テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#コメディ時々暗闇
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
1,074
NGS_ヘビーなしっぽ
142
#妖怪
百はな🍑
756
ワタシが視た『予知』の終着点は、すべて『災厄』という名の滅びに繋がっていた。これは避けられない未来。しかし――。その災厄に至るまでの道筋には、無数の枝分かれした選択肢が広がっている。
ワタシの役割は、この膨大な情報の海から、災厄を防ぐ可能性が最も高い『正解』を選び取り、現実を上書きすることだ。ゼフ先生の意志を受け継いだワタシが、ここで足を止めるわけにはいかない。
まずワタシは、影の能力を持つレイさんの情報をナンバーズへ流した。その後すぐにシオリさんへ接触し、覚醒者の秘密、来るべき災厄、そしてアレンさんがナンバーズへ志願した本当の理由を話した。
すべては、彼らを一つの『器』へと集めるための布石。
次の『正しい選択肢』は、能力を使用する事ができていない覚醒者五十人を煽動し、研究所を襲撃させることだ。そうして混乱を作り出せば、映像通り、ワタシは彼らの前に『導き手』として現れ、合流することができる。
ただ、一つだけ疑問がある。どの選択肢を選んでも、研究所でレイさんと戦う際、その『最後の一撃』の映像だけがノイズにまみれて視えないのだ。
……まぁ、いい。その時になれば、否応なしに知ることになるのだから。
次の『正しい選択肢』は、この国の女王――ガイアと接触することだ。彼女を盤面に引きずり出さなければ、災厄を防げる確率は極めて低くなる。ワタシはまず、ガイアにレイさんたち反逆者の情報を流した。災厄のことは伏せ、覚醒者の秘密と反逆者の殺意だけを提示する。
狙い通り、ガイアは自分の支配を揺るがす不純物の存在に、冷徹な怒りを燃やしてくれた。そうして直接会う約束を取り付けたワタシは、研究所でレイさんたちを導いた後、その足で王の執務室へと向かった。
「貴様が、トオルか……」
「はい。お会いできて光栄です、ガイア様。早速ですが、お話を」
ガイアの放つ圧倒的な圧力を、ワタシは無機質な微笑みで無効化した。ワタシの話を聞き、ガイアは反逆者たちへの怒りをより一層滾らせてくれた。
「彼らの作戦は、後ほどメールでお伝えします」
「……頼む。裏切るなよ、トオル」
ガイアの低く重い声が、執務室の空気を震わせる。
「もちろんでございます。ワタシは常に、強い者の味方でございますから」
あぁ、ワタシはまた、平気で嘘を吐いてしまう。ゼフ先生が見たら、きっと怒るだろう。けれど、先生が愛したこの世界を守るためなら、ワタシは世界中から恨まれる悪役にだって、喜んで成ってみせましょう。
次に向かうべきは、まだこの場にはいない『No.5』への接触。彼をナンバーズとしてハックし、災厄を止めるための決定的な弾丸になってもらう必要がある。
「どうも。初めまして、バードさん」
「……誰だ。なぜ、俺の名前を?」
ワタシは、後に『No.5』と呼ばれることになる男、バードにこれから起きるすべての予知を話した。
「なるほど……。信じられない話だが、あんたの言う通り、覚醒者が現れ始めている。……それで、俺に災厄を止める手伝いをしろと?」
「ええ。ワタシが視た数ある選択肢の中に、あなたは必ず存在しました。だから、ここへ来たのです」
「……分かった。今の仕事にも飽きてきたところだ。あんたの作戦に乗ってやるよ」
「ありがとうございます。バードさん。あなたが動くのは、ガイアを倒した後――世界が本当の絶望に直面した時です」
「了解だ……」
バードさんとの接触を終えたワタシは、その足でゼフ先生の眠る場所へと向かった。吹き抜ける風が、ワタシの『ワタシ』という仮面を微かに揺らす。
「先生。神はなぜ、ワタシを『予知』という不自由な檻に選んだのでしょう」
供えられたばかりの花に、新しい一束を添える。
「今日までの無数の選択肢。ワタシは、本当に正しい道を選べているのでしょうか。間違った絶望へ向かっていないか、不安でなりません。……あなたなら、どんな『正解』を選んでいましたか?」
当然のように、墓石は何も答えてくれない。レスポンスのない、静かな沈黙。それでもワタシは、かつてヒーローに救われたあの日と同じように、その背中を追い続ける。
「……見ていてください。きっと、いい未来が待っていますから」
墓所を後にしようとした時、背後から聞き慣れた声が届いた。
「トオル? ……いつもお花をありがとう。今、世の中は大変ね。覚醒者が現れて、みんな怯えているわ」
孤児院の先生――おばちゃんが、心配そうに空を見上げていた。
「おばちゃん、大丈夫。みんなで笑える日が、絶対にくるから。その時は、孤児院へご飯を食べに行くよ」
「……トオルが言うなら、本当に大丈夫ね。あなたの好きなオムライス、たくさん作って待っているから。いつでも、帰ってきなさい」
「ありがとう。……あぁ、きっと帰ってくるよ」
ワタシは背を向け、歩き出した。その背中に、二度と帰れないであろう温かな日常の幻影を背負って。
(……あぁぁ。ワタシは、大切な家族にまで嘘を……)
胃の奥が焼けるような罪悪感が、ワタシを侵食する。無数に広がる選択肢の中には、ワタシが犠牲になるルートが明確に展開されている。
覚悟はしていた。いつだって、死ぬ準備はできていたはずだった。
それなのに。この決戦直前のタイミングで、おばちゃんに会わせてしまうなんて。帰りを待つと言わせ、オムライスの約束までさせてしまうなんて。
「神様は……本当に、いつも意地悪だ」
それでも。ワタシはおばちゃんや孤児院の仲間たち、かつての同級生たちが幸せに生きられる未来を守りたい。ゼフ先生が、その命を賭してまで愛したこの世界を。
残酷で、意地悪で、不平等。……でも。だからこそ、足掻く命はこれほどまでに美しい。
――一週間後。
クワトルシティの境界線。朝日が不気味に照らす街の門を前に、ワタシは集まった四人の顔を見渡した。レイ、アレン、シオリ、カケル、ワタシが視た、数万の絶望の果てに見つけた唯一の希望たち。
「皆さん、集まりましたね」
ワタシは、鏡の前で何度も練習した、不自由なほど穏やかな微笑みで、これから彼らを地獄へ送り出す。
「クワトルシティ潜入作戦……開始です」
コメント
1件
第29話、読ませてもらいました。トオルの内面がぐっと深掘りされていて胸に沁みました。特に墓場での独白——「予知という不自由な檻」という表現、自分の能力をそう捉えているのが痛いほど伝わってきました。おばちゃんとのオムライスのやり取りも、帰れないと分かっていながら「きっと帰ってくるよ」と嘘をつく罪悪感がリアルで、苦しかったです。でもだからこそ、トオルが選び取ろうとしている未来への執念が際立っていました。次が気になります!