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第4話「裁判コント」
マサコは三十代半ばの女性裁判官。灰の法服を着て長い黒髪をきちんと後ろで束ね、鋭い目つきと真面目そうな表情が印象的だ。身長は高めで姿勢もよく、傍から見れば“完璧な権威者”。
だが彼女の中には四つの人格がいた。
一つ目は“厳格人格”。法律と条文を何より優先する。
二つ目は“共感人格”。被告人や証人の気持ちに寄り添いがち。
三つ目は“冷静分析人格”。淡々と証拠を整理するタイプ。
そして四つ目は“ユーモア人格”。真面目な場でもつい冗談を挟んでしまう。
この社会では裁判所の名簿にも「判事の同居人格リスト」が載っている。傍聴席の人々は、その日の裁判が“どの人格の割合で進むか”を予想するのが楽しみになっていた。
その日も法廷は満席。
マサコが槌を叩き、開廷を告げた瞬間、厳格人格が前に出る。
「被告人、あなたの行為は明らかに法律違反です」
冷たい声に傍聴席がしんとする。
だが次の証言で共感人格が交代し、涙目になりながら叫んだ。
「でも……この人も苦しんでたんですよね?」
弁護側は頷いたが、検察は頭を抱える。
すかさず冷静分析人格が出てきて、淡々と証拠を整理し直す。
「証拠Aと証拠Bには食い違いがある。論理的に考えれば有罪とは言い難い」
会場が揺れる中、突然ユーモア人格が顔を出した。
「ま、どっちにしても……裁判って緊張するよね!ここ笑うとこ!」
傍聴席から失笑が漏れ、被告すら肩を震わせる。
判決の瞬間、マサコの中で人格たちが議論を始めた。
「有罪だ!」
「いや、情状酌量で!」
「無罪に近い!」
「ギャグにすれば丸く収まる!」
結局、口から出たのは――
「本裁判の判決は……有罪、無罪、そして“もう少し様子見”とします!」
法廷は騒然。被告は目を丸くし、検察も弁護側も同時に「え?」と声を上げた。
だが社会は慣れている。判決は「多数人格の合意」が基本で、こうした“トリプル判決”も珍しくなかった。
傍聴席の一人がため息まじりに呟く。
「今日も裁判というよりコントだな……」
マサコは深く一礼しながら心の中でつぶやいた。
「次こそ、ちゃんとひとつにまとめたい……けど無理だろうな」