テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
16話 80スポット 薬草のにおい
入口を抜けた瞬間、
空気が変わる。
軽いのに、
胸の奥に残る。
リカは、
無意識に呼吸を整える。
長めの上着。
袖は手の甲まで。
歩きやすい靴。
腰元で、
電子マネーのキーホルダーが
静かに触れ合う。
前を歩くのは、
先生。
動きやすい服装。
足取りはゆっくりで、
何度も振り返る。
「離れないでね」
声は穏やかだ。
畑のそばで、
農家の人が待っている。
背中が少し丸く、
帽子を深くかぶっている。
服には土の色が残っていて、
手は大きい。
笑うと、
目が細くなる。
「今日は、
ゆっくり見ていって」
言葉も、
動きも、
急がない。
畑を歩く。
葉の高さが違う。
形も違う。
触ると、
指先に感触が残る。
においが、
強くなる。
乾いた香り。
苦さ。
少し甘い空気。
誰かが、
鼻を押さえる。
別の誰かは、
深く息を吸っている。
反応は、
はっきり分かれる。
建物の中へ入る。
棚に並ぶ袋。
刻まれた葉。
乾いた根。
リカは、
一つずつ目で追う。
嫌ではない。
でも、
身体が少し緊張している。
昼。
用意された食事が並ぶ。
量は少なめ。
色は落ち着いている。
一口食べる。
噛む。
飲み込む。
身体の奥で、
判断が始まる。
大丈夫。
でも、
続けたい感じではない。
農家の人は、
それを見ている。
「合う人と、
合わん人が
おるからね」
笑いながら言う。
先生は、
何も付け足さない。
外に出る。
風が通る。
それだけで、
肩の力が抜ける。
誰かは、
名残惜しそうで、
誰かは、
ほっとした顔。
帰りの準備。
四次元装置を操作する。
番号を入れる。
確定。
移動の瞬間、
胸の奥が
ゆるむ。
悪い場所じゃない。
でも、
ここは
通う場所じゃない。
リカは、
自分の感覚を
静かに受け取りながら
戻っていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!