬には分からなかった。
昼休み。
悠生が紬の机の横に来た。
「昨日の話」
「……何?」
「昨日、廊下で話してたやつ」
紬は黙る。
「無理に話さなくていいけど」
「うん」
「ただ、気になった」
「何が?」
「紬が自分のこと、変なのかなって言ってたから」
紬は机の上を見る。
「変だと思う?」
「思わない」
即答だった。
「でも、俺には分からない」
「……そっか」
「だから、分からないなら分からないままでいいと思う」
紬は少し笑った。
「悠生って、そういうところ変わらないね」
「何それ」
「昔から、変なところで真面目」
「悪かったな」
二人で少し笑う。
そのとき。
教室の入口を蒼真が通った。
紬と悠生が話しているのを見る。
足を止める。
ほんの一瞬。
そして何も言わずに通り過ぎた。
放課後。
紬は一人で帰ろうとしていた。
昇降口で靴を履き替えていると、蒼真が来た。
「帰る?」
「うん」
「……悠生は?」
「知らない」
「そう」
それだけ。
二人は並ばず、それぞれ少し離れて歩き出す。
家まで同じ方向なのに。
会話はない。
しばらくして、蒼真が言った。
「紬」
「何?」
「昨日の話」
紬の足が止まる。
「……聞いてた?」
「少し」
「そっか」
蒼真は前を向いたまま言う。
「無理に変わろうとしなくていいと思う」
紬は兄を見る。
「変わろうとしてるわけじゃない」
「じゃあ、何?」
「俺にも分からない」
「……そう」
蒼真は黙る。
紬は少しだけ苛立った。
「蒼真は?」
「何」
「俺のこと、どう思ってる?」
「普通に弟」
「そうじゃなくて」
蒼真が黙る。
紬は続けた。
「俺がもし、女の子みたいになりたいって言ったら?」
蒼真の顔が固まった。
「……やめた方がいい」
「何で?」
「危ないから」
「何が?」
蒼真は答えない。
「俺がどう生きるか、蒼真に決められたくない」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味?」
蒼真は口を閉じる。
言えるわけがない。
昔、自分に何があったのか。
何をされて。
何を怖がるようになったのか。
言えるわけがない。
だから。
「……男として生きた方がいい」
それだけ言った。
紬の顔から、表情が消えた。
「やっぱり」
「何が」
「蒼真は、俺のこと分かってない」
紬は先に歩き出した。
蒼真は追わなかった。
追えなかった。
「違う」
小さく呟く。
「分かってるから言ってる」
でも、その言葉は紬には届かなかった。
その夜。
紬はベッドの上で、昼間の言葉を思い出していた。
男として生きた方がいい。
なぜ。
蒼真は、どうしてあんな顔をしたのか。
自分が女の子として生きたいと思うことは。
そんなにおかしいことなのか。
スマホを見る。
悠生からメッセージが来ていた。
『明日、朝一緒に行く?』
紬は画面を見つめる。
少し迷ってから。
『うん』
と返した。
送信する。
胸が少しだけ跳ねた。
その感覚が何なのか。
まだ、紬には分からなかった。
コメント
1件
なんだろうこの胸のざわつき…😭✨ 紬が鏡の中で「自分だけ違う場所にいるみたい」って感じたシーン、すごくリアルで刺さったよ。それでいて悠生くんの「分からないなら分からないままでいい」って言葉にほっとした。蒼真兄の「危ないから」の裏に何か隠されてる感じも気になるし、最後に悠生くんからの「明日一緒に行く?」に「うん」って返した紬の胸の高鳴り、すごく大事な一歩だと思う…!