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華子にはドケチ男が似合ってるよ😄 父さま一気に結婚お待ちしております
元義姉の華子さん〜もう栞ちゃんへの執着無くそうよ。 特に自分が行きたかった大学に栞ちゃんが行ったのだって努力の賜物。もうアルバイトしてるファミレスまで来て恥晒し以外何者でもないよ😢 お父さんと園田さんはこのまま上手く行って欲しいね💗
華子です。 せっかく眼鏡の彼を選んだのに、お眼鏡には敵いませんでした。 華子です。 話す度に恥を晒しては、悦に浸るドМキャラです。 華子です。 今日、ファミレスのドリンクバーに負けました。 華子です、華子です、華子です…。
華子のテーブルへ行った栞は、テーブルにお冷を置きながら言った。
「いらっしゃいませ」
「あら、栞ちゃん、また会ったわね」
「こんばんは」
栞はあくまでも形式的に挨拶をした。
その時、華子と一緒にいた眼鏡の男性が口を開いた。
「ああ、彼女が、元義理の妹さんか」
「そうよ。あなたと同じ慶尚大生なの」
「君が慶尚大に行きたがっていたのを知ってて、嫌味っぽくわざと受験した妹さんだろう?」
「そうよ。他の大学を目指しているふりをして、しれっとこっそり受けてたの。ひどいでしょう? いつもそうやって嫌がらせをするんだから……困った妹なの」
華子は悲しげな表情を浮かべ、男性に訴えかけるように言った。
その態度に激しい怒りを感じた栞だったが、感情的になるのは相手の思うツボだと考え、深呼吸をしてなんとか心を落ち着ける。
そして、直也の本に書かれていた『ズルい人への対処法』を思い出そうとした。
●意見をはっきりと伝える
●時にはマウントをやり返す
●無視して早急にその場を離れる
今の状況には三番目の方法が適切だと判断した栞は、すぐに動いた。
「ご注文がお決まりになりましたら、テーブルの上のボタンでお知らせください」
それだけ伝えると、笑顔でその場を離れバックヤードへ戻った。
まったく反応しない栞を見た華子は、悔しそうに彼女の後ろ姿をキッと睨んだ。
栞がこわばった表情でバックヤードに戻ると、瑠衣が心配そうに声をかけた。
「あの客と、何かあった?」
「あの人、元義理の姉なの。私を挑発しにきたみたい」
「えっ? あの超自尊心が強いお姉さん? 栞に慶尚大を受けさせないように仕向けたって人?」
大学合格後、栞は瑠衣にすべてを打ち明けていたので、彼女はすぐにピンときたようだ。
「そう。思いっきり嫌味を言われたけど、私耐えたよ」
「偉いっ! 偉いよ栞~! フンッ、あんな女は私が追い返してやるわ! オーダーは私が取りに行くから、栞はここにいて!」
「ありがとう~瑠衣~」
栞が思わず瑠衣に抱き付くと、彼女は栞の背中をポンポンと優しく叩いた。
その時、華子のテーブルの呼び出し音が鳴ったので、瑠衣は栞にウインクをしてから向かった。
(瑠衣、ありがとう!)
栞は心の中でもう一度感謝した。
しばらくして瑠衣が戻ってくると、彼女は呆れ顔で言った。
「あの女さ、メニューを見ながら散々『美味しそうな料理がない』ってネチネチ文句を言った後、結局オーダーしたのはドリンクバーとケーキだけ! 馬鹿にしてるよね」
華子は昔からそうだった。食べ物の好き嫌いが多く偏食気味で、好んで食べるのは甘いスイーツばかり。今でもその嗜好は変わっていないらしい。
「連れの人は何を頼んだの?」
「ドリンクバーだけよ。ケチ男なんだから~…だったらファミレスなんて来なけりゃいいのにね」
「確かに」
華子が食事以外の目的で来店したのは明らかだった。
元義理の妹に嫌味を言うためだけにわざわざ来たのかと思うと、栞は彼女の執着心にゾッとした。
その時、店のドアが開き、また新しい客がやってきた。
「いらっしゃいませ!」
栞が振り向くと、栞の父・剛と園田美幸が入口に立っていたので、びっくりして思わず声を上げた。
「お父さん! どうしたの?」
「よっ、栞! 実は近くの店で食事をしてきたんだ。で、せっかくだからお前の顔を見て帰ろうと思ってさ」
「そうだったんだ~」
父・剛と美幸の交際は順調に続いていた。
二人はすでに4~5回デートを重ねていた。デートは主に、美術館や個展巡りをした後、食事をするのが定番らしい。
栞は思わず嬉しくなり、美幸に笑顔で挨拶をした。
「園田さん、銀座以来ですね! またお会いできて嬉しいです」
「栞ちゃん、こんばんは。急にお邪魔してごめんなさいね。ここでアルバイトをしているって聞いたら、どうしても寄ってみたくて。実は私の家、ここから近いのよ」
「え? そうなんですか?」
「もしお前のバイトが休みだったら、お茶だけして帰ろうと思ってたんだけど、タイミング良かったな」
「うん。あっ、立ったままでごめんなさい。お席にご案内しますね、どうぞこちらへ」
栞は、華子から離れた窓際のテーブルへ二人を案内した。
今、この店に華子がいることは、内緒にしておくことにした。二人に余計な気を遣わせたくない。
栞はメニューを渡し、「今、お冷を持ってきますね」と言い残し、一度バックヤードへ戻った。
バックヤードに戻ると、瑠衣が栞に聞いた。
「また知り合い?」
「ううん、あれは父」
「えっ? じゃあ、一緒にいるのは栞のお母さん?……な訳ないか。お父さんは再婚相手と別れたんだもんね」
「フフッ、あの人は、次のお母さん候補よ!」
「嘘! マジで? ひゃーっ、お父さんやるじゃん! すごく綺麗で優しそうな人だね~」
「うん! あの人、死んだ母に似てるの」
「えぇーっ、そんな偶然ってあるんだ」
「うん、ほんと運命としか思えないよ」
栞は嬉しそうに微笑む。
その後二人は、デザートのスイーツとドリンクバーを注文したので、栞は二人分のケーキを持ってテーブルへ運んだ。
その時、父が言った。
「栞のバイトは10時までだろう? 終わったら駐車場で待ってなさい。園田さんを送ったら、またここへ戻って来るから一緒に帰ろう」
「やった、ラッキー!」
「あ、私はすぐ近くなので送っていただかなくても……」
「いや、それはダメだ。暗い夜道は危険ですから」
「すみません……」
美幸は少し頬を染め、恐縮していた。
栞は、初々しい二人のやり取りを微笑ましく見つめた後、バックヤードへ向かった。
そして、歩きながら心の底でこう願う。
(あの二人が上手くいきますように)
栞がバックヤードに戻ると、瑠衣が飛んできて言った。
「あの女、帰ったよ!」
「え? いつの間に?」
「それがさぁ、超可笑しいの! 会計の時、眼鏡の男が割り勘にしようとしてさ、そうしたらあの女、顔を真っ赤にして怒っちゃってさぁ、思わず吹き出しそうになっちゃった。なんなの、あの二人? ドケチ男とファミレス割り勘デートなんて、栞の元義理のお姉さんも、落ちたもんだよねー」
瑠衣は涙を浮かべながら笑っている。
(きっと、お父さんたちに気付いて逃げたのね)
栞は、タイミングよく店を訪れてくれた父と美幸に感謝した。
バイトが終わり、栞が駐車場へ行くと父が待っていた。
「お父さん、お待たせ」
「お疲れ。じゃあ、帰るか」
剛はエンジンをかけ、車を発進させた。父の助手席に乗るのは久しぶりだ。
「園田さんと、上手くいってるみたいだね」
「ああ、なんかあの人とは気が合うんだよ。趣味のことや日常の些細なこと、とにかく何を話していても楽しいんだ。それに、自然体でいられてリラックスできる。そういうのって、結構大事だな」
「うん。リラックスできる相手っていうのは重要だと思うな」
その時、剛が急に真面目な顔をして娘に聞いた。
「栞、父さんこのまま園田さんと交際を続けようと思っているけど、いいか?」
「もちろん、いいに決まってるわ! 私、園田さんのこと大好きだもん」
「そう言ってくれて嬉しいよ。いや、念の為、もう一度お前に確認しておこうと思ってさ」
「お父さん! 私もう大人なんだから、娘のことなんか気にしないで、お父さんは自分の幸せをしっかり掴んでね」
栞が笑顔でそう告げると、剛は嬉しそうに笑いながら娘の頭をクシャクシャッと撫でた。
栞をマンションまで送り届けた剛は、そこからほど近い自分のマンションへ帰っていった。
部屋に戻った栞がカーテンを閉めようと窓辺に近付くと、満月に近い明るい月が静かに夜の街を照らしていた。