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秋子は順調に回復していた。そして次の週一般病棟へ移る。

もちろん瑠璃子は秋子の担当にしてもらい、毎日甲斐甲斐しく秋子の世話をしていた。

頼まれた物を自宅から持って来たり必要な物を買いに行ったり、入院生活で秋子が困らないようきめ細かくサポートしていた。


一般病棟へ移ってからの秋子は、大輔と瑠璃子をからかうほどの余裕も出ていた。

この日も朝の回診時に二人を見てこう言った。


「まあ、お似合いのお二人さん、名コンビね!」


そこで大輔がニヤッと笑って反撃した。


「大石さん、そろそろお待ちかねのリハビリが始まるので覚悟しておいてくださいね」

「岸本先生の意地悪っ! 私、運動は大嫌いなんですからリハビリは勘弁して下さい」


秋子は助け舟を求めて瑠璃子をチラリと見たが、瑠璃子が味方についてくれない事がわかるとガッカリする。

そんなしょぼんとした秋子を見た大輔と瑠璃子は声を出して笑った。


秋子のベッドにはいつも笑いが溢れていた。

そして数日後、いよいよ秋子のリハビリが始まった。高齢であればあるほどリハビリは少しでも早い方がいい。早く始めればそれだけ元の生活に戻るのも早くなる。だから大輔はなるべく早めにリハビリを開始したかったのだ。

最初は嫌がっていた秋子だが、孫のような年齢のイケメン理学療法士が担当についた途端大喜びで楽しく通い始める。

毎日熱心にリハビリをする秋子を見た二人は心から安堵していた。



翌日、揃って夜勤のシフトだった二人は午後から一緒に出勤しようとしていた。

瑠璃子が大輔の車に乗ろうとした時、秋子の家の前をうろうろしている70代くらいの男性に気付く。

気になった瑠璃子は大輔に言った。


「先生、ちょっと待っててもらってもいいですか?」

「いいよ」


瑠璃子は男性の傍に駆け寄ると話しかけてみる。


「大石さんに何かご用ですか?」


男性は驚いて振り向く。


「大石さんはお留守でしょうか? 昨日も伺ったのですがお留守みたいで…電話も繋がらないし……」


男性はやはり秋子と知り合いのようだ。そこで瑠璃子はもう一度聞いた。


「失礼ですが大石さんとはどのような…?」

「はい、私は以前同じ職場で働いていた江藤と申します」


男性はスラッと背が高く白髪の髪に口髭を生やしたとてもダンディなタイプだった。

そこで瑠璃子はピンとくる。


(もしかしてこの人は秋子さんが片想いをしていた相手?)


そこで瑠璃子は江藤に説明した。


「私、この近所に住んでいる村瀬と申します。大石さんは今、私が勤めている病院に入院されています。今からちょうど出勤なので、よろしければ病院まで一緒に行かれますか?」


それを聞いた江藤はかなり驚いていた。


「彼女は入院しているのですか? ご迷惑でなければ一緒に連れて行っていただけると助かります」

「ついでなので大丈夫ですよ。ではあちらの車へどうぞ」


江藤は停まっている大輔の車に気付き、運転席にいる大輔に会釈をした。

そして瑠璃子の後をついて車へ向かう。


「大石さんの前の職場のお知り合いなの。一緒に病院に行ってもいいですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます」


瑠璃子は後部座席のドアを開けると江藤を車に乗せた。

江藤は車に乗り込むともう一度大輔に向かってお辞儀をする。


「お忙しいのにお手数おかけして申し訳ありません」

「いえ、構いませんよ」


そこで瑠璃子は江藤に大輔を紹介した。


「こちらは大石さんの手術をされた医師の岸本先生です」

「大石さんは先日救急車でうちの病院に運ばれました。心筋梗塞ですぐに手術を受けましたが、手術は成功し今はもうリハビリを開始していてかなりお元気になられていますのでどうかご安心下さい」

「そうでしたか。それは良かった……」


江藤は少し安心したようだ。

そして車は病院へ向かった。



面会開始の時刻はもう過ぎていたので、病院へ着くと瑠璃子は私服のまま江藤を病室へ案内する。

瑠璃子が私服のままナースステーションに来たので同僚達が不思議そうな顔をする。


「瑠璃ちゃんどうしたの?」

「江藤さんのお知り合いがお見舞いに来られたのでご案内しようと思って」

「ああそういう事!」


そこで江藤を見た同僚達は次々に声をかける。


「こんにちはー」

「ごゆっくりどうぞー」


面会の受付で名前を記入し面会バッチを着けた江藤は瑠璃子と病室へ向かった。


「こちらのお部屋の窓際のベッドですよ」


瑠璃子は江藤にそう説明すると「失礼します」と声をかけてから病室へ入った。

窓際のベッドへ行くと本を読んでいた秋子が顔を上げて瑠璃子を見た。


「あら瑠璃子さん、今日は私服でどうした……」


そこで秋子の言葉が止まった。秋子は瑠璃子の横に立っている江藤を見てびっくりしていた。

すると江藤が穏やかな声で言った。


「真冬の北海道が見たくてね…ついでに君の家にも寄ってみたら、いないんだから参っちゃったよ」


江藤は真剣な眼差しで秋子を見つめる。その瞳は少し潤んでいた。

そこで漸く秋子は口を開いた。


「タイミングが悪い時に来ちゃったわね。あなたはいっつもそう。相変わらず変わってないわ」


秋子の瞳にも涙が滲んでいた。

見つめ合う二人を残したまま、瑠璃子はそっと病室を後にした。


二人の様子を見た瑠璃子は、思っていた以上に二人の親密度が高い事を知る。そして秋子と江藤は互いの事を知り尽くしているようにも思えた。


もしかしたら秋子の片想いに江藤は気づいていたのではないだろうか? 瑠璃子はふとそんな気がした。


ロッカールームへ続く廊下を歩きながら瑠璃子は急に涙がこみ上げてきた。

死の淵を彷徨った秋子は、今最愛の人に再会したのだ。それだけで瑠璃子の胸が熱くなる。

今の秋子の心境を思うと泣けて泣けて仕方ない。

瑠璃子は次々とこぼれてくる涙を手のひらで拭いながら、なんとか平静を装って歩き続けた。


その時大輔がこちらへ向かって来た。

大輔は涙を拭きながら歩いている瑠璃子を見て驚いていたが、すれ違う瞬間瑠璃子の腕を掴むとひと気のない階段の踊り場へ瑠璃子を連れて行った。そして瑠璃子をギュッと抱き締める。


「うぅっ、せ、せんせいっ……私……うぅっ……」

「いいから……」


大輔は瑠璃子をギュッと抱き締めながら頭を優しく撫でてくれた。

瑠璃子は優しい大輔の温もりを感じながら、声を押してしばらくの間泣き続けた。

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