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駐屯地を出たのは朝だった。
空は晴れていたが、空気は冷たかった。
兵士たちが見送っていた。
隊長が言った。
「お気をつけて」
陽和は言った。
「はい」
兵士の一人が言った。
「また来てください」
陽和は少し迷った。
それから言った。
「機会があれば」
兵士はうなずいた。
本当にそう思っている顔だった。
門を出る。
道は細くなっていった。
木が少なくなる。
地面は固かった。
風が強かった。
レオルが言った。
「今日中に着きます」
陽和は言った。
「氷王の城ですか」
レオルはうなずいた。
それ以上は言わなかった。
ミナが言った。
「緊張してる?」
陽和は少し考えた。
「分からないです」
本当だった。
怖いのかどうかも分からなかった。
フィルが言った。
「祝福があります!」
陽和は言った。
「少しだけですけど」
フィルは強くうなずいた。
昼過ぎ。
遠くに影が見えた。
黒い塔だった。
近づくほどはっきりした。
石の城だった。
周囲には何もなかった。
木も少ない。
静かだった。
レオルが止まった。
「今日はここまでにしましょう」
陽和は城を見た。
まだ遠かった。
歩けば半日もかからない距離だった。
だが今日は行かないらしかった。
野営の準備が始まる。
レオルが地面を確かめる。
ミナが薪を集める。
フィルが祈る場所を決める。
陽和は座った。
やることがなかった。
しばらくして火が起こされた。
炎が上がる。
夕方だった。
空が暗くなっていく。
風は冷たかった。
だが少しましだった。
いつも通りだった。
ミナが火の前に座る。
「ここが最後ね」
陽和は言った。
「たぶん」
レオルが言った。
「明日、氷王の城へ入ります」
はっきり言った。
陽和はうなずいた。
「はい」
フィルが言った。
「歴史に残ります!」
ミナが言った。
「たぶん盛られるわね」
陽和は掲示板のことを思い出した。
ありそうだった。
火が揺れる。
しばらく誰も話さなかった。
暗くなった。
星が見えた。
空気は冷たかった。
陽和は火の近くに座っていた。
レオルも座る。
ミナも座る。
フィルも座る。
自然と近くなった。
陽和は言った。
「近くないですか」
ミナが言った。
「一番暖かい場所よ」
フィルが言った。
「祝福の中心です!」
レオルが言った。
「安心できます」
陽和は少し笑った。
火が小さくなる。
レオルが薪を足す。
炎が戻る。
暖かかった。
少しだけ。
陽和は城を見た。
暗い影だった。
明日はあそこへ行くらしい。
実感はなかった。
ただ静かだった。
しばらくしてミナが言った。
「ねえ」
陽和が見る。
「氷王倒したらどうするの」
陽和は考えた。
だが答えは出なかった。
「分からないです」
ミナは言った。
「でしょうね」
フィルが言った。
「勇者様の旅は続きます!」
レオルは言った。
「必要とされる場所へ」
陽和は火を見た。
炎が揺れていた。
暖かかった。
少しだけ。
この暖かさは明日も同じなのだろうと思った。
陽和は横になった。
鎧が少し音を立てた。
レオルが言った。
「着たままで」
陽和は言った。
「はい」
もう慣れていた。
目を閉じる。
風の音が聞こえた。
火の音も聞こえた。
暖かかった。
少しだけ。
氷王の城の前日だったが、
夜はいつもと同じだった。
それが少しだけ安心できた。