テラーノベル
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娘の樹里は、三年前の夏樹さんとの一夜で授かった子。
再婚も、子どもも諦めていた私の元に舞い降りた、小さな命の灯火。
妊娠を知った時、私は、シングルマザーでも、お腹に宿った赤ちゃんを絶対に産みたい、しっかり育て上げたい、と思った。
母や数少ない友人に相談すると、『なぜ緊急避妊薬を服用しなかったのか』とか、『彼に連絡を取って認知してもらえ』って異口同音に言われたけれど、彼の連絡先は、三年前の秘め事の後に削除したし、連絡の取りようもない。
ただ……好きだった男の人との子どもが欲しかったし、夏樹さんが私との間にできた子どもの存在を、知ってても知らなくても、どちらでも良かった。
周囲の猛烈な反対を押し切り、立川駅前にある立川産婦人科で女の子を出産。
夏樹さんの名前から一文字を頂き、樹里と命名。
育児は、私の想像を絶する大変さだったけど、母が私を育てていた時も様々な苦労があったんだろうな、と、親の気持ちが僅かではあるけど理解できたと思う。
産休と育休を利用して、一年半ほど前、仕事に復帰した。
「樹里、今日は保育園で何をして過ごしてたの?」
「んっとねぇ〜、あさは、ほいくえんのちかくの、こくえいこうえんまで、おさんぽしてぇ〜、それから、ほいくえんのなかでぇ〜、おえかきしたり、おうたをうたったよぉ〜」
「そうなんだ。楽しかった?」
「うんっ! とってもたのしかったよぉ〜! こんど、ほいくえんで、かいたえを、ママにみせてあげるぅ!」
「本当!? ママ、楽しみだなぁ」
立川駅のコンコースを歩きながら、樹里と保育園での出来事を話す。
あと少しで三歳になる娘は、夏樹さんに大分似てきて、大きすぎず、小さすぎない涼しげな目元は、彼の遺伝子を受け継いだのかもしれない。
私に似たのは、黒くて艶やかな長い髪だろう。
たくさんの言葉を吸収し、おしゃべりを披露したいのか、娘から表情を弾けさせながら話し掛けられた私は、小さな手をしっかりと繋いだ。
「ママ〜、だっこぉ!」
ペデストリアンデッキを下り、南口に出たところで、樹里が後ろに束ねている髪を揺らしながら、珍しく抱っこをせがんできた。
「もう……しょうがないなぁ。じゃあ、途中にある公園まで抱っこしてあげる。いい?」
「やったぁ〜!」
両手を大きく上げた娘を抱き上げると、ずっしりとした感触が両腕にのしかかる。
生まれた時は、三キロに満たなかったのに、この約三年間で樹里は確実に成長しているんだな、と思った。
娘の成長が今の私にとって、何よりも貴重で喜ばしい事。
多くの人が交錯する中を、私は樹里を抱き上げたまま、ゆっくりと歩みを進めていった。
娘は、高い位置から見下ろせる景色にキャッキャと声を上げて、楽しそうにはしゃいでいる。
樹里を抱っこしながら、他愛のないおしゃべりを交わした後、不意に視線を前方に移した瞬間。
視界の隅に、こちらを突き刺すような眼差しに、私の周辺の景色と喧騒が、スローモーションで流れていくように感じた。
#ハッピーエンド
瑠璃マリコ
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ひより
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#上司と部下
ゆうた
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コメント
1件
うわっ……このエピソード、すごく良かったです……🌙 樹里ちゃんとの日常が温かくて、ママの愛情がひしひしと伝わってくるシーンなのに、最後の「こちらを突き刺すような眼差し」で一気に空気が変わった感じがしました。過去の夏樹さんとの関係や、シングルマザーとしての覚悟も丁寧に描かれていて、胸がぎゅっとなりました。 樹里ちゃんの成長が喜びである一方で、この視線の主は誰なんだろう……続きがすごく気になります。💭